第9話「元パーティの近況」

 一方、露店の怪しげな青年こと──ゲイルは飯を食っていた。


「いやー。俺、商才あるんじゃね?」

 財布の中身をパンパンに膨らませたゲイルはホクホク顔でギルドに併設されている酒場で早めの晩飯をつつく。


 冒険者定食の大盛


 皿に盛った、香辛料を利かして炒めたライスに、川魚の串焼き付き。

 薬草風味のサラダと、出がらしの茶がついて──銅貨5枚。


「うん、旨い!」


 安くて量が多いだけが取り柄だが、商売で疲れた体に塩味が染みわたる。


「──はぁ、一人になってどうなるかと思ってたけど、案外やれてるな。とりあえず路銀は稼げたし、そろそろ街をでようかな」


 カッシュ達に言われたまま動くのも癪だったが、実際その通り露店で稼ぎ、最低限金を稼ぐことができた。

 しかし、これはあくまで一時しのぎだ。


 本職は冒険者──そして、呪具師なわけで、けっして怪しい露店のあんちゃんではない。


「材料も手に入れないとなー。店売りのものじゃ、大したもの作れないし」


 大したものでないと言いつつ、アーティファクト級を作って売ったことなど思いも至らないゲイル。

 

「……よし! そうと決まれば明日にでも街を出よう。何かいい感じのクエストを受けつつ、どこか別の町にいったん落ち着こうかな」


 そして、仲間を募ったり、冒険者を続けてお金を貯めてゆくゆくは店を持つ。

 今日の売り上げを見る限り、決して不可能ではなさそうだ。


「うっし! ごっそさん────っと、やべ」


 ゲイルはコッソリ隠れるように食器を返納すると、こそこそとギルドの隅に移動する。

 なんでって?


 そりゃ、見たくない顔があるからだ。



 それはもちろん────。



「おい! どういうことだ?! なんで融資できないッ」

「そーよそーよ! 私たちはSランクよ! 金貨の10枚や20枚、ぽぽーんと貸しなさいよ!」


「いやーあのですね。言いにくいんですが、」


 壮年のギルド職員が困った顔で言う。


「融資どころか、まず違約金を払ってもらわないと……。このクエスト、全然進行してないですよね?」


 そういって、いくつかのクエストの写しをピラピラと振る。


「う……! そ、それは──……だ、だが! まだ時間があるじゃないか!」

「いや、それはもちろんそうですが──……依頼人に会われました? A級の魔物がウジャウジャいるとはいえ、Sランク冒険者が来てくれると信じて先方はずっと待ってたらしいですよ? それが今日になっても来ないということで苦情がきてるんですよ」


 ベヒモス退治の依頼を出したという、例のやつらしい。

 依頼人は辺境伯からのもので、戦闘部隊を待機させていたとか?


 ……が、そのSランクパーティが来ない。と──。


「何やってんだカッシュのやつ?」

 隅に隠れながらそーっと逃げ出そうとするゲイルだが、その時カッシュ達の顔がチラリと見える。


「うわ。ひっでー面……」


 まるでオーガの大群とやりあった後とでもいうかのように、晴れ上がった顔。

 メリッサとノーリス、ルークも顔面陥没で「*」みたいになってる。


「そ、それはだな……! か、街道に予想外のモンスターがでたんだ! 仕方ないだろ!!」

「予想外って……オーガですよね? たしかにA級モンスターですけど──『牙狼の群れウルフパック』はSランクじゃなないですか」


「あれはオーガの変異種だ!!」


※ 注:ただのベジタリアンのオーガです ※


「いえいえ、知ってますから──カッシュさん達、城門近くまでオーガをトレインしてきたじゃないですか。めっちゃ見えてましたよ」



「「「「う……!」」」」



「それにほかにも色々やらかしてますよね? ギルド舐めてます?」

 だんだんイライラし始めたギルド職員。


「な、舐めるだ、と────て、テメェ……」


 顔を真っ赤にして怒りをこらえるカッシュ。


「これ、ギルドが紹介したモーラさんの脱退届。前代未聞ですよ、数日で脱退だなんて──……そして、」


 ぱらっ。


「宿屋の銀狼亭から苦情申し立てと、請求書来てますよ。ギルドで立て替えておきましたけど────」


 ジロリ。


「「「「うぐ……!」」」」


「で────なに? 融資? もっかい言ってみ、ん?」


 ギロリ!


