第20話「お墓デート」
次の日────。
「あーよく寝た!」
「……アンタ寝過ぎよ」
農業都市の宿でぐっすり眠ったゲイルと、そこそこ眠れたモーラは示し合わせて宿を出た。
「いや~。なんか、百草っていうの? 布団の下のクッションがいい香りでさー」
「あ、わかる。なんか枕も良い奴だったわね。……蕎麦殻入りとか言ってたかしら」
「そーそー! それそれ! そして、シーツもお日様の匂いがしてさー」
「ふふ。寝具だけでゲイルってば幸せそうねー」
クスクスと上品に笑うモーラは、先日よりも随分打ち解けている気がする。
「そりゃあなー。カッシュ達といるときはあんましゆっくり寝る時間もなかったし」
「あー…………」
雑用と内職の日々を思い出し少し顔が曇るゲイル。
「ま、もうそういうことは忘れちゃいなさいよ」
「そうだな。……ここは思った以上にいいところっぽいし、第二の冒険者生活はここでエンジョイしてもいいかもなー」
「ん。そこは同感ねー。食事も美味しいし、気候もいい────人もなんだか穏やかよね」
「そーそー! 宿のオバチャンなんか弁当まで作ってくれたぜ」
「んね~。朝食も美味しかったー」
二人でキャッキャと会話しながらダンジョンに向かって進む。
特に打ち合わせもなく、まるで、…………デート気分だ。
「わかるわかる! ザワークラウト滅茶苦茶うまいし、ソーセージもすっげぇ肉々しい肉だった!」
「あのスモークした奴よね! 超美味しかった! パンも柔らかいし」
「うんうん! 白パンなんて貴族が食べると思ってたよ」
「ねー。ここじゃ、農閑期以外は皆アレ食べてるんですって」
「「いーなー!」」
ケラケラと笑いながら、農業都市の郊外へと向かう。
新しい冒険者というか、新入りが珍しいのか、
──街の人々の視線を時々感じるが、敵意なんかは全く感じない。
ギムリーの言う通り、冒険者の数も少ないのか、農業の向かう町の人々以外は人通りも少なく、武装した衛兵のほか、剣や槍を持っているものはほんのわずかだった。
「平和ねー」
「でも、クエストはいっぱいあったぞ? 多分、冒険者がいなくて困ってるのは本当なんだろうな」
農業都市というだけに、街の周辺は広大な農地に囲まれていた。
平地がどこまでも続き、起伏と言えば丘程度。その丘も転作を行っているのか、農地と放牧地でモザイク状になっていた。
「多分、街が広すぎていくら人出があっても追いつかないんだと思う」
「あー……なるほど」
確かに地平線いっぱいまでが農地だ。
街の人々は都市だけでなく、種々点在する農村にも住んでいるらしい。
農業都市はそういった農家の人々が交易の拠点や、加工品を作る際により集まってできた都市だという。
行ってみれば巨大な田舎の集合体が農業都市『ファームエッジ』なのだろう。
「こりゃ、当分仕事にはあぶれなさそうだなー」
「アタシは組めそうなパーティがいるといいんだけどねー」
後衛職同士でパーティを組むのは無理があるので、モーラと組むのは今日限りだろう。
それを想うと少し寂しくはあるが、同じ宿にいることだし、広いとは言っても田舎も田舎。
どこに行っても会う顔ぶれは近しいらしいので、きっといつでも会える。
「じゃ、まずは景気づけに今日のクエストをサクサク完了しちゃいますかね」
「あー……そうだった。今日はアンデッド退治なのよねー」
途端にどんよりとするモーラ。
昨日早々に宿に戻って飯を食ったら寝てしまったゲイルだが、モーラは何かと準備をしていたらしく、背嚢や腰回りのベルトなどの余積にたくさんのマジックアイテムを準備している。
聖水、
魔よけのお香、
それに銀のナイフか────……。
「モーラは心配性だなー」
「な! そ、それは普通の準備よ!」
ゲイルの視線を感じて慌てて腰回りを隠すようにするが、まったく隠せていない。
