転生したら木になってました!?世界を支える賢者の木
甘々エクレア
序章 賢者の木に転生する
第1話 賢者の木に転生する
『人間死んだらどうなるのなんて、死んでみなきゃわからない。そもそも、死後どうなるかなんて誰も教えてくれるわけない。
『そりゃ当たり前だ!死人は喋らない』
『ちまたでは死んだら天国行きとか、運悪けりゃ地獄行きとか聞きますが…………、はたまた転生とか!?』
『そうそれ!異世界転生!!』
『どうせなら死んでやり直したい。そんでもってこのクソみたいな世界から異世界に転生して、俺ツエー!!みたいな冒険してみたい!』
『………まぁ、無理だよな』
『知ってる。死んだら寝てる間の時間が永遠に続くのさ………』
『ジ・エンド、それで終わり………』
『ん?……まてよ?、てか俺今どうなってんだ?、さっきから目の前で俺死んでるみたいに寝てるんだけどーー!?』
(目を覚まして◯◯◯!嫌ーー!!)
(かわいそうに、病院に運び込まれた時にはもう手遅れだって……)
目の前で横たわる見知った男性に、数人の医師が必死に蘇生を試み、近くでこれまた見知った女性が必死に声をかけていた。
『なになに?みんな集まって悲しそうに……』
(……残念ながら、これ以上の延命を施しても、回復する見込みはありません)
白衣の男性が女性に声を掛けると、女性は何かを感じ取ったように、悲しくうつむいた。
(……もう楽にしてやって下さい……)
了解を得た白衣の男は腕時計を確認し、その場の他の医師に手を止めるよう指示をだす。それを聞いた医師はすぐさま手を止めた。
『あっ、体がなんか軽い!?てか浮いて来た。これもしかしての死んだやつ?俺死んだやつだわ!!』
天井に吸い寄せられるように、男の体は徐々に上へ昇る。
それが何処か気持ちのいい感覚で、悲しいなどと言った感情は一切無かった。
『ああなるほどね、死んだらこうなるのか……』
そのまま男の意識は、ゲームのリセットボタンを押したようにプツリと途絶えた。
次に目を覚ました時、彼の運命は一変するとも知らず。
………『熱いな』………。
………『いや熱いよ!』………。
『「熱いって!!」』
ハッとしたように目を開けると、一面炎に包まれ燃えていた。
「なんだこれ!?めっちゃ燃えてんじゃん!てかちょっと待って!?熱いし俺の体動かないんだけど!?」
身動きが取れない中、身体中が炙られているように熱い。とりわけ特に熱かったのは頭、それはまるで髪の毛が毛根から燃え上がってるような感覚だった。
「熱い!熱い!熱い!!何これ地獄!!地獄って本当にあったの!」
自分の体があるような感覚はあるのだが、いっこうに手も足も頭も動かない。しかし視覚はあるようで、ぼんやりとだが周囲が見渡せる。
「そんなに前世の行い悪かったの俺!?結構真面目に生きてたぞ!」
そう、俺は真面目に生きてきた。真面目に学校行って、真面目に卒業して、真面目に就職して、真面目に仕事してたはずだった。
人から恨みを買う様な事もなく、目立たず、細々と生きていた。
………はずだったのに。
「ひぃぃぃぃ!!誰か助けて!!」
炎は衰える事なく、勢いを増して広がり、迫り来る。
「……見つけたぞ!悪魔の木!!」
燃え盛る炎をかぎ分けて、鎧に身を包んだ見知らぬ男が目の前に現れた。
「人だ!人人!!おーい!すみません助けて下さい。何か俺動けなくて、しかも周りめっちゃ燃えてるし、俺も燃えてるみたいに熱いんです!」
「覚悟しろこの悪魔の木め!」
こちらの声は届いてないのか、鎧の男はジリジリ距離を詰める。
「えっ何聞こえてないの?てか何それ悪魔の木って、もしかして俺に言ってんの!?」
鎧の男は、手にしていた巨大な剣をこちら目掛けて大きく振りかぶった。
(ガッ!!)
