第三話 君との再会・・・・・美咲ちゃんとの再会
荷解きもある程度片付き支社や営業所の挨拶回りも終わったある日、親父とスーパー川西で買い物をしていた時に変な女性が、若いと言えば若いし老けていると言えば老けているような女性が手荷物いっぱい持ってフラフラしながら歩いているのが見えた。
「あれはヤバいぞ、倒れるかも・・・あちゃぁ~、やっぱり倒れたよ!」
俺は親父が買い物から戻るのが遅いと見て、女性の所に駆け寄り声を掛けたが顔は真っ青で肩で苦しそうな息をしているのが見て取れたので、急いで自販機で冷たい水を買い、手渡したのだ。。
「大丈夫ですか、気分がすぐれないようですが、これ冷たい水ですが少しだけ口に含んでゆっくりと飲みこんでください、あと二回ゆっくりでいいですから同じことをしてくださいね、少し経つと落ち着きますから。今タクシーを呼んであげましょう。どちら方面に帰ります、あっ道場ですか、それなら近いですね。少し落ち着いたらタクシーの運転手さんに行き先を告げてください。」
「ありがとうございます。多分、暑気負けだと思いますのでもう少したら回復すると思います」
「タクシーが来ましたので、荷物を入れてあげましょう。立てますか?運転手さんこの方を道場まで送って頂けますか、細かい所はご本人に聞いて下さい。代金は二千円あれば足りますよね、お願いします」
「お~い浩史、買い物終わったぞぉ、帰っぺぇ」
携帯電話でタクシーを呼んで上げたけどあの時にもっと顔を見ておけばよかったなぁ、住所も聞かなかったけれど、たぶん大丈夫だろう。
それから一週間が経ち、営業所の現場事務所内でもやっと仕事の流れを覚え、現場協力会社の職人たちとも顔を覚えて頂き仲良くなり、意見交換が出来るようになってきた時だった。
「関矢主任さん、食事どうします。皆で近くの蕎麦屋に車で行きませんか」
「あぁ良いですよ、皆で一緒に行きましょう、東京の蕎麦と違ってこっちの蕎麦は太いんですよね?それにけんちん汁で食べるんでしたっけ、なつかしいなあ」
等と云いながら宮園町の竜見庵と云う蕎麦屋に車で移動して、協力会社の社員たち数人と一緒に店の中に入って行った。
竜見庵は中も結構広く、奥のテーブルで若い女性グループが数人蕎麦を食べている所に、どう見ても現場感丸出しの男たちが車二台に乗って入って来たのだから店の中は直ぐに満員御礼状態となってしまった。
現場で親分肌で現場監督の近藤さんが店の中に入るなり俺に説明をしてくれた。
「ここは一時細い蕎麦打って出していた時もあったんですがぁ、また太い昔ながらの蕎麦に戻したんですよぉ。そしたら盛況になって・・・何でもTVでも取り上げられたらしいんで、だから味は保証できますから、グワハハハ」
「それはそうですよね、茨城の田舎町に来て都会風の蕎麦なんて食べたいとは僕だって思いませんよ。やっぱり生まれたこの町の蕎麦を僕だって食べたいんですから、本当ですよ」
「話は変わっけどぅ、主任さんは東京で何の仕事をしていたんですかぁ、みんな聞きたくてしょうがないんですよ。現場監督の話じゃ難しい仕事をやっていて、なんでも会社の新しい事業だってぇ、そんな仕事をやっていたのに親父さんの具合が悪くて帰ってきたんだとかさぁ、本当の所どうなの?」