「大丈夫だって。ホントにアンデッド系は俺の得意分野なんだぜ?」
だって、素材ですもの。
ゲイルからすればモンスターというよりも、動く素材ですものー。
「はー……。余計に心配だわ。……何かあったら逃げるわよ?」
「うん。そうしてくれると助かるかな。さすがに俺みたいな後衛職が
無茶苦茶不安そうな顔のモーラに苦笑しつつ、何だかんだで農業都市郊外の集団墓地────地下墓所に到着したゲイル。
一昔前には墓守もいたらしいが、今は無人となり閑散としている。
小さな小屋は何かに荒らされたのかドアが破壊され仲が風雨にさらされて滅茶苦茶だ。
そして、小高い丘全体が墓所だというそこは、やや低めの白い漆喰の壁に囲まれた巨大墓所となっていた。
「うわー……これは酷いわね」
微かに漂う腐臭。
じっと目を凝らせば白骨や腐乱死体が散らばっているのが見えた。
それが墓所から沸きだしたものの成れの果てか、はたまた町の住民が慌てて埋葬したものかはわからない。
元々地下のダンジョンを再利用して作った墓所らしいのだが、大昔にダンジョンのボスを倒して以来、平和的に墓所として利用していたのだとか。
しかし、時を経るに従い、安置した遺体が起き上がり、徐々にダンジョン化が進行し、ついにはリッチやらグールやらが徘徊するダンジョンに変貌してしまったという。
それ以来まともに墓参りも遺体の安置もできなくなり、街に人々は困りに困り果てているのだとか。
今は葬儀のたびに昼間だけ丘の中腹などに穴を掘って土葬を行っているが、そろそろ土地がなくなりつつあるのだとか……。
そして、今の現状────。
「う~ん……いくつかの死体はアンデッドだね。今は日光で休眠しているけど、夜になったら動くかもしれない」
「え゛!」
敷地に入ってすぐのところに散らばっていた白骨を観察していたモーラが飛び上がってゲイルにしがみつく。
「お、おおおお、驚かせないでよ!」
「いや、ほんとだよ」
ホラ──と言って、散らばってい頭蓋骨をひょいッと拾い上げると、
『コ、カッカッカカカカ…………』
と口をパクパクとあけるじゃないですか!!
「ひぃ!!」
「あ、ゴメン。そんな驚くと思わなくて──」
バツが悪そうに頭を掻き、スケルトンをポイっと投げ捨てるゲイン。
「もっと進化した奴なら日光の下でも動くんだけどね。……墓所がダンジョン化してまだ日が浅いみたい。多分浅層には下級のアンデッドしかいないよ」
そういってズンズン歩いていくゲイル。
「ちょ、ちょっと置いていかないでよ!」
その後を置いていかれてたまるものかとモーラが必死でついていく。
「大丈夫だって──。下級の素材はあまり使えないから、一気に奥まで行くからね」
「誰も素材の話してないんだけど……」
どこかずれたゲイルの態度に顔を青くしたモーラがおっかなビックリついていく。
そして、丘の頂上に到達すると、
「ここが入り口か。内部の地図があるから楽勝だね」
「いや、ちょっと……。もっとほら、聖水かけたりとかしないの?」
暗い口を開ける墓所に入口をビクビクとしながらモーラが覗き込んでいる。
「聖水? なんで? もったいないじゃん。はい、ランタン」
「いや、ちょ────」
そういうが早いか、スルリと墓所に潜り込んだゲイル。
まったく警戒も何もない。
鼻歌でも歌いださんばかりにズンズンとそりゃもうズンズンと──。
ランタンだけを灯してあっという間に墓所を下って行ってしまった。
それをモーラが呆気に取られてみている。
ついていっていいのかなー……と。
しかし、振り返った丘は死体の散らばる気味の悪い無人地帯で、そこを一人で引き返すのも滅茶苦茶怖かったので、
「ちょっと待ちなさいよー!! ああ、もう!!」
覚悟を決めてゲイルについていくのだった。
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