僕と彼女が再び恋に落ちる何気ない日常を綴る話【四月の雪】
月平遥灯
四月の雪
はじまりのお話
はじまりのお話 君と綴る日常の1ページ目
結婚式が終わってはや四ヶ月。騒々しい土砂降りの
芝生に寝転んで瞼を閉じた。大病を患った僕を献身的に支えてくれた女性は最愛の人。彼女と結婚できたことが嬉しくて、当たり前の四季折々の風景や薫りや彩る草木、花々の感触がとても
「
寝転んだまま見上げれば、見下ろす最愛の人——
「充希。見つかっちゃったか」
「だって、毎日ここで日向ぼっこ……じゃなかった。日焼けしていれば、心配にもなるよ」
「………日陰だし。大丈夫だよ」
「確かに健康になったみたいだけど、油断大敵だからね」
「体調は……本当に悪くないよ。だから、今度———」
「山登りでしょ。うん。いいけど、無理しちゃだめだからね」
僕のとなりに腰掛けた充希は、微笑んで僕に身を寄せた。ラズベリーの薫りと僅かな
「そろそろ、振り付けしないとダメなんじゃない?」
「そうだね。充希も付き合ってくれる?」
「しょうがないなぁ。でも、踊るの大好きだし。ダンスは血液だしね」
僕の職業はダンサー。正確に言えば、ダンススタジオでダンスを教えている。下は未就学児から上は高校生まで。最近は、ここだけの話、芸能人が習いに来てくれることも。運営が軌道に乗って嬉しい反面、振り付けを考えたり曲の編集をしたりして、多忙なのがいただけない。だって、スローライフを求めているんだよ?
ダンススタジオは、家から少し離れた場所にある。昔、雑貨屋さんだったテナントを買い上げて、スタジオにリフォームした。
曇り一つない鏡に向かって己を見つめる。下げた顔を再び上げる時、身体の芯に電流が流れたようにスイッチが入る。大病を患った僕は、高校もまともに卒業できなかったし、闘病中はダンスも取り上げられてしまった。だけど、移植した心臓が僕を認めてくれた。僕を生かしてくれた。深く生を見つめて、奇跡という言葉だけで済ませないように日々感謝をしている。
元の持ち主は女性だったと聞く。どんな想いで亡くなったのかは分からないが、僕はその人の分まで精一杯生きる。
「春夜くんのダンスって、日々進化してるね」
「うん。病気する前よりも調子いいくらい」
「ほんとっ!? 良かったっ」
僕に抱きつく充希は、僕をそのまま押し倒して覆いかぶさった。彼女も僕が生きていることに喜びを感じてくれている。口癖は————。
「春夜くんと一緒にいられることは、奇跡の上に成り立っているんだよね。だから、僅かな時間でも無駄にしたくないの」
つまり、充希とはいつまでも両想い。僕と充希は幸せだっていうこと。
僕と充希のなんでも無い、ドラマチックでもない、ただ生きているだけの物語を話そうと思う。
はじまりのエピソード。
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