モモの夢

あべせい

モモの夢


 都心のビジネス街に林立するビルの1つ、屋上に「青木商店」と大きな看板が掲げられた10階建て雑居ビルの1階に、シャレた外観の喫茶店「ブランジェ」がある。軽食に提供するパンがうまいと評判の店だ。そこに、一人の若者がやってくる。

「いらっしゃいませ」

 午後2時過ぎのせいか、客は7、8名しかいない。3人いるウエイトレスのひとり、杜谷モモ(もりたにもも)が、「わたしが行きます」と言い、席を探している新規客の若者のもとに行った。

「お客さん、どうぞ。こちらの席が、外がよく見えて、よろしいかと……」

 モモは、少し離れた窓際のテーブルを示しながら、先導した。若者は、素直にモモのあとについていき、腰を降ろす。

 モモは若者の前に、「ヒヤタン」と呼ンでいる水の入ったグラスをトレイから取って置き、改めて、

「いらっしゃいませ」

 と、深く頭を下げた。

 店の責任者であり、従業員から「ママ」と慕われている美千子から、しつけられた通りのやり方だ。

 美千子の経歴はよくわからないが、この喫茶店を始めて7年になる。

 若者は、思い出し笑いなのか、フッと明るい笑顔を見せてから、

「煙草は吸っていいですか?」

「はい、この時間から4時までは喫煙タイムになっています」

 モモはそう言って、テーブルの列を仕切っている幅15センチほどの衝立の棚から灰皿を取って、若者のテーブルに置いた。

 よく見ると、その衝立には「PM2~4時喫煙可」という貼り紙がある。若者はそれを見て、モモに確かめたのだ。

 若者はテーブルにあるメニューを覗いている。で、モモは、

「ご注文がお決まりの頃、おうかがいします」

 と言って踝を返した。これも、美千子が決めた接客マニュアルだ。

「待って。決まっているから……」

「はい」

 行きかけたモモは振り返り、若者のそばに戻った。若者はB5サイズのメニューを手に取り、身を屈めたモモの前にかざしながら、

「これと、これ……」

 と言って、指差す。

「アッ……」

 モモはびっくりして、周囲を見回した。

 若者は、最初にメニューの「コーヒー」を指したが、次に指したのは、親指でメニューに持ち添えている小さな紙切れ。

 その紙切れには、

「ぼくは、ママの息子です。内緒でお金を融通して欲しい」

 とボールペンで書いてある。達筆とは言えない。走り書きだ。

 モモは、店を取り仕切っている美千子の家庭の事情をよく知らない。美千子に息子がいることも、だ。

「お待ちください」

 モモは、ママが不在の場合の責任者であるキッチン主任の姉崎に確認しようと踝を返す。ところが、

「待ってッ。ほかのひとには言わないで」

 そりゃ、そうだろう。本当だとしても、外聞のいい話ではない。モモは、立ち止まって振り向いた。

 若者は、

「キミ、名前は?」

 モモは無礼やつだと思う。まず、自分から名乗るべきだろうが。客はモモの眉が吊り上がったのを見て、

「失礼。ぼくは、佐武仁朗(さたけじろう)。ママの息子だけれど、お袋の美千子はこの店のオーナーの愛人だから、オーナーの腹違いの息子とも言えるンだよ」

「本当ですか……」

 モモは、美千子が、ある人物からこの店を任されているとは聞いていたが、彼女が愛人とは知らなかった。しかし、美千子は、モモの目から見ても、美女の部類には入らない。豊満で、胸も臀部も確かに豊かだが、それだけだ。年も食っているから、顔の色艶や小皺を見て、男が食欲をそそられる女ではない。

「わたしは、モモです。あなたが本当にオーナーのご子息としても、お店のお金をお貸しすることはできません」

「そうじゃない。モモちゃん、キミ個人に頼むンだよ」

「エッ、そんなァ……」

 モモは改めて佐武仁朗を見た。マスクは一応整っている。いい男の部類だろうが、眉を形よく剃っている。女じゃ当たり前だが、モモはこの種の男に違和感を覚える。男が鏡とにらめっこして眉を手入れしている姿を想像すると、つい「男のくせにッ」という言葉が口に出る。早くに死んだ父が口癖だった言葉だ。

