第7話 隊長の娘は金髪美人

「いつも暇そうですね」


 誠はきついタバコの匂いに閉口しながら、隊長である嵯峨に嫌味を言ってみた。


「言うねえ……まあ、おまえさんにはその権利があるか。まあ、息抜き。部下の顔色を見るのも隊長のお仕事だから」


 嵯峨はそう言って誠の嫌味を受け流した。


「そう言えば、僕達みたいに法術師に軍事的プレゼンスを図る部隊の他に、実捜査を担当する『法術特捜』とか言う組織ができるんですよね、隊長の娘さんが仕切って……」


「らしいね」


 誠のとりあえず言ってみた話題に嵯峨は素っ気なくそう答えた。


「らしいって……うちの部隊と対をなす組織の上に、隊長の娘さんがそのトップになるかもしれないんですよ!」


「俺は前からそんな組織が必要になるってさんざん上申してたんだから。遼州同盟のお偉いさんが重い腰を上げただけだから、連中の考えそうなことはすべてお見通しだよ。それに茜の件ならアイツはおまえさんより二つ上、26だ。大人だよ。俺に小遣いをやって更生させようとしているくらいだもの。俺なんかがどうこう言う話じゃないんじゃないかな」


 相変わらず嵯峨はのらりくらりと誠の詰問を受け流す。


 話題に詰まった誠を嵯峨は嫌らしい笑みを浮かべつつ見上げた。


「それより、おまえさんは茜の顔を知らないんじゃないの?俺の顔は生まれた時から見ているのに……ああ、ちょっと待って」


 嵯峨はそう言うと通信タブレットをズボンのポケットから取り出していじり始めた。


「なんですか?美人だって自慢したいんですか?」


 さすがにおもちゃにされている自覚はあるので、誠は少し腹を立てながらそう言ってふくれっ面をした。


「はい、これ」


 通信タブレットを手にした嵯峨はその画面を誠に向けた。


 そこには長い金髪の美女が映っていた。鼻筋が通ったヨーロッパ系の面差しはどう見てもアジア系の嵯峨とは異なって見えた。


「綺麗な方ですね……でも……ちょっと遼州人ぽく無いですね。失礼ですけど……隊長の奥さんって『ガイジン』ですか?」


 無遠慮にタバコをくゆらせる嵯峨に、誠は聞いてはいけないことなのかもしれないと思いながら遠慮がちにそう言った。


 その言葉に嵯峨は特に気にする様子もなく素直にうなづいた。


「そだよ。ベルルカンの貴族の出だから。本人も自分を『騎士』だって言ってるし」


「騎士ですか……」


 誠は貴族のことはよくわからないのでただ呆然ぼうぜんと嵯峨の言葉を繰り返すだけだった。

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