第2話 諸悪の根源
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アルドはラトルを訪れていた。住民に魔物退治を頼まれて、あちこち駆け回ってきたのだ。
住民への報告をようやく終えて、一息つく。
「ふう、今日もよく働いたな。ちょっと一休みしようか。ん? あれは…」
通りは空いているというのに、わき道をこそこそ歩いている人物がいる。短く切りそろえられたボブヘアにアルドは覚えがあった。
「ロゼッタ、今日はどうしたんだ?」
「あら、アルドさん。こんにちは」
ロゼッタは満面の笑みをアルドに向けた。
「今日は不本意ながら、プライさんを探しているんです」
「へえ、どんな用事なんだ?」
「…ですから、チルリルさんからの指令を渡そうとしているんですよ」
「ま、まだ渡してなかったのか」
「あの人のことは苦手だと言っているでしょう!」
ロゼッタは、険しい顔で下唇を噛んだ。小さく咳払いして、いつもの笑顔に戻る。
「とにかく、プライさんを探すならここがいいかと思いまして。この辺にいたら、この間の嘘つきの女性に騙されているプライさんに、会えそうじゃありませんか?」
「…そのことなんだけどさ、彼女が…ミルカが嘘をついてるってこと、プライに言わなくてよかったのかな? おれ、言えばよかったって後悔してて…」
アルドは、苦い自責の念を吐き出した。
正直アルドは、あのときエリクル石をミルカに渡してしまえばよかったとさえ思い始めていた。渡してもきっといいことなんてなかっただろう。それでも、慣れない嘘をついてしまったことが、アルドの胸にじくじくとした傷を残していた。
ところが、ロゼッタは
「いいえ、言う必要はありません!」
と、はっきり言ってのけた。それどころか、
「むしろ余計なもめ事を増やすだけなので、言ってはいけません。アルドさんが後悔することは一つもありません。絶対に言ってはいけません!」
と、早口にまくしたてた。
「な、なんで言う必要がないんだ?」
アルドは目をしばたたかせる。
「プライさんはね、助けると決めたら助けるんです。いいも悪いも、ウソもホントもありません。余計なことを言ったりしたら、蒸し風呂のような暑苦しい説法をくらうに決まっているのです」
「でもこのままだと、何も知らないプライがまただ騙されるかもしれないんだろ?」
「だから、プライさんは騙す騙されるなんて気にしていないんです。あの女性に関しては助ける、と決めたのだから、あの熱血男は最後まで助けるんでしょう」
「そうか…。でも、そういうのってちょっと憧れるな。筋が通ってるっていうか、迷いがなくて」
「よくありませんよ! 一緒に働く側のことも考えて欲しいものです」
「あ、いや、そうだな…」
アルドは、これ以上プライの話をするのはやめようと口を閉じた。ロゼッタの怒りが、今にも溢れて洪水を起こしそうだ。
「あら? あそこにいるのって…」
ロゼッタが、ふとアルドから視線を外した。
アルドは思わず
「あっ、あの人は!」
と声を上げた。ロゼッタの目線の先にいたのは、まさに今話題になっていた「うそつきの女性」ミルカだったのである。
ミルカの手の中で、アルドが渡さなかったはずのエリクル石が煌々と光を放っている。ミルカはそれを、うっとりと眺めていた。
「はあ、あの神官。遅かったけれどちゃんとエリクル石を見つけて来てくれたわ。本当に便利なひとね」
(神官って…まさかプライのことか! プライ、俺が見つけたのとは別に、エリクル石を見つけて彼女に渡していたのか…)
アルドは肩を落とした。ロゼッタはプライにミルカのことを話すなと言ったけれど、でもやっぱり、アルドはプライに話せば良かったと思った。話してさえいれば、こんなもやもやとした気持ちにはならなかっただろう。
それに、ミルカがプライのことを「便利なひと」と呼ぶことが許せない。プライは「便利なひと」ではなく、情熱的でまっすぐで、そして少し騙されやすいだけなのだ。
ミルカはエリクル石をそっと懐にしまいこむと、今度は別の輝くものを取り出した。ペンダントだ。紺碧色の石に羽が生えたような飾りが見える。
(…あのペンダント!)
