第14話 4000年の昔話

「スリープ〈眠り〉」


 金髪の男が土の破片に様変わりした瞬間、扉の方から別の男の声がした。

 それと同時に目の前に居た責任者の男は、眠るように倒れた。


「おい! 大丈夫か!」


 立て続けにユウトの周りで奇怪な事が起こる。

 ユウトはその原因であると思われる方を向いた。


 扉の方から一人の黒髪の男と一人の緑色の女がこの部屋へ入ってきた。

 ユウトはとっさに能力を使って確認しようとした。

 だが、どうやら先程の試合がかなり体にきていたようで、能力を発動する事ができなかった。


 しかし、その人達の顔には見覚えがあった。

 そう、二人は先程戦って、現在土の破片状態になった金髪い男と同じ、最強パーティーの者だった。


 入ってくるやいなやその黒髪、黒目、服装はまさに冒険者と言う感じの男は、何も無い所から木の椅子を生成した。

 普通ではあり得ないその力は、男の能力なのだろう。


「座りなよ」


「は、はぁ………」


 黒髪の男がそう言ってきたのでユウトはその椅子に座った。

 現に座りたいと先程から常に思っていたので、躊躇することなく座った。

 すると黒髪の男もユウトの目の前に椅子を作り、そこに座ってきた。


 ユウトは今しばらく何が起こっているのかわからない状態だった。

 だが、この時のユウトにはそんな事を考える余裕がなかった。

 徐々に自分の体から汗が出ているのが分かった。


「僕は、シンジ。一応パーティーのリーダーをやってるんだけど、それより悪かったね。それは僕が作った人形なんだ」


 そう言うと、シンジと名乗る男は悪びれた様子もなく、先程までユウトの隣に立ってた崩れた土を指した。


 やはりか、とそう思った。


 シンジの一言で、ようやく謎が解消された。

 戦っていた時に見えたあの異様な光景は、この男が作り出した土人形だったようだ。


「それでさぁ。今回の事は無かった事にしてくれないかなぁ。こっちとしても、一応立場上あるからさ。あぁ勿論タダでとは言わないよ。とても面白い話をしてあげるよ」


 ユウトはその言葉を聞いて、少々頭に血が上った。


 流石にあそこまでやられて面白い話一つで終わらせる訳にはいかないと思ったからだ。

 だが、ユウトはその怒りを表には出せなかった。

 何故ならユウトは恐怖を感じていたからだ。


 今この男には勝てないとそう思わせてしまう程、この男から発せられる圧が強大と言える。

 それは能力を使わなくとも分かる。


 この男はユウトの何十倍以上の力を持っていると。

 無言の圧というのだろうか。


「……分かった」


 ユウトは思わず了承してしまった。


 やはりここはゲームの世界ではないと実感してしまう。

 ゲームで強者と戦う時、強者の前に立つ時、ユウトはなんの感情も出なかった。

 だからこそ冷静な自分を演じることも、相手を煽る発言もできた。

 付け加えると、そこで死んでも、本当の死に直結しない。


 だが今は違う。

 強者の重圧をもろに受けている。

 後ろに死を実感している。

 だからこそ、下手な真似も発言もユウトには許されない。


 ここではユウトは最弱だからだ。


 シンジはユウトが了承すると、直に話してきた。


「神様って居ると思うか?」


 その質問にユウトは首を横に振る。


「そうか……、そうだったのかー。ん〜、君も僕と同じだと思ったけど、違がうようだなぁ」


 そうしてシンジは1人で、納得する。


「ところで……神になろうって思いたいか? まぁ俺はなろうと思ってるけどね!」


「へ、へー……そうなんだ」


 そんな妄言を聞かされたユウトは微妙な反応を取らざる負えない。


「あれ、あまり驚かないね。この夢を言ったら笑われるか、変な目で見られるかのどっちかなんだけど……」


 正直言って笑えない。

 笑ったら何されるか分かった物じゃない。

 だからユウトは自然に質問する。


「神になって何がしたいんだ?」


 そう聞くと男はニヤリと笑う。

 どうやら、質問された事が相当嬉しかったようだ。


「うん、良い質問だね。目的はただ一つ、この世界を壊すことさ」


「―――!」


 満面の笑みで言ってくるシンジに対して無言で驚く。

 ユウトにはそれしか出来なかった。

 神になって世界を壊すと言ってるシンジの発言があまりにも常軌を逸脱していたからだ。


「なんでそんな事を?」


 するとシンジは顔をニヤつかせながら続けて言ってくる。


「それはねぇ汚いからだよ。この世界そのものが」


 先程の顔とは真逆に急に口元を正すシンジに嘘の言葉は無かった。

 だからこそ、その顔はあまりにも悍しく不気味に満ちていた。


「あぁそうだ。君にもう1ついい事を教えてあげるよ」


 男は急に話を変え、それと同時に口角が少し上がる。


