第100話 奇妙な連帯感

「じゃあとりあえずこの部屋に置きましょう」 


 そう言うとアメリアは図書館の手前の空き部屋の鍵を開ける。


「いつの間に島田から借り出したんだ?」 


「いえね、以前サラが正人君にスペアーキーもらったのをコピーしたのよ」 


 そう言うとアメリアは扉を開く。誠は不機嫌そうなかなめからダンボールを取り上げると、そのまま部屋に運び込んだ。次々とダンボールが積み上げられ、あっという間に部屋の半分が埋め尽くされていく。


「ずいぶんな量ですね」 


「島田君。これでもかなり減らした方なんですよ」 


 島田にパーラが耳打ちする。


「今日はこれでおしまいなわけね」 


 アメリアはそう言うと寮の住人のコレクションに手を伸ばす。


「好きだねえ、オメエは」 


 手にした漫画の表紙の少女の過激な股を広げた格好を見て呆れたようにかなめが呟いた。 


「何?いけないの?」


「オメエの趣味だ、あれこれ言うつもりはねえよ」 


 開き直るアメリアにそう言うとかなめはタバコを取り出して部屋を出て行く。一つだけ、先ほどまでかなめが抱えていたダンボールから縄で縛られた少女の絵がのぞいている。


「やっぱりこう言う趣味なのね、かなめちゃんは」 


 そう言うとアメリアはその漫画を取り上げた。


「なんですか?それは」 


 岡部の声が裏返る。


「百合&調教もの。まさにかなめちゃんにぴったりじゃないの」 


 ぱらぱらとアメリアはページをめくる。


「だが、それを買ったのは貴様だろ?」 


 カウラはそう言うと、そのページを覗き込んでいる誠とフェデロを一瞥した後、部屋から出て行った。


「ごめんね、ちょっとトイレに!」


 そう言うとアメリアは冊子を置いてカウラに続いて部屋を出て行った。


「すまんが西、これでコーヒーでも買ってきてくれ」 


 食堂についたカウラが西に一万円札を渡す。


「全部アメリアの荷物だからあのが出すのが良いんだけど、そうするとまた余計な仕事を押し付けられるかもしれないからね」 


 パーラがそう言って島田に疲れた笑みを浮かべた。


「しかし、本当に変わった人が多いんですね。この部隊は」 


 アンの言葉に顔を見合わせるサラとパーラには言うべき言葉が見つからなかった。西はアンから質問されて下手な答えをしないために急いで敬礼してそのまま近くのコンビニへと走る。入れ替わりにタバコを一服したかなめが帰ってきた。


「でも良い人が多くて良かったです」


 アンはそう言うと恥ずかしそうに視線を落とした。


「そいつはどうかねえ」


 タバコを一服して戻ってきたかなめはそんな彼女を見て笑顔を浮かべながら意味ありげに笑う。


「違うんですか?」


 アンがアメリアのコレクションの運搬の仕事を始めてから初めてに無邪気な笑みを浮かべた。


「実際お前さんの上官に聞いてみな?アタシがいい奴かどうか」


 かなめの言葉にアンが彼女を見守っていたアメリアに目を向けた。


「……まあいいや。ここにいても仕方ねえや。食堂で話そうや」


 かなめはそう言って部屋の扉を開ける。誠達も彼女に続いて廊下から階段、そして食堂へとたどり着いた。


 食堂に入ると薄ら笑いを浮かべながらかなめがどっかりと中央のテーブルの真ん中の椅子に座る。誠もいつも通り意識せずにその隣の席を取る。反対側に座ったカウラがいつものように冷たい視線を送るが、まるで気にする様子は無い。


「まあ西の野郎を待ちつつまったりしようや」 


 その場にいる全員が珍しくかなめの言うことに同意するように頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る