ロゼッタの顔色が変わった。ミルカの手にしたペンダントに見入っている。
アルドたちに見られているとも知らず、ミルカは取り出したペンダントに軽くキスをした。
「あの神官、エリクル石だけじゃなくてこんなペンダントもくれるなんて。 あいつらにばれる前に、はやく売ってしまおう」
そう言うと、ミルカはさっと顔を曇らせた。
「しまった…。少しのんびりしすぎたわ。はやくあそこに帰らないと…」
あたりを見回して、アクトゥール方面へ姿を消す。
アルドは身を隠すのをやめて、彼女の去ったほうを見つめた。
「ミルカ、慌てていたけどどこへ行くんだろう。…また誰かをだますつもりかもしれない。ロゼッタ、俺は行くよ。彼女を見過ごせない」
「…」
ロゼッタは、アルドの声が聞こえていないようだ。目をつむって、じっと黙っている。
「ロゼッタ?」
「…」
「おーい、ロゼッタ!」
「あ、アルドさん。どうしたんですか?」
ロゼッタは、寝ぼけているみたいに口をぽかんと開けて言った。
「どうしたもこうしたもないよ。俺、彼女のこと追いかけようと思うんだ。ロゼッタはどうす…」
「私も行きます!」
ロゼッタは身を乗り出して、食い気味に言った。
「ほ、本当にどうしたんだよ、ロゼッタ。来るのはいいけど、調子がおかしくないか?」
「それは…。正直、少し動揺しています。アルドさんは、彼女の持っていたペンダント、見ましたか?」
「ああ、青い石に羽が生えたやつか? きれいなペンダントだと思ったけど」
「あれはプライの大切なペンダントなんです。まだお勤めを始めたばかりのころ、神官の先輩から受け取った、思い出の品のはずです。自分の正しい行いをそのペンダントに誓うと宣言して、常に肌身離さずつけていたのに」
「へぇー…、って、プライ! そんな大切な品物を彼女にあげちゃったのか?」
「どうせ『人のためになるなら』なんて言って、渡しちゃったんですよ。ああ、腹が立つ」
「でも、なんでロゼッタが怒るんだ? ロゼッタがあげたものじゃないんだろ?」
アルドの疑問に、ロゼッタは面食らったようだ。
ロゼッタは言葉に詰まりながら、
「そ、そりゃ、腹も立ちますよ。だって、私だってその、その…先輩によくしてもらったんですから。先輩のものをあの女に渡したなんて、許せません」
と、かろうじて答えた。
「そうか。確かに、それなら腹が立つかもな。それはそうと、彼女の後を追わないと」
「ええ、あの女の行きそうな場所の検討はついています。すぐに行きましょう!」
「むむ、二人ともどこへ向かうのですか?」
「うわっ!」
アルドは心臓が飛び出すかと思って口を両手で抑えた。プライが現れたのだ。
「…! 私は先に行きますから」
「あっ、待てよ! ロゼッタ」
ロゼッタはアルドとプライのほうを振り向こうともしない。ミルカを追って、一直線に去っていく。
「アルド殿、ロゼッタ殿はどこへ行かれたのですか? 虫の居所が悪かったようですが…」
「えっと、あとで説明するよ。それよりプライ。もしかしてミルカにペンダントを贈ったりした?」
「ミルカ殿ですか? はい。私の私物ですが、一つ渡しました。売って、生活費の足しになればと思って」
「先輩からもらった、大切なものじゃなかったのか?」
「うむ。確かに、大切なものです。今までたくさんの苦難を共にしてきた相棒でありますから」
「じゃあ、なんでミルカにあげちゃったんだ?」
「もちろん、ミルカ殿のためになると思ったからです」
プライは迷いなく言い放った。
「あのペンダントは私のもとで、大変役に立ってくれました。ただ最近は、私がペンダントを持て余していたように思います。だからこそ、彼女のもとでまた人の役に立ってくれればと思ったのです。…しかし、人からもらったものを、さらに他人に渡すのは良くなかったかもしれませぬ。反省すべきところですな…」
プライは、落ち込んだようすで首を垂れた。
「ところで、どうしてアルド殿がそれを知って?」
「いや、たまたまロゼッタに教えてもらって…。あっ、しまった! ロゼッタ!」
