底辺魔法使いの下剋上 〜高校退学になったけどお姉さんが降ってきて美少女と戦うはめになっちゃったんです~
さらや
第1話 劣等生オブザイヤー
「おい、起きろ、
「うーん。イヌムラ、おはよう」
イヌムラは朝からまくし立てる。
「おはようじゃねえよ、
イヌムラは犬のくせにちゃきちゃきの江戸弁で話す。
「俺のこと紹介してくれてありがとう。じゃ、用意しますか」
「今日はあれ、やってくれよ」
「え? 来るの? まあいっか」
怜於はイヌムラをキーホルダーに変え、バッグに付けた。
学校までは最寄りの駅から電車で20分。
県内一の魔法進学校・聖ミカエラ学園だ。
1時間目は数理魔法。
一番苦手な科目だ。
当然結果も期待できない。
怜於は静かに絶望に浸りながら、授業の開始を待った。
「
開始5分前、先生が入ってくるなり怜於を呼び出した。
なんだろう。
職員室に呼ばれた怜於は、校長室に入るよう促された。
ええ?
マジで?
「単刀直入に言おう。君は退学だ」
えええええ
「元々中学入学時の君の成績はひどいもので、とてもうちに入れるようなものではなかったんだ。それを素質はすごいのだからと将来性に期待して入学を許可したのだが、まったくもって失敗だった。魔力量の測定値が史上最高だといってニュースになったのが10年前か。その潜在能力に期待して早4年。ペーパーテストでも実技でも君は今でも学年最下位、現在の成績で言えば中1にも負けているものもあるくらいだ。退学という処分は厳しいようだが、我々のやさしさでもあるんだよ。人間、向き不向きがあるんだから、人生の早い段階でそれが分かってよかったんじゃないか」
どうやって校長室から出たのか、バッグを持って教室を出たのか、靴をはいたのか、まったく覚えていない。
気づくと、目の前に
「おい、劣等生オブザイヤー。試験の結果も聞かずに帰んのか?」
籠谷はやけにいい体格をしている。
それもそのはず、高校スポーツの花・魔ロケットボールのスター選手なのだから。
「あ、いや。そんなんじゃ……」
うつむきながら脇を通ろうとする怜於の肩を、籠谷はドンと突いた。
「知ってるぜ。お前、クビなんだってな」
「ぎゃはははっ、マジで?」
「やべー。退学処分なんてマジであんだ」
「ありえねー。生き恥だな」
取り巻きが口々にはやし立てる。
怜於の顔は蒼白になっている。
カンッ
不意に、乾いた音が響いた。
「おい、つまらんことしてるんじゃない! 僕たちウィッチーズは、いついかなるときでも弱い者いじめはしないはずだ」
小柄な少女が、ほうきを逆さに立てて仁王立ちしていた。
緑のツインテールが風に揺れる。
めっちゃかわいい。
「
「籠谷! 君は当然そんなことしないよな。じゃあ、練習に行こう」
颯爽と去るその後ろ姿を、怜於は惚けたように見送った。
あれが魔ロケットボールチーム主将・
ひたすらかっこいい。
そして、かわいい。
そして、もう会えないんだ。
怜於は泣くことすらできないほどの絶望を覚えながら、駅のホームに立っていた。
「おい、そう落ち込むなって」
「イヌムラ、人前で話しかけないでよ」
「だってお前、今にも線路に飛び込みそうだからよ」
そう言われるとそんな気がしてくるから不思議なものだ。
怜於を次第にふらつき、線路に落ちそうな気がしてきた。
『次は急行、急行霞が原行きが通過します。白線の内側へお下がりください』
電車の接近を知らせるアナウンスが流れた。
怜於は自然に体を線路に近づけた。
「わっ」
不意に受けた衝撃に、怜於は思わず尻もちをついた。
顔の上に何かある。
やわらかい。
何だこれ?
触ってみる。
ムニムニしてる。
やわらかい。
ムニムニムニムニ……
「んっ!」
上にのしかかっていた物が外れた。
目の前に、女の人の顔が現れた。
大きな目をした、とてもきれいなお姉さんの顔が。
「え? ってことは、さっきのは……胸!?」
怜於はパニックに陥った。
やばい、俺は痴漢だ。
触りまくった。
それも大勢の人の前で。
退学になったばかりの元男子高校生が、やけになって衆人環視の中女性の胸を揉みしだく。
人生終わった。
「ねえ、ちょっと来て」
お姉さんは怜於の手を取り立たせると、そのまま歩き出した。
あ、駅員室に連れていかれるんだ。
このまま連れていかれたらもう逮捕しかないってどこかで読んだな。
そうなると、走って逃げるしかないか。
いや、走って逃げてもどうせまた捕まる。
どっちにしろ、俺は終わった。
そう、終わったんだ。
「おい、逃げろって」
イヌムラ、しゃべるんじゃない。
しゃべるキーホルダー付けてる高校生なんて特徴ありすぎて、逃げたにしろすぐ捕まるじゃないか。
「あ、しゃべるキーホルダーまでつくってるんだ。君の魔力、やっぱすごいんだね」
え? この人、笑ってる?
「さっきはありがと。つまずいて転んじゃったとこに君がいてくれたおかげで、電車にひかれずにすんだんだ。私今日、最高についてる」
「え? そうなんですか?」
「うん。それにさ、こんな魔力の高い子に会えて、ほんとについてる」
お姉さんは、満面の笑みを浮かべた。
なんてきれいなんだろう。
でも、そんなこと俺には関係ないんだ。
痴漢で捕まることはなくなったけど、学校退学になったんだ。
人生が終わったのは変わらないんだ。
怜於は溜息をついた。
「あ、ひょっとして退屈し切ってる? それだけの魔力があれば逆につまんなくなるかもねえ。何でもできすぎちゃって」
しっかりと目を見ながら話すお姉さんにどぎまぎしながら、怜於は答えた。
「いえ、俺魔法全然使えないんで。それで絶望し切ってたんです」
「あ、そうなの? それは変だなあ。よし、じゃあ、私が教えてあげる」
教えてあげる?
教えてもらえる?
魔法を?
それは果たして、魔法だけなのですか?
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