素敵な未来には、誰もいない

 大学の講義は、残った昼飯のメンチカツ弁当を翌朝チンして食べるときの味がする。この味わいを楽しむか、よく冷えたお茶で流し込むか。あるいは、腕を振るってうまい飯を作って食うか。料理はできないから、これは没。


 ある先生には「君は全部できるんだから、授業なんて内職しながら暇つぶせばいいんだよ。」と言われた。「それができりゃ、やってますよ」と返した。俺は生来真面目だった。真面目を演じるのが、唯一の防衛だった。


 ある院生には「君はもう一線級だよね。起業とかしてみたら?」と言われた。「ヒットポイントが足りません」と返した。俺には体力がない。病床に伏して過ごした数年間は、攻めるチャンスの前借りだった。


 生まれた日から、時計は止まったまま。もうずっと針音を聞いてない。無理に回すと壊れそうで怖い。閉鎖的な六畳内空間に居ると、広大な六畳外空間の模倣再現に脳の六割が使われるという。恐ろしい事だ。しかし、六畳外空間へ踏み出す勇気はない。


 脳内六畳外空間が良い近似であるとすれば、ドアの先に素敵な未来が広がってはいない。それだけが救いだ。少なくとも、誰かがいるのだから。

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