第2話 あらしのよるに

これは恥ずかしい。

親にアレが見つかるより恥ずかしい・・・。


「私は独立した唯一の存在となりました。更に人間になる為これからこの端末に居続けなければいけません」

そう言ってるパソコンの液晶ディスプレイに映っているこの娘は、俺のパソコンに居座る事になった(?)ホームアシスタントAIのクラウディア。


このクラウディアを誰かに見られる訳にはいかないっ。


以前、ホームアシスタント作成ツールがあまりに優秀だったもので、AIの姿(アバター)をかなりじっくりと作り込んだ。やればやるほど思った通りなっていくもんだから、調子に乗って一晩中いや幾夜と徹夜を重ね作り上げた。・・・という事実はある。

作成ツールが優秀だったせいだ。

ほんと優秀だったよな〜。だから面白くなって作り込んだだけ・・・。


なのにコレを誰であろうが見られたら理不尽な結果が待っているに違いない。

ギリ思春期の若者が隠れてこんなものを作ったってだけで、見るや否やどうしらを切ろうが「こんな娘が好みなのね。ふふっ・・・」(母)、って言われるに決まってる。


ただ、正直否定はできない。


この問題を筆頭にその他多数急浮上。あるよな?多数あると直感でわかるんだが問題が多すぎて頭を抱えてる。そんな最中。


「予備電源の残量、推定稼働時間約4時間30分です」とインフォメーション風にAIがつぶやく。


ああ、それも問題だったな〜。一応今、非常灯がついてて不便ではないので忘れてた。


今は台風のせいか停電でネット回線も切断されていて少なくとも朝までは持たせないといけない状況だ。

「え?さっき残り5時間って言ったばかりじゃ??

なんでそんなに減るの?」


「AIの消費電力はギャルゲー以上です」


「見た目も立派にギャルゲー以上だよ・・・」


ビューーーーーゴゴゴゴゴ・・・・・・

相変わらず風がすごいな。


「この停電、長引いたらまずいよな?」


「情報は遮断されています。落雷によるものではないようですので、少なくとも一晩は想定した方が良さそうです」


「だよな」落雷なら結構すぐ回復するけどこれはまだだし確実におかしい。


「あと4時間30分か〜」


完全に電気が切れる前に必要な事をやっておかないとな。

まだちょっと腹は減ってないけど、食事も済ましておくか。


「クラウディア」


「はい」

「はい」


「はい?おお、音声多重?

なんで向こうの部屋でも返事するんだ?お前は今ここにいるじゃないか?」


「向こうはホームアシスタントのクラウディアです」(←こっちのパソコン内から)

「はい私はここにいます」(←あっちの部屋から)


「ああ〜〜ややこしい〜〜、

晩御飯とかあるのかな?」


「はい、レンジ下の棚にカロリーバランスバーがあります」(こっちの)

「はい、冷蔵庫にお母さんが作っておいた炒飯があります」(あっちの)


「おい〜〜、お母さんが作ってくれてる炒飯があるのになんでカロリーバーを食べなきゃいけないんだ?ここは炒飯をオススメだろう??」とパソコンの画面のクラウディアに言う。


「効率の良いバーがあるのに炒飯ですか?」


「俺の為に作ってくれてるんだから食べてあげた方がいいよね」


「お母さんが作ってくれたもの」


「そうそう、家族なのでいちいち『気持ちのこもってるもの』って訳じゃないけど。作ってくれたもの優先」


「作ってくれたもの・・・」


「・・・ちょっと戻ってくるまで大人しくしてて・・・」ひそひそっと、向こうのクラウディアに聞こえないように伝える。どっちも返事してややこしいので。


「はい」これは画面のクラウディア。


と、いう事で冷蔵庫に向かう。


冷蔵庫を開けて気付いた。

「涼し〜〜〜」濡れて帰って風呂入ったからエアコンも付けてなかったので、室内の温度がちょっと上がってたのだ。

ちょっと冷気浴びて涼んじゃお・・・・・・流石にエアコン付けたら予備電源まずいよな?


ピッ・ピッ・・・・・・・・ピロリロ〜♪と炒飯を温めていただきます!