 髪は短く刈り揃えている。服装は、パンツにTシャツ。薄緑の淡い色で好感が持てる。

 しかし、見ず知らずの女性に金の無心をするなンて、非常識じゃないか。

「わたし、あなたのこと、よく存知ません。それに、ここに長くいると、先輩に叱られますから……」

「そうか。じゃ、またあとで……」

 モモは、仁朗の納得した顔を見てから、急いでカウンター前の持ち場に戻った。


 40分後。ママの美千子が現れた。いつも通りの時刻だ。モスグリーンのゆったりしたワンピースを着ている。美千子は客用の出入口から入ると、まずレジ前に立って、その日のそれまでの売上げを調べる。

 そのとき、美千子は、奥の窓際に視線を走らせた。仁朗は、レジのほうに背中を向けて腰掛けていたが、美千子にはすぐわかったようだ。しかし、美千子はレジを調べ終えても、仁朗のほうには行かず、まっすぐキッチンに向かう。

 主任の姉崎に挨拶するのが、いつもの決まりだからだ。そのとき、仁朗が、モモを見て手を上げた。

 モモは美千子の反応を見ていて、仁朗がウソをついていないと感じ取っていたから、好奇心から彼に対して強い興味が湧いていた。

 モモが仁朗のテーブルに行くと、

「ホットコーヒーのお代わり、ください」

 仁朗の言葉遣いは丁寧だ。この店では、ホットコーヒーに限り、お代わりは半額になっている。

「はい。かしこまりました」

 モモは仁朗の目を覗きこむようにして答える。仁朗がほかに何か言いたそうにしていたからだ。

「ほかに何か、ございますか?」

 モモは、つい余計なことを言った。すると仁朗は、当然のように言う。

「さっきのこと、考えていただけましたか?」

「エッ……」

 金の無心だ。モモはすっかり忘れていたが、そんなことはおくびにも出さず、背を屈めながら、小声で、

「わたし、ひと様にお貸しできるようなお金は持ち合わせていません。例え持っていたとしても、初対面の方とお金の貸し借りはしたくありません」

 と、はっきり言った。ところが、仁朗は、

「ぼくはキミのこと、いやモモちゃんのこと、よォく知っているよ。それでも、ダメか……」

 急に、タメ口になった。

「わたしのこと、あなたがッ……」

 モモは、信じられないという顔で、もう一度仁朗を見つめ直した。

 モモがこの店に入ったのは、つい2ヶ月前だ。その前は、新宿、池袋の喫茶店と渡り歩いてきた。この虎ノ門の喫茶店だって、いつやめるかわからない。まだ、22才だから、いやなことがあればいつだってやめてやる。そんな気持ちで毎日働いている。

「いろいろ知っているよ。中野に住んでいて、野菜より肉が大好きで、なかでもラムが一等好物。通勤にはワンピースを着ているが、家ではTシャツにジーンズ……」

 モモは聞きながら、そんなことは同僚の若葉ちゃんからでも仕入れたのだろうと考える。

「もう、いいわ。それで、いくらわたしから毟り取りたいの?」

「エッ」

 仁朗は、口をポカンと開けたまま、モモを見つめる。

「毟り取る、って。ごめん。冗談だよ。お金の話は。キミと話がしたくて、言っただけだ」

「そうなの……」

 本当にそうだろうか。ママの息子が、店の従業員からお金を借りるというのはおかしな話だが、出来の悪い息子ならやりかねない。3万円までなら借用書をとって貸してやり、戻ってこなかったら、ママから返してもらえばいい、と腹を括ったところだった。