アルドは慌てて振りかえった。ロゼッタの姿は、はるか遠くに小さくなっている。
「ごめん、プライ。俺、ロゼッタを追うよ!」
駆けだすアルドを見送り、プライは首を傾げた。
「はて。結局二人はどこへ…?」
________________
「ロゼッタ! よかった、探したよ…」
「アルドさん、静かにしてください」
ロゼッタは、ようやく追いついてきたアルドにぴしゃりと言った。
「ご、ごめん。声が大きかったかな」
「アルドさん、いいですからあれを見てください」
デリモス街道の北東、アルド達がいるところから一本先の通りにミルカがいた。明らかに周りを気にして、きょろきょろ視線をうごかしている。それから、静かに岩陰へ姿を消した。
「あの大きな岩の後ろに隠し通路がありますね。追いますよ」
ロゼッタは冷静だ。忍び足で、迷うことなくミルカの後を追う。アルドも、負けじと隠し通路へ足をすすめた。
岩と岩の間を這うように進むと、いくばくもしないうちに広い空間に出た。片隅でろうそくの明かりがちらついている。
「おい、遅かったじゃねえか!」
男の荒々しい声がして、アルドとロゼッタは足を止めた。陰から事態をうかがう。
そこにはミルカと共に青い肌の男がいた。魔物だ。薄汚れた布を体に巻き、腰にぼろぼろの剣を携えている。
「しょ、しょうがないじゃない。あなたのノルマが重いから…」
「言い訳はいらねえ。いいから稼いできたモンを出せよ!」
たどたどしく話すミルカの肩を、魔物が拳で殴った。ミルカが倒れこんでも気にしていない。
(あいつ…!)
(だめです、アルドさん! 待ってください)
飛び出しそうになるアルドを、ロゼッタが必死に引き留める。
「おら! 早く出せ!」
魔物が凄みをきかせると、ミルカは懐からプライの見つけたエリクル石を取り出した。
「ふん、今日はこれだけか。しょっぱいなあ。これもあの便利な神官のやつが見つけたのか?」
「そうよ。ねえ、もういいでしょ。はやく分け前を頂戴よ」
「いや、まだだ。お前にはこの神官からたっぷり搾り取れって命令しただろ。作戦は考えたのか?」
「も、もちろんよ」
ミルカは、今度は一通の封筒を魔物に示して見せた。
「これ、あの男にラブレターを書いたの。これで神官もいちころ…」
「おいおい、ふざけてんのか!」
魔物の怒声にミルカがたじろいだ。
「え…!」
「お前、ラブレターなんてガキじゃねえんだぞ! ったく、何考えてんだ! 今からその神官のとこ行って、色時掛けでもなんでもして、もうひと稼ぎしてこい!」
「な、なんでよ! 今日の分はもう渡したでしょ!」
「うるせえ! 口答えするなんていい身分じゃねえか…」
魔物がミルカに迫る。アルドはもう我慢できなかった。
「ロゼッタ、ごめん!」
「あ、アルドさん!」
ロゼッタの腕を振りほどくと、アルドはミルカと魔物の間に割って入った。面食らって目を白黒させている魔物をにらみつける。
「おい、いますぐミルカを解放しろ!」
「な、なんだあ? こいつ、どうしてここが…。もしかして、おいっ、ミルカ! ここに来るとき、後をつけられやがったな!」
「ひっ!」
ミルカはおびえて肩を抱いた。すかさずアルドが前に出る。
「やめろっ! お前は俺が相手になってやる!」
「全く、アルドさんったら我慢ができないんですから。もうちょっとでいいタイミングだったのに」
遅れて出てきたロゼッタが、すらりと杖を抜いた。
「ほら、小物のお兄さん。やるんですか? やらないんですか? 大人しく従ってくれるならそれが一番ですけどねえ」
「一体なんなんだこいつら…。おい、野郎ども!」
魔物の掛け声で、奥の部屋から見るからに悪そうな男たちがぞろぞろと現れた。この魔物は盗賊たちの頭目だったのだ。
「やっちまえ!」
男たちはアルドに一斉にとびかかった。
(戦闘)
だが、アルドはひるまない。とびかかる男たちを避けることなく、真正面から受け止めた。それから、迷いのない斬撃でばたばたと切り倒していく。
アルドにおののいた盗賊たちの足が止まりだす。
「くそ、このままやられてたまるか!」
