ヴァンパイアの連続殺人事件<5>
--ギルド
ヴァンパイアに簡単に消えない傷を付ける為に必要な銀の武器を入手する為に二人はまずギルドを訪れた。
「報酬の前借りをしたい?」
「武器を買うのにどうしても必要なんだ」
ギルドマスターは首を横に振った。
「そういうのは受け付けてません。今ある装備で
「何か他に簡単にできる
「あ・り・ま・せ・ん。それよりもあなた達は今やってる
「その為に銀の武器が必要なんだよ」
「でーすーかーらー、手持ちの装備で何とかしてください」
二人はギルドマスターに無慈悲に追い出された。
「銀の武器ってのは具体的にどの位の大きさがあればいいんだ?」
「傷跡を付けるだけでいいなら針位の大きさでもいいんだ。銀さえ手に入れば・・・」
和司は財布の中を覗いてみた。ゼニーガ硬貨に混じって日本円がジャラジャラ出てきた。それを見て何か思い付いた。
「この世界での金銀銅のレートってどうなってるんだろな」
「俺達がいた地球とこの世界の鉱物資源の埋蔵量が同じとは限らないかもな」
「クルプに聞いてみよう」
和司は話し貝を押してクルプに連絡を取った。拳銃と警棒の製作で無茶振りをされただけに、今度は何の用だと怒鳴られた。
「金と銀と銅ってどの順番で高いんだ?」
『その中でなら金は採掘量が少なく、最も高価な資源じゃ。王族や高級貴族の装飾品にのみ使われておる位じゃからな』
そこは現実世界と変わらないのか。話を続ける。
『問題は銀の価値じゃ。50年前の戦争ではブロンズソードやブロンズアーマーは強度はあった物の魔族相手には全く歯が立たなかったからな。そこで多少強度は落ちても破邪の力を持つ銀の採掘を最優先にされたんじゃよ。じゃが戦後、壊れた鎧や使われなくなった武器が市場に大量に流れて銀の相場は暴落。銅より価値が落ちたんじゃ。ここ20年の間に銅の採掘も再開されたんじゃが、それでも銀の価値は銅よりもまだ低い』
「じゃあ銅はそれなりに価値があるのか?」
『そうじゃな。お前さん弾丸を作るのに鉛を銅でコーティングしろって言ってたじゃろ。大量に作れと言っておったが少し値は張るぞ』
和司は財布から10円玉だけを出してみると14枚ある。
「お前結構10円持ってるんだな」
「この前自販機でコーヒー買ったらお釣りが全部10円で帰ってきたからな」
弘也が持っている10円玉三枚を合わせると合計17枚。10円玉一枚の重量が4.5gなので76.5gある。
「これでどれだけの銀と交換できるか、だな」
二人は近くの鍛冶屋に行ってみた。武器の調達ができない今、これが頼みの綱だ。
−−鍛冶屋
和司は持っていた10円を鍛冶屋に渡して銀と交換する事にした。クルプの言う通り、銀の価値は銅より落ちていて76.5gの銅が120gの銀に交換できた。
「銀をこのくらいの大きさの玉に加工できるか?」
和司は指で約1cm位の大きさを示した。
「全部作ってしまっていいのかい?」
「それで頼む。あとこれ貰っていいか?」
和司は剣を打つ時に使うペンチを手に取った。
「一つ位なら構わないよ」
和司はジャケットの内ポケットからコンドームを何個か取り出した。
「ちょっと待て、お前何でそんな物持ち歩いてんだよ?」
「いつ使うか分からないだろ」
「一生使う事なさそうだな」
伸ばしたコンドームを何重にも重ねて逆さにしたペンチの両側の持ち手に結びつけた。ゴムを引っ張ってどの位伸びるか試してみる。これと銀の玉を合わせると一つの武器になった。
「なるほど、スリングショットか」
「飛んでいる相手に攻撃するならこっちも飛び道具が必要だ」
言っている事は全く変じゃない。あり合せの材料だけでよく作ったと言いたいが、その中にコンドームが含まれていると思うと何とも言えない気持ちになる。
「あとはヴァンパイアが苦手としている強烈な匂いがする香草を用意しよう」
「ニンニクじゃないのか?」
「ヴァンパイアは匂いが強烈な物を苦手としているんだ。だからニンニクじゃなきゃダメって事ではない。匂いが強ければ香草でも何でもいいんだよ」
作戦はこうだ。ヴァンパイアの殺害対象者がいる家に匂いが強い香草を設置、家内への侵入を回避してヴァンパイアがイヴラクィック町から離れて飛び去った後、ウォルストン邸に乗り込む。家に設置する物については住民達に説明をして各自用意して貰う。
−−夜
次に現れると予想される場所のうち、14〜15歳の少女がいる家の窓に香草を設置したのを確認した二人は路地裏に隠れてヴァンパイアが現れるのを待った。
「本当に来るかな?」
「大丈夫だ。信じて待とう」
街の静寂に二人は飲み込まれそうになっていた。ゴクリとつばを飲み込む音だけが聞こえる。
「来たぞ」
弘也が予想した通り、巨大なコウモリが上空を旋回しながら近くの家の窓に取り付こうとしていた。しかし香草の匂いのせいなのか、簡単に近付けないでいる。
「そこだ!」
和司が放った銀の球は巨大なコウモリの羽を貫通した。一度はバランスを逃したが、コウモリはすぐさま窓から離れて上空に飛び去っていった。
「後を追うぞ」
二人はコウモリの後を追い掛けた。
「ハーバート・ウォルストンだろうか?」
「あいつに銀の武器で負ったダメージ痕を確認できたら詰みだ」
−−ハーバート・ウォルストンの屋敷
屋敷のドアをノックしてみるが返事がない。ノブにそっと手を掛けると扉は簡単に開いた。
「これって入っていいって意味だよな?」
「どうやったらそんな解釈ができるんだか」
中に入った二人はハーバートの姿を探した。明かりのない廊下は主のいない館同然、時折風が表の木々をはためかせる音を生み出している。しばらく歩くと、まるで待っていたかの様にハーバートが立っていた。
「君達、勝手に人の屋敷に入るとは無礼ではないのかね?」
「これは失礼。誰もお出にならなかった物で」
よく見るとハーバートの左腕から煙が登っている。
「それはどうされたんですか?」
「天体観測をやっていたら転んでしまいましてね。お恥ずかしい」
「巨大なコウモリを追ってここまで来たんだ。何か知っていることがあるんじゃないか?」
「あるいはお前が巨大コウモリの正体だったりして」
ハーバートは一瞬、言葉を失い、沈黙が場を包んだ。しかしその後、彼は不気味な笑みを浮かべ、冷静に言葉を紡ぎ出した。
「なるほど、君達には隠し通せないようだね。仕方ない、全てを明かそう」
その瞬間、ハーバートの姿が変わり、彼の目が赤く輝いた。彼の周囲に暗いエネルギーが集まっていく。いかにもヴァンパイアといった容姿だ。和司はスリングショットを構え、弘也は木剣を抜いた。
「朝まで持ちこたえればこっちの勝ちだ」
ハーバートは二人に襲いかかる。和司と弘也は木剣を巧みに使い、攻撃をかわしながら反撃の機会を伺った。和司は全神経を集中させ、弘也は剣術の技を駆使してハーバートの攻撃を受け流した。
「君達の抵抗は無駄だ!」
「無駄かどうか、試してみよう」
ハーバートが赤い目を輝かせながら和司と弘也に襲いかかる。彼の動きは風の様に速く、鋭い爪が二人を狙って空を切る。しかし、和司と弘也は互いに背中を預け合い、息を合わせてハーバートの攻撃をかわしていた。
「これではどうかな?」
ハーバートは宙を舞い、鋭い爪を振り下ろす。弘也は瞬時に木剣で受け止めて力強く跳ね返すが、ハーバートは軽々と後方に跳び退いて体勢を立て直す。彼の顔には余裕の笑みが浮かんでいる。
「これじゃ狙えないぞ」
スリングショットを構えた和司だったが、縦横無尽に飛び回るハーバートを狙えない。弘也は剣術を駆使してハーバートの近接攻撃を次々と受け流す。ハーバートが再び爪を振りかざした瞬間、弘也はその腕を払いのけ、木剣の柄を相手の腹部に突き入れた。
「今だ!」
「よっしゃ!」
隙を見せたハーバートに放った銀の弾が肩に命中し、彼は苦痛の叫びを上げた。動きが鈍ってもなお弘也は攻撃を続け、スリングショットの援護をする。
「これで最後だ!」
和司が放った銀の球はハーバートの胸に命中し、それを弘也が木剣で突いて身体にめり込ませた。
「くぅっ!」
大ダメージを受けたハーバートは窓際に追い込まれた。その瞬間、カーテンの隙間から光が差し込んできた。朝だ。光がハーバートに触れると、彼の顔に恐怖が広がる。彼は必死に光から逃れようとするが、和司と弘也が逃げ道を塞ぐ。
「お前達ぃー!」
ハーバートは悲鳴を上げながら灰となって消えた。闇が晴れ、朝日の光が屋敷を照らした。
「ふぅ・・・終わったか」
「しかし、これ逮捕したって言えるのか?」
「どっちかと言うと退治だよな」
洋館から出た二人は戦闘でつかれた身体を癒やしながら帰路に付いた。
「一つ聞きたいんだけどさ。ヴァンパイアって自分の血を吸ったらどうなるんだ?永久機関が出来るだろ」
「そういえば・・・何でだろうな」
二人の噂は瞬く間に街中に知れ渡った。文字しかない新聞の一面トップに載ったからだ。玄関ドアを開けると警察と名乗りながら変な物を見せる二人組がイヴラクィック町に出没するヴァンパイアを退治した、と。
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