「モモちゃん、実はキミに頼みがあって……」

 と、仁朗が言いかけたとき、

「ジロウ、きょうはナニ?」

 モモがハッとして振り返ると、美千子がお冷や用のポットを手に艶然と立っている。各テーブルを回り、お客に一声掛けて、グラスに水を足していくのが、店に来てからの美千子の日課になっている。

「母さん、あのことで、杜谷さんにお願いしようかと思っているンだけど……」

「あァ、あれね。いいけど、モモちゃんに迷惑かからないようにしてね。わたしにはわからないから、あなたに任せる」

 美千子はそれだけ言うと、ほかのテーブルに行った。

「何ですか? 頼みごと、って?」

 モモは、美千子が間に入ったことで、仁朗に親近感を覚えた。

「モモちゃん、先週のきょうのことを思い出して欲しいンだ」

「先週のきょうですか?」

 モモには、何のことかまるで見当がつかない。

「モモちゃん、休憩はいつ?」

 モモは、文字盤にムーミンの絵柄が付いた腕時計を見て、

「あと10分ほど……」

「だったら、そのとき、店の事務所で話すよ」

 モモは、休憩までの10分間、「先週のきょう」のことを考え続けた。

 先週のきょうは、水曜日。モモが遅刻した日だ。プランジェの営業時間は、あさ9時から、午後10時まで。3人のウエイトレスは、2時間半違いの早番、中番、遅番に分かれていて、先週の水曜日、モモは11時半出勤の中番だったが、店に来る途中の交差点で、ちょっとしたトラブルがあった。

 車道を走っていた乗用車がガードレールのない歩道に、車体を半分ほど乗り上げた。狭い車道ではよくある光景だから、だれも気にとめない。ところが、車を運転していた若いドライバーが車から降りてくると、いきなり、

「オイ、待てッ!」

 と、大きな声で叫んだ。若者は色の濃いサングラスを掛け、ハンチングを被っているため、人相風体がよくわからない。

 車の乗り上げた歩道を歩いていた7、8人の通行人は、一斉に振り返る。そのとき、横断歩道を渡ろうとするモモは、反対側の歩道から、そのようすを見ていた。

「アタッシュケースを下げている、おまえダッ!」

 と、左手にアルミ製の四角い鞄を持っていたチンピラ風の男が、ドライバーを見ると、ハッとしたように走り出す。

「待てッ、返せッ!」

 ドライバーは叫び、脱兎のごとく逃げる男を追いかけた。事件はそれだけでは終わらなかった。

 10数秒後、くたびれた作業服を着た中年男が、歩道に乗り上げている車にふらふらと近付き、運転席に腰掛けると、素早く車を発進させた。キーが差したままだったらしい。

 モモはそれを見て、「お知り合いなのだろう」と考え、青に変わった横断歩道を渡りだした。中年男の運転する車は、たちまち車道を行き交う他の車にまぎれて見えなくなる。

 モモが横断歩道を渡り終え、プランジェの方向に行きかけたそのとき、

「エッ、ないッ! おれの車、いや借りた車が……」

 と、わけのわからないことを言っている。モモは、そのとき初めて、彼の車が中年男に盗まれたのだと知り、その若い男を気の毒そうに見つめた。

 と、モモの視線が、周囲を見渡していた彼の目と、寸分違わぬほどにバッチリ合った。2人の間に、激しい火花が散る。

 しかし、モモはすぐに視線を外す。余計なことに関わりあいたくない。しかも、これから出勤だ。それでなくても、この日は電車を一本乗り過ごしていたため、10分近く遅れているのだ。

「キミィ……」

 と言ったドライバーの声が肩越しに聞こえたが、モモは無視して店に急いだ。

 あのときの若いドライバーが、仁朗だと言う。

「ウソでしょう?」

 モモは、狭い事務所の小汚いソファに腰掛けながら、間に1人分の隙間を空けて左横に座っている仁朗に話しかけた。

 あのドライバーは、黒いサングラスを掛け、黄色いハンチングを被り、オレンジ色の半袖シャツに真っ白の細身のズボンを履いていた。ここにいる仁朗は、紺色のブレザーに、ジーンズを履いている。