魔物の男は、倒れているミルカにとびかかろうとした。しかし、その頭上からロゼッタの魔法がふりそそぐ。魔物は
「ち、ちくしょう…」
とありふれた言葉を残して倒れてしまった。残った盗賊をアルドが斬り伏せる。
「ふう、これで全部だな」
アルドは短く息を吐くと、ミルカのもとへ歩み寄った。
「大丈夫か?」
アルドの言葉にミルカは「は、はい」と弱弱しい声で答えた。ロゼッタが顔をゆがめる。
「あら、アルドさん。大丈夫もなにもないでしょう? その女も盗賊の仲間です。同じようにのしてもらわないと」
「もちろん、ミルカがしたことを簡単に許すつもりはないよ。でも、一方的に暴力をふるわれているのを見過ごせるわけないじゃないか」
「あら。それを言うなら、盗賊たちをあっさり切り倒すアルドさんも、ずいぶん一方的なものに見えましたけどね」
「そ、そうか…?」
「あの…」
ミルカがおそるおそる会話に割って入った。
「助けてくれて、ありがとうございました。でも、彼女の言う通り私のことも切ってください。だって、あの魔物の仲間で間違いないから…」
「…悪いけど、自分からそんなふうに言う人を切れないよ。ミルカ、一体どうしてプライや俺をだましたんだ?」
「それは、もちろんお金が欲しかったからです。…母のために」
「母のため? もしかしてまた嘘を…」
「いいえ、違います。母が病気なのは…本当なんです。今更こんなことを言っても、信じてもらえないかもしれないけど」
ミルカはうつむいたまま、絞り出すように言葉を続ける。
「母の薬代がどうしても足りないってときに、あの魔物に声をかけられたんです。俺に力を貸してくれたら、いくらでもいい思いをさせてやるって…。それで、道端で男の人に声をかけて、貴重な品を集めさせるようなことを繰り返しました。実際は利用される一方で、いい思いなんてひとつもできなかったけど、でもそれに気が付いた時には、もう逃げられないところまで来てしまっていて…」
「…そうか。ロゼッタが君の嘘を見抜いたのも、プライが君のことを苦労しているって言っていたのも、どちらも間違っていなかったんだな」
「それで、安っぽい言い訳は終わりですか? 終わりならプライさんのペンダントを返してもらいたいんですけど」
ロゼッタがつんとした声で言った。ミルカがきょとんとしている。
「プライって…」
「あなた方が便利な神官と呼んでいた男のペンダントですよ」
「す、すみません! そんなふうに呼んで。ペンダントはこれです」
ミルカが取り出したペンダントを、ロゼッタは目を合わせずに受け取った。ミルカは、魔物が落としたエリクル石もロゼッタへ差し出す。
「あの、これも受け取ってください。私にはこれを持っている資格はありませんから」
「いいえ、その石はお好きにしてください。あの熱血漢があなたのために勝手に取ってきたものなので」
「で、でも…」
「いいから受け取りなよ。プライは君に渡したかったんだ」
「…分かりました。ありがとうございます」
ミルカはおずおずとエリクル石を握りこんだ。それから決意したように顔を上げた。
「あの、私はこれからパルシファル宮殿へ行って、この魔物の隠れ家のことを通報してきます。それから、自分の罪のことも話します」
「でも、それじゃ君のお母さんは…」
「大丈夫でしょう。パルシファル宮殿の兵士も鬼じゃありません。彼女の母親を見捨てるようなことはしませんよ」
ロゼッタは、やっぱりそっぽを向いたまま言った。
「そうか、それならいいんだけど」
「あの、本当にありがとうございました。…正直、ほっとしたんです。あの魔物から解放されて…。それでは、私は失礼します」
ミルカは一礼すると、姿を消した。ロゼッタが、心のこもっていない笑顔をアルドに向ける。
「行かせてよかったんですか? アルドさん。もしかしたらこのまま逃げちゃうかもしれませんよ」
「いや、彼女はそんなことしないよ。ロゼッタだって、分かってたから見逃したんだろ?」
「さあ、どうですかね」
「どうもこうもないさ。さて、俺たちもプライにペンダントを返しに行こう」
