第77話 朝食
「班長!飯の準備ができました!」
部屋を見回している誠達に向けて食事当番の下士官が声をかけに来た。
「アタシ等のはあるか?」
「ああ、班長と菰田曹長の分を回したから大丈夫ですよ」
「オメエなあ……そんな……飯ぐらい多めに作れよ」
島田ががっくりとうなだれた。
「自業自得でしょ?コンビニ弁当でも買って食えばいいじゃないですか」
そう言うと太った食事当番の下士官は食堂に向かった。
「そんな金ねえっての!」
「サラに買ってきてもらえば?」
アメリアの言葉を聴くと、島田は携帯を持ってそのまま消えていく。
「すまんなあ菰田。アタシ等は飯食ってくるから掃除の段取りとか考えといてくれや」
うなだれる菰田の肩を叩きながらかなめ率いる一行は食堂を目指した。
「飯付きか……やっぱ良いよな。アタシは料理ができねえから……助かるわ」
「さすが……甲武一の貴族様でいらっしゃることで」
アメリアはそう言って苦笑いを浮かべた。
「アメリアはよくこの寮に泊まっていると聞くが……」
カウラの言葉にかなめはアメリアを怒りの表情でにらみつけた。
「サラとパーラが一緒にいるわよ……ネタ作りとか、深夜放送を聞いたりとか……まあ、面白いわよ、ここ」
「そりゃあよかった……で、もしかしたら神前の部屋に泊まったとか言わねえよな」
「そうだけど何か?」
今度はかなめが殴りかかろうとしたのをカウラが止める。
「ああ、サラとパーラも一緒よ。まったく二人して何やってんだか」
そう言うとアメリアはさっさと食堂に入った。殺気立っているかなめとカウラを刺激しないようにしながら誠も入ってくる。一部に冷ややかな視線を投げてくるのはヒンヌー教徒達だった。
「いい身分じゃねえか、うらやましいねえ」
トレーを手にしながら立つかなめの姿がタレ目を際立たせる。彼女が食堂中を見回るが、多くの隊員は三人を珍しそうに眺めている。
「それにしても……むさくるしいところねえ」
そういいながらまんざらでもない表情のアメリアが厨房の前のトレーを手にする。そして椀に粥を取るとピクルスを瓶からトレーに移す。
「ったく朝から精進料理かよ……ここは寺かよ」
一汁一菜と言った風情の食事をかなめはしみじみと眺める。
「必要なカロリーは計算されているはずだ、不満だったらそれこそコンビニで買ってくれば良い」
すべてをとり終えたカウラがそのまま近くの席に座る。自然に誠がカウラの隣に座ったとたん、一斉に視線が誠に突き刺さってくる。さらにアメリアが正面に、反対側にはかなめが座った。
三人とも別に気にすることも無く黙々と食事を始めた。誠は周りからの視線に首をすくめながら、トレーに入れた粥をすくった。
「いい身分だな」
コンビニの弁当を下げた菰田が食堂に入ってくる。誠は苦手な先任曹長から目を逸らす。管理部は豊川支部でも異質な存在である。隊舎の電球の交換から隊員の給与計算。はたまた所轄の下請けでやっている駐車禁止の切符切りの時にかなめが乱闘で壊した車の請求書の整理まで、その活動範囲が広い割にあまり他の隊員との接触が無い。
さらにいつもカウラと一緒に行動していると言うことで、島田から関わらないように言われていることもあって、菰田にはヒンヌー教の教祖と言う以外のイメージがわいてこない。
「リゾットねえ、確かにここのそれは絶品なんだよな」
そんな菰田はそう言いながらそのままコンビニの袋から握り飯を取り出して包装を破る。
「そうだな。これはなかなか捨てたものじゃない」
「そうでしょベルガー大尉!」
我がことのようにカウラを見つめて菰田が叫ぶ。だがすぐにカウラの顔が誠を見ていることに気づいて視線を落とす。
「シーチキンかよ。男ならそこで梅干じゃねえのか?」
かなめは菰田の買ってきたコンビニの握り飯を指差す。
「西園寺さんが食べるわけじゃないでしょ?好きだから仕方が無いんですよ」
そう言って自棄になったように菰田は握り飯にかぶりつく。
「残りは明太子と高菜ねえ、いまいちぱっとしないわね」
「クラウゼ少佐。余計なお世話です」
アイシャの茶々をかわすと菰田はテーブルに置かれたやかんから番茶をコップに注いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます