ヴァンパイアの連続殺人事件<3>
−−ギルド
「同様の事件がイヴラクィック町で三件発生しています。いずれも朝起こしに行ったらベッドの上で亡くなっていたという物です。深刻な事態だと判断した法政院からギルドの方へ正式な依頼が来たというわけです」
法政院とは検察から拘置所・裁判所までをひとまとめにした様な組織だ。役人・衛兵・捜査官の三つで構成されており、検察や裁判に従事する役人、犯人の移送や拘置所での警備に当たる衛兵と呼ばれる兵士、重大な犯罪・事件等を処理する捜査官が存在して、組織的な犯罪が起きた場合には捜査官と役人が共同で犯罪に対処するのだという。
「三件も起きてるってわけか・・・。ヴァンパイアを野放しにしている限り当然次の犯行もあるって事だよな」
「しかしその法政院が直接動かないってのはどういう事だ?事態を深刻に捉えてるんだろ?」
「彼等が動くのは街の要人や貴族といった要警護対象者が殺害された時か、組織的な犯罪行為が認められた時のみです。一般住民が死んだ程度では動きません。今回の件もいずれ要警護対象者の内の誰かが殺害されるのではないか、と考えているからです」
「なるほど。住民一人の殺害で動くのは俺達。連中は要人・貴族が殺害された時。棲み分けができてる、という事か」
「ただしこれ以上の被害を事前に防止するという点では考えが一致しています。ある程度の捜査協力はやって貰えるかもしれませんが、今回はあなた達がこの事件を収束させてください」
「とはいえ次がどこで起きるのか全く予想も付かないんじゃな・・・」
「被害者に共通点がないか調べてみよう。必ず何らかの法則性があるはずだ」
二人はギルドを出てこれまでに被害にあった被害者宅に聞き込みをしに行った。
−−他の被害者宅
三件それぞれの家を訪れてみると、被害者が遺体で発見されて一・二日しか経っていないだけに遺族は深い悲しみに包まれていた。
「うちのたった一人の娘が・・・朝起こしに行ったら死んでいたなんて・・・」
「お気持ちはお察しします」
身内を殺害された遺族の気持ちを考えれば事件の話をしたくはないのだが、犯人を逮捕して被害者の無念を晴らす事を心情にしていると、どうしても心の中に一歩足を踏み入れざるを得ない。そういう事を今まで何度も繰り返してきた。
「失礼ですが、葬儀はもう終わられたのですか?」
「いえ、まだです。お墓の場所なんかを決めたりしないといけないので、今娘は遺体安置所にいるはずです」
「遺体安置所か・・・。他のご遺体も念の為に検視しておきたい。行ってみよう」
「頸部の刺傷の確認だな」
−−遺体安置所
二人は他の三件で殺害された遺体の検視をする為に墓地に隣接された遺体安置所に足を運んだ。
中は岩のブロックで建てられた台の上にグレーの布で覆われた遺体が何列も並んでいる。埋葬される順番を待っている状態だ。室内は遺体の腐敗を押さえる為に氷系の魔法が張られていた。
「えっと・・・」
足首に紐でくくられたタグに書かれている名前を確認しながら該当する遺体を探す。
「これかな?」
ヴァネッサ・ガーサイドと書かれたタグを見付けた二人はその場で手を合わせた。身体を覆ってる布を剥がして遺体の頸動脈を探した。
「やはりか・・・」
この遺体の左頸動脈にも同じ霧状の刺傷が二つ。類似性がある事から、同一犯による犯行が極めて高い。一刻も早くヴァンパイアを取り押さえたい、そういう気持ちがはやった。
−−酒場・フォンストリート
一通り聞き込みを終えて酒場に戻った二人はまず酒場のマスター、アルバート・クランプトンに話を聞く為にカウンターに向かった。どうしても気になる事が一つあったのだ。
「アルバートさん、ちょっといいかな?」
「突然だな、何だい?」
「死者を蘇生させる魔法ってあるのかな?」
アルバートは水滴を拭いていたグラスをカウンターに置いて溜め息をついた。
「俺は客の事は分かっても魔法の事は分からないよ。ただの酒場のマスターだからね。だけど、そんな魔法があったらいいよな、って話はよく耳にするよ」
「じゃあないんだ・・・」
「魔法使い達が口々にそう言うのなら存在しないんだろうね」
二人は三件の被害者宅で聞き込みしたメモに目を通していく。すると被害者に奇妙な共通点が浮かび上がってきた。
「被害者は三人共14〜15歳の女性、というより少女に限られている。ロリコンか?」
和司はメモ帳をパラパラとめくってこれまでに得た情報を整理してみる。弘也も聞き込みで書いた自分のメモを見直していた。
「違う違う。ヴァンパイアの狙いは別にある」
「何だよそれって?」
「ヴァンパイアが狙う被害者達の共通点は・・・。純潔である事。つまり処女の血だ」
「なるほどね」
和司はメモ帳を閉じてコーヒーを口にした。
「しかしイヴラクィック町にそれに該当する少女が一体何人いるんだ?とてもじゃないがカバーしきれないぞ」
「現れたところを現行犯逮捕するしか手はなさそうだな」
「じゃあこういうのはどうだ?ヴァンパイアはコウモリの姿をして空を飛んで移動するんだよな。そのコウモリを追いかけていけばヴァンパイアを確保できるんじゃないか?」
「それはそうだが、地上から見つけるのは困難だ。誰かが高い所から見張る役をしないとダメだ」
「それはヒロに任せる。ヴァンパイアの特徴に詳しいからな。俺が捕まえる役をする。連絡は話し貝で取りあうでどうだ?」
「・・・その役、逆じゃダメか?」
何でだよ、と聞こうとしたが和司はある事に気が付いた。高台の最上部がビル五階に匹敵する高さだという事に気が付いた。そして悲しい事に弘也の弱点は高所恐怖症だという事だ。
「お前まさかこの状況で高所恐怖症を持ち出してんじゃないだろうな?」
「脚がすくんでいるのに的確な判断ができる訳ないだろ」
じゃあしょうがない。と和司は高台から指示を出す方に回り、二人は夜を待つ事にした。
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