どこかの、いつかの、だれか

八神一久

第1話 悪夢の姫君


 一番古い記憶

 それは仄暗く狭い場所で見知らぬ男たちに犯されている時のことだ。

 まだ年端もいかぬ少女だった私を“魔族”という理由で犯し、穢し、嬲った。


 「どうせ死んでも誰も悲しまない程度の下賎な民族」


 そんな言葉を吐いた誰かが笑うと周りのみんなも笑い出す。



 毎度毎度、痛かったし、辛かった。

 美味しくないものを飲んで「美味しい」と笑顔を浮かべ、痛みを感じれば「気持ちいい」と叫び、彼らが帰る際には「また私をお使いください」と言わなければならない。

 暗く、淫らで、この時代のことを他の人に話すと悪夢の中の出来事と称される。

 だけど私には悪夢とは思えなかった。



 だって……時々、散歩として連れ出される外の世界の美しさを知っていたから。

 朝焼けの白く輝かしい姿を知っていた。

 真っ白でふわふわとした雲がゆったりと青空を泳いでいる姿を知っていた。

 夕暮れの藍と茜色が混じり合う妖艶な姿を知っていた。

 そして、満天の星をも霞ませる程の月の美しさを知っていた。





 どんなに体を穢されても、なお穢れることなかった私の魂は果たして…………。





 生物としての形を保っていたのだろうか?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る