第13話 ドロップアイテムの使い方

 ユウト達はある所に連れて行かれていた。


 そこは物事を決める際に使われる場所、闘技場だ。

 そこへ行く途中ユウトは頭の中の怒りを沈め、勝つビジョンを考えていた。


 今のユウトでは能力を使ったとしても、奴のレベルや能力を見る事は、できない。

 それは金髪の男とギルドで初めて会った時に証明されている。

 つまりユウトとやつの間に大きなレベルの差があるという事になる。


 見えずともわかってしまう。

 それが今の現実だった。



✤ ✤ ✤ ✤ ✤



 しばらく石畳の道を歩いていると、それらしき建物が現れた。

 円状に聳え立つ建物。

 横に長い石階段を三段登り、大きな木造りの扉からその建物へ入った。


 入って直ぐ、この建物の責任者と見られる男が立っていた。

 その男はユウト達の事を待っていたかのようにこちらに近づいてくる。


 そこでユウトは初めておかしいと思った。

 あまりにも展開が早すぎると。


 ユウトは何も分からないまま、控室へと連れて行かれた。

 アオとルナは、違う場所に連れて行かれた。


 二人共心配そうな顔をしていたが、ユウトは何も言えなかった。

 特にアオには。


 この戦いはユウトの覚悟を決めるものでもあった。

 ユウトがアオの家族になるためにはここで勝って、ユウトの頭からも、アオの頭からも奴隷という二文字を消す必要がある。


 だからこそ、この戦いを申し出た。


 ユウトが控室に入ると直に、連れてきた人はルール説明してくる。

 武器は無し、能力による攻撃も無し、そして相手を殺すか、気絶させた者が勝者とする。

 というルールだった。


 説明を終えると、決闘は十分後と言ってこの部屋から出ていった。


 ルールはいたってシンプルだった。

 要するに勝負は殴り合い、それか魔法の勝負になる。

 もし相手が魔法の使い手で魔法勝負に持ち込まれてしまったら、勝つことは難しくなる。


「だからって俺は……、負けられない」


 十分後、全ての準備が整ったユウトは会場へと足を運んだ。


 観客はまばらでアオとルナもその中に居た。



✤ ✤ ✤ ✤ ✤



 堂々と、反対側からその男が出てくる。

 男はもう勝ち誇った顔でやってきた。


 しかしユウトは怒りを全て殺す。

 怒りというエネルギーはでかい。

 しかしそれが諸刃の剣である事はユウトが十分わかっていた。


「そう固くなるな、なるな。どうせ直に終わるんだから」


 男は挑発をしてくる。

 だが、今のユウトに挑発は無意味だ。

 今のユウトは勝つことしか見ていない。


 神経を尖らせたユウトに釘を刺す様に、始まりの鐘がそのフィールドに響き渡る。


 瞬間、男はユウトの元へ一瞬のうちに近づき蹴りを入れてきた。

 突然の出来事にユウトは動く事ができず、それをもろに喰らってしまう。


「うッぐはぁ…………ッ………」


 衝撃のあまり、一瞬息ができなくなり世界が止まったようにスローに動いた。


 計算違いだった。

 この世界はゲームの様でゲームではない。

 拳しか生き残らない世界。


 ユウトはゲームのように動けない。

 ユウトはゲームように自分を操作できない。


「いたぃ……」


 その痛みは、昨日対戦したモンスターと比べ物にならない位大きい。

 痛いの一言である。


 足も、手も、体中が震えている事にユウトは今気づく。


 アオもルナも、心配そうにこっちを見てきたのはこのせいだった。

 気づいてないのはユウトだけだった。


 男が『固くなるな、なるな』と言ってきたのは挑発ではない事実だった。

 自分の体なのに自分自身が一番わかっていない。


 このままでは、また負けてしまう。


「正直乗り気じゃないけど……、これ使うしかないか……」


 その時、ユウトは決心した。


 そして内ポケットから小瓶を取り出し、そこに入っていった青く光る毒々しい見た目の液体を、なんの躊躇もなく一気に飲んだ。


 本当はまだ確信がなく、使いたくなかったのだが、なりふり構っていられる現状でもない。


「……ウエエエエェェェェ!!!」


 味は最悪で吐き出しそうになったが、持ちこたえた。

 だがその結果、飲み干したと同時に自分の体が軽くなるのが感じる。

 先程蹴りを入れられた所も徐々に痛みが引き、ものの数秒で痛みは体から消えていった。


 自分の変化は体だけではなかった。

 自分の能力が覚醒していくが雰囲気で分かる。

 そしてユウトは直に立ち上がった。


「おい、今……何を飲んだ」


 男はそう問おたが、ユウトはその問に答えない。

 単純に言うメリットがなかったからだ。