 ギルド職員の圧が半端ねーっす。

 はたから見てるだけで怖い。


「ぐぐぐぐぐ…………。そ、そうだ! これは全部ゲイルの仕業なんだ!」

「そ、そーよ! アイツ逮捕してよ! 今すぐ」

「その通りです。ゲイルさんが我々に何かしたんですよ。間違いありません」

「そーだ! 何か知らんが全員のステータスがガタ落ちで、バフすら効果が薄い! っていうか、お前らの紹介したモーラはとんでもなく使えない女だったぞ! デカかったけど」


 うんうん、デカいデカい。

 とそこだけは同意する男3人。「ちょっとアンタら……」


「……何言ってんですか? モーラさんは支援術師としては王都で5本の指に入るくらい優秀な女性ですよ? いざこざで前のパーティを抜けることになりましたので、代わりの優秀なパーティとして紹介したんですからね?!」


 え?

 あの子、抜けたの?? まさかねー……。


「……あと、ゲイルさんが悪いとか、意味が分かりませんよ。あれほど見事な呪具師はそうそういませんからね。解呪の呪符──あれだけで、どれほどの価値があるか」


 しみじみと頷くギルド職員。

 そういえば、たまに内職で解呪の呪符作ってたな。

 カッシュのやつ、渋賃で全然給料くれないから……。


 だって、あれ簡単に作れるし。


「もういいですか? 融資うんぬんより、まず借金返してからにしてくださいよー」

「しゃ、借金?!」


 宿代の領収書を突き付けられぐうの音も出ないカッシュ達。


「ぐぬぬぬぬ……。そんな借金すぐ返してやらぁ! おい、行くぞ」

「ちょ、ちょっと、ゲイルはどーすんのよ?!」

「カッシュさん、まず仕事を探しましょう。さすがにベヒモスは……ゴニョゴニョ」

「そ、そうだぜ。ゲイルの仕掛けた呪いが解けるまで、クエストを見直そうぜ」


「うるさいッ!!」


 一喝すると、肩を怒らせたままカッシュはギルドを出て行ってしまった。

 オロオロとそれについていくメリッサたちだが、ルークだけは仕方なく、しょぼい採取系依頼を一つ二つ見繕っていた。


「おーい、まってくれよー!」


 そうして、カッシュ達の姿が見えなくなったところで。


「……あれが今のSランク?」

「──っていうか、くっせーな。風呂入ってんのかあいつ等?」

「しかも、あの顔──いったい何と闘ったんだ?」


※ 注:支援術師と、です ※


「わからねぇ、Sランクをボコボコにするんだから、きっととてつもない筋骨隆々な敵対冒険者か、オーガの群れとかじゃねーのか?」


※ 注:きょぬーの支援術師に単独でやられました ※



「カッシュたち、いったいどうしたってんだ? っていうか、呪いってなんの話だよ?」

 確かに、ステータス上昇させるために、こっそりバッドステータスが自分に跳ね返ってくる「呪い」は仕掛けていたけど──。もうとっくに解呪したぞ??



 いったいカッシュ達に何があったのだろうか?



「ま、いっか。なんか八つ当たりされそうな気配だし、鉢合わせする前に王都を出た方がいいな」




 くわばらくわばら。

 幾つかのクエストを引き受けると、ゲイルは早々に宿に引き返すのだった。





 しかし、そのころ王城でちょっとした事件が起こっていたのだが────。まだゲイルはそのことを知らない。

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