第24話 ちょっとうれしい誘い

「人のおごりで飲んどいてその言い草。覚えてろよ」 


「わかったわよ……誠ちゃん!飲み終わったらお風呂行かない?ここの露天風呂も結構いいのよ」


 輝いている。誠はアメリアのその瞳を見て、いつものくだらない馬鹿騒ぎを彼女が企画する雰囲気を悟って目をそらした。


「神前君。付き合うわよね?」 


 誠はカウラとかなめを見つめる。カウラは黙って固まっている。かなめはワインに目を移して誠の目を見ようとしない。


「それってもしかしてこの部屋専用の露天風呂か何かがあって、そこに一緒に入らないかということじゃないですよね?」


 誠は直感だけでそう言ってみた。目の前のアメリアの顔がすっかり笑顔で染められている。 


「凄い推理ね。100点あげるわ」 


 アメリアがほろ酔い加減の笑みを浮かべながら誠を見つめる。予想通りのことに誠は複雑な表情で頭を掻いた。


「私は別にかまわないぞ」 


 ようやくグラスを空けたカウラが静かにそう言った。そして二人がワインの最後の一口を飲み干したかなめのほうを見つめた。


「テメエ等、アタシに何を言ってほしいんだ?」 


 この部屋の主であるかなめの同意を取り付けて、誠を露天風呂に拉致するということでアメリアとカウラの意見は一致している。かなめの許可さえ得れば二人とも誠を羽交い絞めにするのは明らかである。誠には二人の視線を浴びながら照れ笑いを浮かべる他の態度は取れなかった。


「神前。お前どうする?」 


 かなめの口から出た誠の真意を確かめようとする言葉は、いつもの傍若無人なかなめの言動を知っているだけに、誠にとっては本当に意外だった。それはアメリアとカウラの表情を見ても判った。


「僕は島田先輩と同部屋なんで。『純情硬派』が売りの島田先輩の前でそんなことしたら殺されますよ」 


 誠は照れながらそう答えた。


「だよな」


 感情を殺したようにかなめはつぶやいた。アメリアとカウラは残念そうに誠を見つめる。


「このの裏手にでっかい露天風呂があって、そっちは男女別だからそっち使えよ」 


 淡々とそう言うかなめを拍子抜けしたような表情でアメリアとカウラは見つめていた。


「ありがとうございます……」 


 そう言うと誠はそそくさと豪勢なかなめの部屋から出た。いつもは粗暴で下品なかなめだが、この豪奢なホテルでの物腰は、故州四大公家の当主と言うことを思い出させた。

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