「この町に何故奴隷が居るのかだ」


 ユウトは目を見開く。

 それはユウトにとっても聞いておきたいことだったからだ。

 正直もう話を聞きたくなかったが、この話題には興味がある。


「シンジくーん。それはちょっとー」


 男が話そうとすると隣にいた奇麗な緑の髪のした女はそれを止めてきた。

 さっきまでは空気の様に黙って聞いていたのに、急に止めてくる。


「別にいいじゃないか? どうせ咎められはしないし」


 ユウトだけが話についていけてなかった。だが、どうやら隣にいた女は納得したようだ。


「この町は元々娯楽で溢れていたんだよ。競馬、カジノって言っても分かんないか……、まぁ興奮する程面白い遊びだよ。……それが、4000年前のある日を堺にその全てが無くなった。神が現れた日だ。神は地上からあらゆる娯楽を消していった。なんでか分からないけどね。その代わりに神は地上に魔物を生み出した。だが、人々は混乱しなかったんだ。何故か、それは神が人々の記憶を書き換えたからさ。だけど、人々に植え付けられた娯楽の快感だけは神でも消せなかった。特にこの町の娯楽への依存は激しかった。そんな時ある1人の男が罪を犯した女性を奴隷にした。それが始まりで、今まで続いている奴隷の悲劇さ」


 ユウトはその話を聞いて、実感がわかなかった。

 何せ4000年前の事、何故それをこの男が知ってるのか。

 謎が多すぎて頭に直接入ってこない。


 男は話し終わった後、座っていた椅子から腰を上げた。

 ユウトは黙ってそれを見ていた。


 今の話を聞いて、頭が痛くなった。

 それに息も上がってきた。


「あともう一つ〜」


「今度はなんだ」


「僕の仲間にならないか? そして神を殺して一緒に神になろう。そしたらきっと面白い事になるぞ」


「……断る」


 頭痛の痛みを表に出さず、ユウトは早く話が終われと願う。

 だからこそ、ユウトは頭で考える事を捨て、直感で答えた。


「そう……、残念。本当に残念」


 シンジは眉を下げ、体力的に追い詰められたユウトに近づいてくる。


「奴隷の事は黙っておくよ。その代わり僕の野望は邪魔しないでね」


 そう言うと男はユウトの肩に手をやる。


 その瞬間、ユウトの心臓は大きく波打った。

 そのまま男を見送る事もできず、意識が薄れていくのを感じていた。

 きっと限界が来たのだろう。


「ユウト!」


「ユウトさん!」


 ルナとアオの呼ぶ声が聞こえた後、ユウトは電気が切れるようにプツリと意識がなくなってしまった。



✢ ✢ ✢ ✢ ✢



「本当にーあれを言ってもよかったのー?」


 シンジの隣に引っ付いて歩いている緑の女が彼にそう問いかける。


 この女の名前はビィーナ。

 興味の無さそうな顔立ちで、無表情に近く無くとも遠からずだ。

 彼女は緑の髪を腰まで長くおろし、その瞳は髪と同じ色をしていた。


「良いんだよ。だって彼、三日後に死ぬから」


「……! 殺しちゃってー大丈夫なのー?」


「ん? あぁ、僕に被害は起きないよ。実際僕が殺すことになるけど、ここでは呪いが彼を殺す。僕が能力『創造』で作った呪いでね」


「厳密に言えばー、シンジくんが倒したー呪いのドラゴン【テューポ】から得た力で作ったー呪いだよねー」


 水を指すように真実を言うビィーナにシンジはあくびで返すだけだった。

 端から彼に聞く気はない。


「けどさー、何で殺しちゃったのー?」


「一つ目、彼が僕と同じ日本から来た不幸な人間だから。二つ目、無能力者と嘘を付いたから。三つ目、彼が弱者だから」


「え!? え? シンジくんと同じなのー!? びっくり、どっきりー! けど、何で分かったのー?」


「単純。一つ目は決闘場の利用目的を知らなかったから。強者同士が己を高め合う為の場であって、物事を決める場所じゃない。それを知らない奴はこの町には居ない。それは僕たちがこの町の英雄になってからな。だから必然的に彼が僕と同じ世界からの来たという事実に繋がる。まぁ田舎から来たって線もあるけど、わざわざここで冒険者に成らなくても良いし。二つ目、彼は目に関する能力を持っている。その理由に彼の目が少し光った気がした。能力の発動は光だからね。三つ目は、言わなくても分かるよね」


 長々と説明するシンジの隣で、ビィーナはある事に気が付く。


「シンジくん。もしかして最初から……」


「あぁ、初めてあった時に決めてた。仲間にするか、早めに殺すか。だって彼、弱いからさ。昔の僕と違って弱いから」


 不敵な笑みを零しながら言うシンジにビィーナは少々納得しない様子だった。

 現にビィーナはシンジの言ってる事が分からなかった。


 その後、2人はパーティーの皆と合流し、その日のうちにこの町を去った。

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