[完結] Re:ACES ~Last Valkyrie~

柏沢蒼海

序章:潜入

Act:00-1 ブロークン・ダウン 1

 薄暗いコクピットの中で、わたしは深呼吸をした。


 メインモニターには母艦の格納庫の様相が映し出されている。

 作業用のアーマードスーツを着た整備兵達が格納庫中を弾丸のように飛び回っていた。

 出撃まで数分、慌ただしくなるのも当然だ。


 それはいつもの光景。


 わたし達がコロニーに攻め込む直前に見る、いつも通りの景観。



 一瞬のノイズが走った後、ヘルメットのギアから聞き慣れた男の声が流れる。


『――諸君、いつも苦労をかけてすまない』

 その男は、我々の指揮官であり、司令官でもある。



『我が〈地球連合軍 第47戦隊ブレイブ・ストライカーズ〉はこれより、〈コロニー・E2サイト〉の攻略を開始する。全艦、基準戦闘態勢コンディションレベル2を発令。総員、配置に就け!』


 司令官、イークス・ライヒート提督の言葉は続く。

『先遣隊としてホワイト・セイバー隊が出撃する。各隊はこれまで同様に指示を待つように……』


 格納庫を飛び回っていた整備兵達が退避し始めていた。

 その中の1人がこちらに飛び込んできて、眼前に――機動兵器『モビル・フレーム』の頭部前方で留まる。


 すると、自身の頭を指差すような仕草をしている。

 ふと、時刻を確認すると出撃時間が目前に迫っていた。


 おそらく、ホワイト・セイバー隊の一員なのだろう。

 作戦開始前に無線が繋がっていなかったことを知らせてくれたのだ。



 コンソールを操作し、作戦用の通信チャンネルとデータリンク回線に接続。

 他の機動兵器や部隊員が搭乗した輸送機から音声通信が届く。


『――おい、チビ! 遅ェぞ、いつも作戦開始10分前には通信を繋げって言ったろ』

 わたしの直属の上司、ホワイト・セイバー隊の部隊長だった。

 隊長を含む、隊員のほとんどは戦闘工作員だ。わたしは隊に随伴する護衛機パイロットであり、潜入工作員としても行動する。


 今回は民間輸送船に偽装した輸送機でコロニーに潜入するという作戦を実行することになっていた。

 輸送船には潜入工作員として、歩兵部隊が1小隊。わたしを含めた数機の機動兵器で道中の護衛だ。



「すみません、提督が話していましたので」

『任務に集中しなさいよ、〈ジュリエット07〉』


「……了解です、ジュリエット08」

 

『うるッせェぞ、ジュリエットナンバー共。もうすぐ出撃なんだぞ!』

『落ち着け、カーマイン。お前もピリピリするな』


 整備兵の退避が完全に完了したらしい。

 ヘルメットのバイザーに表示されている通知ウィンドウに格納庫を開放するという警告文が追加された。



『こちらホワイト・セイバー・アクチュアル。これより、オペレーション:ウッド・ホースを開始する!』

 部隊長のドミニク大尉の声が無線に流れると同時に、正面と頭上の隔壁が解放された。

 

 同時に機体の四肢を固定していた装置が解除され、ゆっくりと浮遊し始める。

 


 目の前に広がる闇の世界、この宙域の向こうには宇宙移民達が生活する巨大なコロニー群が待ち構えていることだろう。

 我々、地球連合軍はその宇宙移民と戦争をしている。

 地球政府の方針に反発する宇宙移民達が立ち上げた『コロニー軍事連盟』による激しい抵抗を抑え込むには、軍事連盟に加入しているコロニーサイトを片っ端から鎮圧していくしかない。


 ――全人類が生存していくためには、宇宙移民のエゴは不要だ。

 保育ポッドから出されて、ずっと聞かされてきた言葉。

 

 宇宙移民は資源が足りないから、無いモノを求めて地球を侵略する――

 ――だから、コロニーに住む人々は……適切に管理されなければならない。



『ホワイト・セイバー、出撃する!』

 前方にいた箱形の中型輸送機がゆっくりと前進を始める。

 青白い炎を伸ばし、暗闇の世界へと旅立っていく。



『ジュリエット08、行きます!』

 すぐ隣にいた人型機動兵器――〈type-30J型〉が上昇、すぐに視界から消え去った。


『ジュリエット10、出るぞ!』

『ジュリエット12、出撃します!』

 次々と飛び立っていくモビル・フレームMF

 

 他の機体が母艦から離れたのを確認してから、わたしは操縦桿を握りしめる。

 操縦桿の上部にあるスロットル・スライダーに親指を乗せながら、わたしは宣言する。



『ジュリエット07、出る――』


 スライダーを奥まで動かすと、機体のスラスターが噴射され、他の機体と同様に急上昇した。

 即座にフットペダルを踏み込んで、スラスターの推進方向を前方へと偏向。


 黒とデブリと、スラスターの青い光だけが見える世界。

 そんな場所を、わたし達は進む。




 わたしはジュリエット・ナンバー。

 戦うために生まれ、任務のためだけに生きる存在。


 毎回、与えられる命令は違うけれど――わたしは生き残ってきた。


 だから――――今回も、生還してみせる。



 だが、今日はどこか落ち着かない。

 妙な違和感が、ずっと胸の中にあるような気がした。



 他のモビル・フレームと輸送機に合流し、先の見えない暗礁宙域へと進む。

 しばらく沈黙が続いた後、ジュリエット・ナンバーの1人の報告が無線に流れてきた。


『――センサーに反応、10時方向』


『なんだって? そこに何があるってんだ?』


『ジュリエット08、こちらも確認。対象を目視で確認する――』

『待てって08、ジュリエット07も随伴しろ』


「――了解」


 操縦桿を傾け、ジュリエット07の機体に追従する。

 

 何が起きるかわからない。

 勝手な判断だとわかっていはいたが、火器管制装置FCSを起動。臨戦態勢を維持したまま、反応があった方へと旋回する。



 どんな敵が出てきたとしても、負ける気はしない。

 高性能な機体、遺伝子レベルで戦闘に特化したパイロットが数名、おまけに大きなデブリも多い。

 

 相手の技量がどれだけ高かろうと、この暗礁宙域で満足な回避機動を取ることはできないだろう。

 こちらも、それを見越して高威力な武装を搭載してきている。



 ――どこからでも来い。


 加速によるGを感じながら、浮遊物だらけの宇宙を凝視していた―――― 


 

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