「ええ。でも、ちょっと待てください、アルドさん」
ロゼッタはいそいそとした様子でアルドの目の前まで来ると、何かを拾い上げた。手にしているのは白い封筒だ。
「ふふ、こういう美味しいものはちゃんと拾っておかないと」
「あっ! それってもしかして、ミルカが書いたラブレターか?」
「ええ、その通りです。ちょっと開いてみて…と」
情熱とやさしさの溢れる殿方
あなたの熱き思いに焦がれる私の愛を受け取って下さい
「わっ、やめろよ! 人の手紙を読むなんて」
アルドは顔を真っ赤にして叫んだ。ロゼッタは嬉しそうに身をくねらせている。
「うふふ、いいじゃないですか。本物のラブレターじゃないんですから。それにしても、とってもいいですねえ~。こういう、体中がかゆくなるような他人の恥ずかしいーい手紙って大好きなんです。この手紙は、今後彼女が悪さをしたときのために大切に取っておきましょう。これさえあれば、彼女のことをいくらでも利用でき…」
「おい、ロゼッタ!」
アルドもさすがに最後まで聞く気にはなれなかった。ロゼッタが肩をすくめる。
「怒らないでください、アルドさん。冗談ですよ。さあ、行きましょう。あの熱血漢に会いにね」
________________
「む、二人とも。一体どこへ行っていたのだ?」
プライはパルシファ宮殿にいた。また蒸し風呂説法をしていたのか、額に汗が浮かんでいる。
ロゼッタはつかつかとプライに近寄ると、ペンダントをプライの手の中へ押し込めた。
「別に、面白いところへは行っていません。…これ、もう手放さないでくださいよ」
「これは、私のペンダントではありませぬか。…そうか、もしやと思ったが…。先ほど、ミルカ殿が宮殿の兵士に連行されていくのを見たのです。ロゼッタ殿とアルド殿が彼女を改心させてくれたのですな」
「プライは彼女が嘘をついているって知ってたのか?」
「嘘? はて、どうでしょう。彼女がよからぬことに巻き込まれているのは感じていましたが、嘘をついているかは知りませんでした。とにかく、アルド殿やロゼッタ殿が彼女を助けてくれたのなら、私からもお礼を言わせてください」
プライが頭を下げると、ロゼッタはむっとした顔で鼻をならした。
「あなたは、このペンダントを取り返してきたことだけにお礼を言っていればいいんですよ。全く、余計な時間を過ごしました」
「うむ、かたじけない。これは彼女に譲ったものだったが…。ロゼッタ殿が持って帰ってきたということは、それが正しい行いだったのだろう」
「当たり前です、そうに決まってます。ね、アルドさん!」
「えっ俺!? えっと…、正しいか正しくないかは俺には判断がつかないけど、俺はこのペンダント、プライに持っていてほしいな。大切な先輩にもらったんだろ?」
「うむ、その通り。本当にかたじけない」
プライは、再び深く頭を下げた。
「それじゃ、私はもう行きますからね。あ、あと、これ! これも受け取ってください。あなたのせいでずっと渡せなくて大変だったんですから!」
ロゼッタが一通の封筒を力任せにプライへ突き出した。渡しそびれていたチルリルからの指令に違いない。
「それ、本当にプライのせいだったか?」
アルドが思わずつっこむと、ロゼッタは
「そうですよ、困ったものです」
と言い切った。プライは素直に封筒を受けとる。
「これは一体?」
「読めば分かりますよ。それじゃ、本当にもう行きますから」
「ああ。ありがとう、ロゼッタ殿」
「それじゃ、おれも行こうかな。またな、プライ」
「うむ、さらばである」
二人が去った後、プライはロゼッタから差し出された封筒を開いた。中を見ればわかるということだったが、何が書かれているのだろう?
「さて、この手紙は一体…むっ…これは!」
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「ロゼッタ殿…?」
プライは目を見開くと、手紙をじっと見つめて動かなくなった。
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