第3話:愚行

「御嬢様、大変でございます」


 レイ辺境伯家の王都屋敷を預かる家老が顔を真っ赤にしています。

 よほど腹立たしい事があったのでしょう。

 昨晩から帰領に向けて忙しくしているのに、また何かあったようです。

 どう考えても王太子がらみでしょうね。


「何事ですか」


「許し難い事が起こりました。

 王都の高札場で御嬢様が婚約破棄されたと掲示されております。

 しかも原因が下級貴族に対する虐めと不義だと言うのです。

 それが原因で王家から婚約破棄され王国追放処分になったというのです」


 やれ、やれ、やれ、王太子も愚かな事を繰り返しますね。

 それともポルワース男爵家がやったのでしょうか。

 これでもう内々に話しを納める事など不可能になりました。

 レイ辺境伯家は名誉のために断固とした態度を取らなければいけなくなりました。


「御嬢様、このような物が配られております。

 もはや王家を許しておくことなどできません。

 今直ぐ王城に攻め込む許可を下さい」


 王都屋敷の騎士隊長も真っ赤な顔をしてやってきました。

 その手には一枚の瓦版を持っています。

 もう聞かなくても大体の事が予測できます。


「この瓦版に御嬢様の事が悪し様に書かれております。

 このような恥をかかされて黙っている事など絶対にできません。

 今直ぐ攻撃許可を御願いします」


 王太子も少しは無い知恵を絞ったようですね。

 お金を使って瓦版を刷らせて情報操作を考えたようです。

 ですがその後の亡国が予測できないので大馬鹿としか言いようがないですね。

 ここで私が攻撃命令を出してしまったら、王太子と同類になってしまいます。

 何よりも王都屋敷の者達を無駄死にさせるわけにはいきません。


「私は愚かな王太子とは違うのですよ。

 後々どうなるかも考えられないような愚者ではありませんよ。

 家臣に無駄死にしろと命じるような暴君でもありませんよ。

 ここは一旦領地に戻り、必勝の態勢で王都に戻ってくるのです。

 その上で王家を皆殺しにするのです」


 こう言わないと血の気の多い騎士達を抑える事ができません。

 彼らは魔獣との戦いで死線を超えて生き残った歴戦の戦士です。

 それだけ自分の武勇にも仕えるレイ辺境伯家にも誇りを持っています。

 私に冤罪を擦り付けると言う事は、その両方を踏み躙ったのです。

 少々の説得では引いてくれません。


 ですが無駄死にせずに戦略的撤退をしなさいと言えば従ってくれます。

 彼らは魔獣から民を護るために普段から戦術戦略を駆使しています。

 遠回しに自分の名誉のために私を巻き込むのかと言えば分かってくれます。

 今王城に攻め込めば私は王都で死ぬ事になります。

 彼らはそんな事をしたりはしません。


「愚かな事を申しました御嬢様。

 何があっても無事に領地のお戻ししたします」

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