「いっでぇぇぇぇ!!」
振り下ろされた剣が自身に当たる感触と共に、腰のあたりに激痛が走る。
「くっ!さすがは悪魔の木簡単には倒れんか……」
貼り付けにされている状態で、鈍器で殴られたような感覚。激しく鈍い痛みが全身に走る。
「ちょま、ちょっと待ってくれ……。いきなり斬りかかるとか何ですか?てかあなた何?地獄の使いの方ですか?」
この状況を全く把握できず、混乱して勝手にここは地獄なのだと思い込む。
そう、目の前の男は地獄で刑を執行する鬼のような存在なのだと。
「でも待てよ、ここが地獄なら何で俺地獄に落ちたんだ?そもそも天国か地獄かとかの選定みたいなのあるんじゃないの?いきなり地獄確定なの?なにそれ聞いてないよ」
「ならこれでどうだ!、フレイムソード」
目の前の男は剣に何やら呪文のようなものを唱える。するとたちまち剣が炎を纏うように燃え上がり、そのまま男は炎の剣を再度大きく振りかぶる。
「剣燃えてる!!それでどうすんの!?また斬られるの俺!?」
またあの激痛が襲ってくる。恐怖で思わず目を閉じた、しかし構えていたのにも関わらずなかなか痛みは襲って来ない。
「あれ?……何だ?……どうなってんだ?」
恐る恐る目を開ける。
ガシャンと鎧が地面に叩きつけられた音と共に、先程の男が目の前に倒れ込む。倒れた男の背中には深い斬り傷があり、背後から何者かに斬られ絶命しかけていた。
「へっ?何これガチもんのやつ?」
傷痕からは、生新しい真っ赤な血が流れていた。
「……無事だった……。なんとか間に合いました賢者の木様!」
倒れた男の背後に、いかにもファンタジーの騎士のような格好の男が現れた。
白い鎧に白いマント、手には血に濡れた白銀の剣を携えていた。そして、鎧の胸の部分に見た事ないが、とても印象的な紋章のようなものが彫られていた。
「なんか知らんけど、ありがとうございます。ところでここはどこですか?それにさっきから動けなくて困ってるんですよね」
「この場所は私がこのランスロットがお守り致します」
全く持って聞き覚えの無い名前。ランスロットと名乗る男は、左手を胸に当てて軽く頭を下げる。
「あの〜……僕の話聞いてます?動けなくて熱くて困ってるんです!」
それから男は、携えていた白銀の剣を地面に突き立てた。
「ここは我が命と引き換えに!この場所を封印せん!」
「何かちょっとつま先あたりがチクッと痛いんだが……」
突き立てた剣を中心に、白銀の結界が辺りを包む。
しだいに、この空間だけ切り取られたように炎は消え、先程までの体の熱さは無くなった。
「あ〜なんだかすげー心地いい感覚だ。なんだか眠く……」
「……アーサー様、グィネヴィア様……どうかご無事で……そして……テレ……」
しだいに意識は遠退き、視界が白くぼやける。最後に目に写ったのは、悲しげな顔でこちらを見つめる騎士の男だった。
「……そんな……悲しい顔……しなく……ても……」
「………ん?……何だ??何か顔が痛いぞ??」
ゆっくりと目を開けると、先程までの地獄とは打って変わり、快晴の青空の下眩しいほどの日差しが差し込んでいた。
『暖かい………天国みたいだ………』
しかしそんな余韻に浸る間は無かった。目の前の鳥が一羽、一生懸命こちらの顔を突いている。
「痛いんだが!めっちゃ痛いんだが!」
鳥はしばらく突いたが、諦めた様にどこかへ飛び立った。
「なんなんだよ全く……。てかやっぱり体は動かないのな……」
突かれた顔が少し痛いが、それ以上に体が動かない事がショックで、残念そうに肩を落とす。
そして落ち込んだように視界を下に向けると、そこには先程見た白銀の剣が地面に刺さっており、傍に白骨化した遺体が転がっていた。
「これってさっきの剣だよな?それじゃあそこのガイコツはもしかしてさっきの騎士さん?」
遺体の白い鎧に、見覚えのある紋章。あの時の騎士に間違いないと断定出来た。
『パンパカパーン!スキル、聖騎士を喰らいし者。炎耐性。斬属性耐性を取得致しました!』
頭の中に、突如として女性の声が響き渡る。
「えっ!?いきなり何?スキルって何?てかあんた誰よ?」
『私は貴方様の魔導書にございます。先程申し上げたスキルは、聖騎士から養分として吸い取った一部と、炎と斬属性による攻撃を一定値耐えて得たスキルにございます』
「ふぁ?」
いきなり頭の中で喋りかけて来て、スキルや耐性などと言われても、そのような単語ゲームやマンガの中でしか聞いた事がない。
「スキルとか何とかよくわからんけども………。ここどこよ?天国なの?地獄なの?そんで、1番重要なんだけど、何で俺動けないの?」
『この場所はアヴァロン大陸、ブリタニア王国内、キャメロット城の跡地になります』
「アヴァロン大陸?日本じゃなくて!?……しかも跡地ってどゆこと?」
頭の中隅々まで網羅して地図を浮かべたが、そんな場所聞いた事がない。
『先の内乱で、あるお方が謀反を企て国は崩壊。城は燃えて無くなりましたが、聖騎士ランスロット様の結界によってこの場所は守られ、我々は生きながらえました』
全くもって理解出来なかったが、嘘を言っているにしてはリアル過ぎる。半信半疑ではあるが、守ってくれた聖騎士と言っていたのも、このガイコツかと思ったら何だか納得がいった。
しかしそんな事よりも、1番気になる事が一つ。
「んで、何で俺動けないの?」
『あなたは偉大なる木にございます『大空 大樹』様。この世界の貴方様の名前は『賢者の木』。死してこの世界に転生されし、偉大なる者にございます』
「転生?……それが動けない理由??……まてよ、賢者の木?そう言えばさっきこのガイコツが似たような事言ってたような……」
男は今見えている視界を体の隅々を見るように集中させた。すると、前方しか見えなかった視界が、まるで360°見渡せるように映る。
「ひぁ〜すごい!全部見える………。ってちょっと待てよ!この目に映る木の枝……」
右手をヒョイっと動かすと、目の前の木の枝がヒョイっと動く。
「へっ?」
足は埋まっているように動かないが、手を動かすと枝が動く。
「もしかして俺木になってる?」
『はい。貴方様はこの世界に知をもたらす者。『賢者の木』にございます』
そう言われて、頭が真っ白になる。せめて人間とかに転生するものだと思った大樹。まったくもって的外れな転生にショックを受け、しばらくその場に立ち尽くした。
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