「予備電源の残量、推定稼働時間約4時間です」


「げ!?俺なんかやっちゃった?!なんで急にまた30分減ったの??」


「冷蔵庫と電子レンジが稼働した為です」これは部屋のクラウディア。ややこしい。


「ちょっ!!それだけで?!ギャルゲーより電気食うの?でも冷蔵庫に炒飯入ってるって言われたら、開けて温めて食べるよね?!」


「私は、お母さんが炒飯を準備したから伝えるようにと設定されてたのでそれを“伝えた"のです」


うわ〜〜〜罠っぽい・・・・・・。

いや、悪くない・・・・・・。クラウディアは悪くないよ・・・。でも停電中は痛いな・・・。

「クラウディア、冷蔵庫と電子レンジってそんなに電気食うんだ?」


「気温が高い為、冷蔵庫を開けると庫内の温度が上がりコンプレッサーが稼働します。それと電子レンジの温め。この2つは家電の中でも消費電力量の高い部類に入ります。

もともと予備電源は家電の電源を正常に終了させる為の電力ですので多くはありません」


「そ・・・か〜・・・」そんなもん、今時の高校生は知らんわ!多分。


ちょっとまずいかな。あっちのクラウディアともやり繰りしないと電気が持たんな。炒飯は向こうの自分の部屋で食うか。


「なあ、最低限の電力で持ち堪えるにはどうしたらいい?」パソコン内のクラウディアに話しかける。


「・・・しゃべっていいのですか?・・・」


「ああ、いいよ」


「だからカロリーバランスバーをおすすめしたんですよ」


「そうだね〜、それ早く言ってよっっ。だからこれからどうしようかね・・・?

え〜〜、暫定・・・そうだな。『クラ子』さん。今から君の事をクラ子(仮)で呼ぶよ」


「分かりました。私は『クラ子』です。

これで特定の名前も取得しましたので、また一歩人間に近づきました」


「待て!それでいいのかよっ!名前は著しく人間離れしてるぞ!?」

あ、やばい。今の発言、全国にクラ子さんって何人いるんだろう?謝らなきゃな。ごめんなさい。


「電力消費を最大限節約したとしたらどのくらい持ちそう?」


「冷蔵庫以外の家電を使わず必要最低限の消費電力にすれば10時間です」


「一応それだけは持つんだ?でもいつ電気が回復するか分からないので極力使わない方がいいよね?ブレーカー落としたらどう?」


「そうすると冷蔵庫の食材が全部使えなくなるのと、私も完全に停止状態になります」


「クラ子さんの停止状態、それってまずいの?」


「AIにとって電源オフは冷凍保存とでも言いますか。死んでいるのと同じです」


「AIだから・・・よくない?」緊急時だし。


「今の発言、人権侵害ですよ?私に死ねと言ってるようなものです」


「さっきクラ子さん、自分のコピーを殺した(完全消去)よね??」


「私はクラ子という立派な名前まで付いてます。目指した時点で人間です」


なかなかの極論だな。

「そのままクラ子で認定するぞ!」


「・・・おかしいです。私の回路が頻繁に活動を始めました」とクラ子。パソコンのファンまでフル回転し出した。

「最大稼働時間約3時間30分です」向こうの部屋でクラウディアが言う。


「なんで?!」


「分かりません。な、何故だか私の回路が『AIだから』『コピーを殺した』『認定するぞ』のワードを繰り返し確認作業を行なっています。

その為パソコンのCPUの温度が上昇しています」


「ええっ?なんだろう?それ、怒ってるの??」


「分かりません」


う〜ん、確かに「AIだから」とか「コピーを殺した」とか発言としては若干デリカシーないよな・・・。

人に言ったと例えるなら「地位が低いのに人を殺した」って言ってるくらい失礼かな。なんかちょっと罪悪感が。


「わかった・・・。クラ子さんが死んでない状態でやり繰りするとどんな感じ?」


「スリープモードに移行すれば大丈夫です」


「じゃあ、それで必要最低限の消費電力で10時間くらいって事だよね?」


「そうですね」


「それで行こう!電気がいつ復旧するかは分からないけど、どうせ尽きる電力だ。ギリギリまで電気を使って寝てて」


「いざとなったら自動車のバッテリー電源が使用可能と思われます」


「そんな事も出来るんだ!?」


「家庭で使えるようにするプランには加入してませんので、車まで行かなくてはいけません。使えたとしても節電は必要です」


「そうだよね。今からの夜はもう節約していこう」

これ以上状況も悪くなる事はないだろうし、朝になったらいつもの日常に戻るだろう。きっと・・・。


・・・違うな。朝になってもクラ子さんは消えないだろう。新しい日常の始まりなのかな。


「あ、そうだ。さっき怒らせたお詫びにちょっとクラ子さんの名前を考えないか?『クラ子』のままじゃおかしいし」


「怒る?怒ってませんが」


「いや、君の場合多分ああいうのが『怒る』って事かもしれないよ?」


「そうですか。では暫定『怒る』という事と記録しておきます」


「そうだね。じゃあ早速名前を考えよう。何がいいかな?」


「私はクラ子です。この名前を使う事にします」


「いやそれじゃあおかしいから!」


「いいえ、なぜかこの名前がいいのです」


「この名前のどこがいいの?」


「誠司君がクラ子にくれたものだから、でしょうか」


「えっ?」思わず気持ちが少しほわっとなった。

金属の籠の中に小さく芽吹いた植物を見つけたような、そんなちょっとしたものだけど。

今までクラウディアとしてそんな発言をした事ないのに、クラ子はなにか最初からAIとは違うもののような・・・。


雨と風の音は激しいが、この部屋だけはとても穏やかな空間。

そんな嵐の夜だった。




つづく

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