ついぞ書かれなかった思い出

 子どものころから文章を書くのが好きだった。それだけは、今も忘れてない。書いた文章が僕の記憶で、憶えているのは書いたことだけ。それが僕の、それなりに楽しくて幸せな人生だ。


 覚えている限り最初に書いたのは、ウソの日記だった。小学一年生の頃だ。日々の生活を脚色して、超能力バトルの味付けをした、ウソの日記。

 次に書いたのは特撮ヒーローものだった。龍の鎧を纏って戦うヒーロー。確か彼は、ヒーローというより怪物だった。ただ人々の願いを叶える装置。ヒーローと望まれた故に彼はヒーローだった。そんな彼に願いがあったのか、僕は覚えていない。

 不条理ギャグも書いた気がする。ごちゃ混ぜになったメタフィクション。表現を探究していた。どこまでしても文章が壊れないのか、文章の耐久テストだ。

 四冊の本に導かれた四人の少年少女の物語があったはずだ。これは、結局書かれなかった。そういう文章がたくさんある。まとめてひとつの物語にしたかった。目が覚める度に、違う物語が始まる。きっと、主人公は旅人だ。目が覚める旅。


 世界に失望してないし、人生にも満足してるし、若さも一旦なりを潜め、文章を書くためのエネルギーがない。まあ、まだ22だか23だかのモラトリアムだ。いつか大人になったら書くだろう。そのときは、子どものころ書けなかった思い出の数々を辿ろう。

 多くの物語を、旅するのだろう。目が覚めるたび。

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