「あのときは、芝居の稽古の帰りだったンだ。大学演劇部の……」

「あなた、お芝居をしているの」

 モモは演劇や芸能に、強い関心がある。しかも、この店には芸能人がよくやって来る。

「お願いというのは、あのときぼくが車を盗まれたということを証言して欲しいンだ」

 仁朗は思いがけないことを口にした。

「どういうこと?」

 モモには、なんのことかわけがわからない。

「目撃者になって欲しい。実は、あの車は友人から借りていたンだけれど、車を盗んだ犯人があのあと、女性を轢いてケガをさせた、っていうンだ。でも、警察はぼくがやった、って……」

 仁朗は、モモを正面に見据えて訴える。

 モモにもようやく事情が飲みこめた。要するに、事件の目撃証人になって欲しいというのだ。しかし、モモはふと思った。

 あのときの男性が本当に、ここにいる仁朗なのか、と。

 それに、疑問はまだある。

「あなた、佐武仁朗さん、どうしてわたしがここで働いているとわかったの?」

 しかも、モモが、彼の母が仕切る喫茶店の従業員だったというのも、偶然過ぎないか。

「もちろん、ぼくがあのあと、キミを追いかけて、この店に入るのを確かめた。逃げた男のことで、後日、何かの役に立つと思ったからね……」

「そのアタッシュケースを持って逃げた男のひとって、どういうひとですか?」

 モモは仁朗に疑いを抱いた。

「あいつは同じ東都大の友人だったけれど、バイトがおもしろくなって大学を中退して、株のセールスをしているバカだ」

「それがどうして……」

「ぼくもバカだけれど、あいつに絶対もうかるからと言われて、30万円を出し、勧められて銘柄株を買った。でも、結局大損させられて……」

「あの交差点で、その彼を見つけた、ってことなの?」

 仁朗は頷いて、

「電話しても出ないし、逃げ回っていたからね」

 一応、理屈は通っている。

「いいわよ。警察でも裁判でも、見たことはありのまま話す。それでいいンでしょ」

「そうだ、けれど……」

 まだ、何かあるのしから? モモは仁朗の釈然としない顔を見つめ、不思議な感じがした。

「キミはぼくの話がおかしいと思わないのかい?」

「エッ?」

 モモは思う。わたしは高校もロクに出ていない無学な女だ。でも、頭の回転はそれほど悪いとは思っていない。これまで、5つ職場を変わってきたが、そのいずれでも人並み以上に仕事はこなしてきたつもりだ。この男は、いったい何を言いたいンだろうか。

「ぼくは、さっきテーブルにいるとき、キミのことをよく知っていると言ったよね」

 モモは深く頷く。そして、仁朗の口から、次に出る言葉が予想できた。

「佐武仁朗さん、あなたの話はほとんどが作り話でしょう。本当のことは、東都大で演劇部に所属していること、ぐらいでしょ」

「エッ!? キミって、モモちゃん、どうして?」

「だって、先週の水曜日にあの交差点で見た男のひとは、あなたじゃないもの。ちっとも似ていない。サングラスを掛けて、細面というだけで、あとは身長も骨格も違っている。あなたは自分によく似ている男だと思って、咄嗟に思いついた話なのでしょうけれど……」

 仁朗の表情は見る見るうちに、驚きから、晴れやかな笑顔に変わった。

「キミはすごいッ。話以上だ!」

「エッ?」

 モモは仁朗が何を言おうとしているのか、わからなくなった。

「ウソをついていて、ゴメン」

「あなたは、たまたまあの現場に居合わせ、わたしの記憶力を試そうとしたの?」

「実を言うと、お袋なンだ。キミのことを話してくれたのは。『こんど、かわいい娘が入った』って。『かわいいだけではなくて、頭もキレる。学歴は家庭の事情で義務教育しかないけれど、つきあうなら、ああいう娘がいい』って」

