第37話 二人の銀河鉄道 1

 火曜日の放課後。清人と健次郎、善幸の三人は清人の席に集まって話していた。


「あ~やっとテスト終わったな!」


「そうだな」


「滞っていた新聞部の活動もやっとできるようになる!」善幸は腕を組んで答えた。


「野球部も今日から再開だよ。一週間練習が無いと結構身体が鈍るんだよ」


「そうか。まあ怪我しないようにな」清人は答えた。


「ありがとよ。でも正直俺はテストの方が疲れるわ」


「分かる! 俺も記事を書くのよりもテストの方がよっぽど疲れると実感する!」


「そういうもんかね」


 清人はそう答えたが、二人のこの部活への情熱は、尊敬すると同時に少し羨ましくもなった。


「やっぱ疲れると、なんか温泉に入りたい気分だな」健次郎は言った。


「良いな! 確か近くにスーパー銭湯もあったはず」


「寒くなってきたし良いかもね」


「じゃあ今度春川さんと蘇我さんを誘って五人で行こうぜ」


「ああ、そうだな」


 清人は真子の方をチラッと見てみた。真子はいつも通り、一花と何か話していた。


 清人はどうしても真子を意識せざるを得なくなっていた。あの『特別な愛』を自覚して以来、真子の方に視線を向ける機会が多くなっていった。


「おっと、じゃあ俺はそろそろ行くわ。1年生を待たしちまってるし」


「俺もだ! 早く行かないと文殿にローキックを食らわされる!」


「分かった、二人とも気をつけてな」


 健次郎と善幸の二人は清人に手を振ってクラスを後にした。清人は一人ぽつんと残された。


 すると向こうの席から一花がやってきた。一花は清人の席に来るなり


「ねえ賀野君、今日三人で帰らない?」そう言った。


「ああ、もちろん」


 清人はそう答えたが、心の中で少しほっとした。今の状況だと真子を妙に意識してしまうので、真子と二人っきりだと何を話せば良いか分からなくなってしまいそうだったからだ。


 清人は自分のリュックを手に取り、真子と一花の方へ向かった。


 こうして清人と真子、一花の三人は一緒に帰り道を歩いていった。話題は今日のテストのことになった。


「今日でやっとテスト終わりだね」


「そうだね」


「そうね」


「二人はどんな感じだったの?」一花は尋ねた。


「うーん、俺はちょっとミスったかも」


「え、そうなの?」


「いや、全体的には結構できたんだけどね。後で見直したらケアレスミスがちょっと多かったかなって」


「あ~確かに……結構ひっかけ問題みたいなのが多かったしね」


「もっと集中して読んでおけばって後悔したよ」


「難しいよね。春川さんは?」


「私はわりといつも通りね。勉強会で学んだことが結構出てきたから助かったわ」


「そうなんだ」


「蘇我さんはどうだったの?」清人は尋ねた。


「私はね……」一花は少し考えた様子を見せて


「凄くよく出来たの!」満面の笑みでそう言った。


 一花がこんな風にはしゃぐのは珍しかったので、清人は少し驚いた。


「本当にあの勉強会があって良かったよ!」一花は続けて言った。


「勉強会?」


「そう! 皆のおかげでもあるけど、特に春川さんには本当に感謝してる」


「私が? なぜ?」真子は答えた。


「春川さんが丁寧に教えてくれたところが、今回のテストで多く出たからね」


「あらそうだったの」


「本当にありがとう、春川さん。機会があったらまた勉強を教えてほしいな」


「別に構わないわよ」


 真子と一花は笑い合った。清人はそんな二人の様子を微笑ましく見ていた。


 そんな会話をしている内に茅ヶ崎駅に到着し、東海道線の上りの電車に三人は乗り込んでいった。外もだいぶ冷えるようになったので、電車の中は暖房がつくようになっていた。


「そういえば健次郎が温泉に行きたいって言ってたな」清人は口を開いた。


「温泉か~良いかもね。私は草津温泉に行ってみたいな」一花は答えた。


「ああ、確かに草津温泉とか一度は行ってみたいね」


「私は温泉は結構行ってみたいところ沢山あるな~。伊香保温泉とか別府温泉とか……」


「分かる! 俺は道後温泉に行ってみたい」


「道後温泉も良いね! 愛媛だっけ?」


「そう」


 清人と一花の二人は温泉談義で盛り上がった。真子はしばらく二人の会話を黙って聞いていたが


「……私は箱根温泉に行きたいわね」静かにそう言った。


「箱根って、小田原の先だから結構近くない?」清人は答えた。


「近いからこそ、日帰りで行きやすいじゃない」


「確かにね」


「私、箱根は一度も行ったことないのよ」


「そうなんだ、それは意外」


「温泉行く時は大体遠いところなのよね。地元の温泉ゆえに全然行ったことがなくて……」


「あ~近すぎるから行かないってあるもんね」一花は同意した。


「だから、箱根には一度行ってみたいの」


「……そうだね、それじゃあ今度皆で箱根に行こうか。日帰りできるし」清人は言った。


「良いね、そうしよう!」


 一花は声高に同意してくれた。真子も清人の言葉を聞いてすぐに頷いた。


 三人で温泉に行く計画などを話し合っていると、電車はすぐに藤沢駅に到着した。一花は二人に「じゃあね」と挨拶をし、そのまま降りていった。


 清人と真子は二人電車内に残された。清人が何を言おうか考えていると


「そういえば、大丈夫だったの?」真子の方が先に口を開いた。


「大丈夫って、何が?」


 真子は少し言い辛そうにして


「……土曜日の、お父様との話し合いは大丈夫だったの?」そう言った。


 清人はドキッとした。どんな風に事の顛末を話せば良いのか、清人は頭の中で必死に考えた。

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