 これはユウトが能力を使って分かったドロップアイテムである『スライムの心』の性質の一つだからだ。


 スライムの心を石か何かで砕く。

 その中から出た粉と水を1対3の割合で溶かす。

 そうしてできるのがさっき飲んだ青い液体。


 あれは能力を覚醒させる、言わばドラッグだ。

 ユウトはそれに頼りたくなかったが、今のユウトに感情のみの選択は許されない。


「………」


 ユウトが無言でいると、男は痺れを切らしたのか攻撃をしようとしてくる。


 右手で腹をパンチ。


 ユウトは瞬時に避けた。

 男の攻撃に反応できたわけではない。

 ユウトが男の攻撃を予測する事ができたからだ。


 いや、『予言』と言うよりも、『見えた』の方が正しい。

 男がどう攻撃してくるのかを。


 ユウトはあの薬を飲んで、一つ先の未来が見えるようになった。


 右手、左足、左腕、次は……、飛び蹴り………。


 ユウトは男の先の動きを見て、それに反応して避けていった。

 それでも男は殴るか蹴るしかやってこなかった。


 どうやら男は魔法が使えないらしい。

 そう思った瞬間、ユウトは目を疑った。


「―――土!?」


 ユウトの目には男がそう映った。

 それはまさに異様な光景である。


 その光景に目を奪われていた瞬間、男はユウトの腹目掛けて殴りかかってくる。

 異様な光景に目を奪われていた為、ユウトはその攻撃を避ける事ができなく、とっさに両腕でガードをした。


 ガードした腕から最悪な音が響く。

 それ程大きな音ではない。

 しかし、水分が少ない、硬い何かが砕ける音がした。


「イッッッッ……って、あんまり痛くない?」


 不快な音がしたが、あまり痛くはなかった。

 どうやらガードがうまくいったようだ。


 ユウトは直に立ち上がる。

 先程の光景は少し気になるが、早い所決着をつけないとまずかった。


 息切れがする。

 能力を使い過ぎたか、それとも慣れない動きをしたせいか、それは分からなかったが、凄く疲れていた。


「早いところ決着つけないとヤバイな……」


 ユウトはついに自分から攻撃を仕掛けた。

 走っていき、男に近づく。


 男は殴り掛かってくるが、ユウトはその時も能力を使って男の攻撃を先読みで見て、それを難なく避ける。

 そして内ポケットから取り出した粉を男に投げつけた。

 粉は男に当たると、男の周りに漂った。


「今だあ! 爆発しろ!!!」


 そう叫ぶとユウトは男の方に向かって、人差し指から魔法を出した。

 生み出された炎は一粒の粉に着火する。


 ユウトが、男に投げたのはスライムの心の中にある粉。

 砕いて手に入れる事ができ、先程の青い液体の原材料でもある。

 

 スライムの心 [性質そのニ 燃やすと爆発する]


 次の瞬間、ユウトの魔法の炎は、その粉の一部に着火し、爆発する。

 その爆破で連鎖して次々と漂っていた粉々に着火し、爆破する。


 結果として男は大きな爆発に巻き込まれた。


 爆発の影響で出た土埃が消えると、男が倒れているのが確認できた。

 男は衝撃で元いた場所から10メートル程離れた場所に倒れていた。


 会場が騒がしくなる。

 最強パーティーの一員である男が無名のパーティーの者に破られたからだ。


 ユウトはひしひしと勝利に感動していた。

 こんなにも勝って嬉しいと思ったのは久しぶりだ。


 ユウトは今、とても良い気分だった。

 ユウトはルナとアオの方を見る。

 2人は安心したようでホッと肩をなでおろしているのが見えた。



 勝ったユウトは、ある部屋へと案内された。

 今すぐ、アオとルナの元へ向かいたかったが、どうやら勝負に勝った者と負けた者とで話合わなけれならないらしい。


 正直、もう顔も見たくなかったが、また目の前に現れても困るので一応、応じる事にした。


 ユウトが部屋に入ると、そこには初めに会った、責任者の男が立っていた。

 それから五分後、戦った男が歩いて部屋に入ってきた。


 あの爆発を喰らってもう立って歩くとは、以外と、タフなのだと思った。

 だが少し様子がおかしかった。入ってきた男は無口で、ずっと下を向いていた。


 直視したく無かったユウトは、それを横目で見る。

 金髪の髪は徐々に光を反射する事を止め、全体的に茶色になる。

 その変化と共に、顔面中央部から縦の割れ目が入り、そのまま全身へとその割れ目が走った。


 男の体は留める事を放棄し、最終的に黄色の土の破片となる。


「はぁ!?」


 ユウトは声を上げ、驚きを表現する。


 その光景を事実として受け入れるにはあまりにも奇妙な物だったからだ。

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