 モモは首を傾げる。これまで、そんなに誉められたことはない。こういうときは用心しろ。亡くなった父がよく言っていた、っけ。

「お袋は、ぼくがいままで出来の悪い娘とばかりつきあっていたから、こんどはわたしが見つけてあげる、と前から言っていたンだ。ぼくには、女性を見る眼がないみたいなンだ。勿論、ぼくは、そうは思っていないよ」

「わたし、ふつう以下の女よ。高校も出ていないし、やることはドジばかり……」

 しかし、仁朗はモモの話を聞いていない。

「お袋は、いま、この店とは別に、カウンターだけの小さな喫茶店を準備していて、そこを任せられる人間を探している。本当は息子のぼくがやればいいンだけれど、ぼくは水商売より芝居が好きで、こんど大学のクラブとは別に、小さな劇団を旗揚げしようと計画している。お袋は、その小さな喫茶店の店長を、キミにお願いしたいと考えているらしいンだ」

「それも、ウソね」

「エッ……」

 仁朗の眼は、まぶしそうに瞬いた。

「わたし、ここに来て、まだ2ヵ月の、しかも22才の若い女よ。わたしのような女に、そんな大事なことを任せるひとはいないわ」

 仁朗は、目を大きく見開いて、

「キミは冷静だな。どんなに持ち上げられても、浮かれることを知らない。どうして、そんなにシッカリしているンだ。幼い頃に、よほどつらい体験があった……」

 そうよ。だれにも言えないことだけれど、わたしは疑うことしか知らない。だから、幸せになれない……。

「お袋はその小さな喫茶店の店長を、ぼくにやらせたいらしいンだ。だから、ぼくはキミを推薦しよう、といま思いついた。でも、キミは承諾しそうもないね……」

 モモは、頷く。

「わたし、あなたのもう1つの計画になら、ノッてもいいわよ」

「エッ!? まだ何も言っていないのに、どうして、わかるンだ?」

「だって、劇団を旗揚げするのだから、劇団員が必要でしょ。ここのお店が終わったあとでよかったら、参加させて欲しい。わたし、お芝居にはとても興味があるから……」

 モモは初めて、心を開いた。女優という大それた夢ではないが、東京に出て来てから劇団員を募集している大手の劇団に、何度か応募したことがあった。しかし、学歴が影響したのか、筆記試験の成績がよくなかったのか。その都度不合格になった。しばらくは考えないでいようと思っていたところだ。でも、夢は持っている。

「ヨシッ、決めた。モモちゃん、キミはぼくの劇団の団員第1号だ」

 仁朗は、明るい顔でそう言い、モモの頬を両手で挟むと、唇を接近させる。

「待ってッ! キスはダメ。こんな筋書きでキスを迫るようなら、あなたの書く台本は、まだまだ練り直さないといけないわ」

「モモちゃん、台本を書いたことがあるの?」

「わたし、中学の部活で演劇部の部長をしていた。台本は、原稿用紙を積み上げると、自分の身長ほど書いたもの」

「だったら、このあと、ぼくたち2人は、どうすれば、いちばん自然なのかな?」

「そうね。あなたは、大学の講義がないときは、このお店でしっかりウエイターのバイトをして、わたしを観察すること。そうしたら、本当の女が少しはわかるようになるわ」

「難しいンだな、女性って」

「女性だけじゃない。人間が難しいの。いろいろあるから。わたし、こどもの頃、とっても、悲しいことがあった、でも、そのことを話せる相手が、まだ見つからない……」

「モモちゃん、ぼくが、その相手になる。そして、キミのことを芝居にしたい」

「それは、恋愛でしょ。もっと冷静になって、人間を観察しなきゃ。わたしの話にだって、どんなウソが混じっているか、わからないでしょ」

 モモはそう言って、何の苦労も知らないお坊ちゃんを相手にしている自分が、哀しくなってきた。田舎に帰れば、病気の母と、その母を介護している妹がいる。わたしは、長女なのに、母を妹に押し付けて上京してきた。いつか、このしっぺ返しが来ると思っているのだが……。

                     (了)

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モモの夢 あべせい @abesei

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