第39話 第二小隊の噂

 観葉植物越しにレストランらしい部屋が目に入ってきた。かなめはボーイに軽く手を上げてそのまま誠を引き連れて、日本庭園が広がる窓際のテーブルに向かった。


「あー!かなめちゃん、誠君と一緒に来てるー!」 


 甲高い叫び声が響く。その先にはデザートのメロンの皿を手に持ったサラがいた。


「騒ぐな!バーカ!」 


 かなめがやり返す。隣のテーブルで味噌汁をすすっていたカウラとアメリアは、二人が一緒に入ってきたのが信じられないと言った調子で口を中途半端に広げながら見つめてきた。


「そこの二人!アタシがこいつを連れてるとなんか不都合でもあるのか?」 


 かなめがそう叫ぶと、二人はゆっくりと首を横に振った。誠は窓際の席を占領したかなめの正面に座らざるを得なくなった。


「なるほどねえ、アサリの味噌汁とアジの干物。まるっきり親父の趣味じゃねえか」 


 メニュー表を手にとってかなめがつぶやく。


「旨いわよここのアジ。さすが西園寺大公家のご用達のホテルよね」 


 そう言ってアメリアは味噌汁の中のアサリの身を探す。カウラは黙って味付け海苔でご飯を包んで口に運んでいる。二人をチラッと眺めた後、誠は外の景色を見た。


 日本庭園の向こう側に広がるのは東和海。その数千キロ先には地球圏や遼州各国の利権が入り乱れ内戦が続いているべルルカン大陸がある。


「なに見てるんだ?」 


 ウェイターが運んできた朝食を受け取りながら、かなめはそう切り出した。


「いえ、ちょっと気になることがあって」 


「なんだ?」 


 かなめは早速、アジの干物にしょうゆをたらしながら尋ねる。


「昨日、なんだか不思議な少年に会ったんですけど」 


 その言葉にかなめは目も向けずにうなづいて見せた。


「不思議な少年?」 


 どうでもいいことのようにかなめはあっさりとそう言った後、味噌汁の椀を取ってすすり込んだ。


「ええ、なんか急に僕に話しかけてきて……しかも僕のこと知ってるみたいで」 


「知り合いじゃねえの?オメエが忘れてるだけとか」


 相変わらずかなめはつれなかった。


「そんな、『少年兵』に知り合いなんていませんよ!」


 誠の言葉を聞いてピクリとアメリアが反応するのが誠から見えた。


「ああ、ここに泊まってたんだ……あの子」


「あの子?知ってるのか?」


 カウラがアメリアにいつも通りの仏頂面で尋ねた。


「第二小隊の話……進んでるのよ。『近藤事件』で法術の軍事行動の禁止の条約はできたけど、それをどこも素直に守るわけないじゃない?そこで、司法局でも実働部隊にもう一個小隊を編成してカウラちゃん達が留守の時に東都を守ろうって訳」


 アメリアはそう言って静かに味噌汁をすすった。

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