「いやぁやっぱり気になりますか、‥そうですよね、僕は佐根小学校から瑞鶴中学校を出て、其れで日立東工業高校を出てから都内の土木建築の専門学校を出て今の会社に入ったんです。周りは機械土木工学の大卒ばかりですから負けまいとして新たに夜間大学に通ったりしたりして資格を取って、まぁ何とか頑張って新しい事業の担当部署に選ばれまして。そこはスマートエネルギー事業部でバイオマスエネルギーだとかソーラーだとか、風力だとかをマンションや街づくりの中で生かせないか等を調べたり自分だけの会社で全て行うべきか、それとも専門分野は任せて一緒に共同開発するか等の都市開発を目指している部署だったんです。面白味は沢山ありましたが・・・親父がちょっと具合が悪くなって!兄姉と三人いるのに全て任せる訳にも行かないし、いろいろ考えたんですがそれならいっそIターンしてみようかなぁなんて思って帰って来たんです」
「親を見るって大変だからなぁ、俺だって二親見送ったけど兄弟間でも後は難しいよ」
「うんだなぁ、どうしても土地があっから揉めん(もめん)だわ、二束三文の土地なのに売っても何歩(なんぼ)にもなりゃしないのにねぇ」
「でも、私も本社にいたからと云って現場をやっていない訳ではなくて、入社してからの五年間は現場ばかりで、一からは怒られながら教わりましてね、ランマやプレート、そしてユンボやブル、ロードローラの資格まで取りましたし、溶接から電工、管工や危険物の資格も持っていますので必要な時には遠慮なく使ってください。それでなければこちらに来た意味が有りませんから」
「ふぅんそれは大したもんだぁ、まぁ頼む時が有ればお願いしますが、現場は片手間で出来るような仕事じゃないっすけどね」
「違いねぇ、違いねぇったらありゃしねぇ。おぅっ蕎麦が来ましたよ、蕎麦が、さぁ食べましょうや」
「だけど、新しい事業を任されるんだから大したもんですよ、今まで知らなかったけれど会社の方針としては新しい街づくりをも提供しようとしているんですか?成る程ねぇ、其れでこの辺の開発も考えているんですね」
「いやぁ、まだこの辺は開発まで入っていませんが、これからはその辺を含めての土地の買収や市や県との話し合いによって変わってくるかもしれませんね。でもまだまだ先が長い話ですよ、脱原発を見据えての若い人が安心して住める街創り、当然その中にはスーパーや病院などがあると云物で、実際に埼玉県前越市に他社が手掛けたものですが実際にあるんですよ。常陸南田市も鉄道の利を生かしたニュータウン造りを考えてくれていれば話は進むでしょうが、この町はいったいどこに、どのように向かおうとしているか、まだ帰ってきたばかりでヴィジョンが見えてきていませんが、正直な話あまり変わってほしくないですね。」
「すげぇスケールの大きな話で俺なんかちんぷんかんでついて行けねえけど、早速蕎麦が来ましたよぉ此処の蕎麦うまいですから」
(あぁあやっぱり、みんなは俺の事を値踏みと云うか仕事の上での下調べをしているんだ、そりゃそうだよな。いきなり東京から戻って来て、仕事が出来るから困った時にやらしてくれなんて・・・誰も信用してないはずだ。其れも左遷と云うか降格待遇で来てるんだから尚更だと思うよ。仕方ないか、ゆっくりと馴染んでいけば納得してくれるだろう)
「ここの蕎麦、盛りが良いですねぇ。このけんちん汁に蕎麦がうまくマッチしてこれは美味いですよ。ズルズルズズズゥ~ッ」
近藤さんも喜んでいるし、助監督の小林さんも協力会社の皆さんも喜んでいるからまぁ良しとしときますか、なんて思いながらワイワイガヤガヤと食事を済ませて駐車場に戻ると、店の中に一緒に食事をしていた女性グループ達も出て来たので男として当然道を開けてやった。
その時、女性グループの中で若い女性が一人俺に向かってきて、内心、俺・・・何かした?と思いきやいきなり声を掛けられてしまった。
「あのぉ、もしかしてですが関矢・・さんて仰いましたが、もしかして関矢浩史さんではないしょうか?私です、もう十五年も経っていますが、あの時はまだ中学二年生で・・・お姉ちゃん、美由紀お姉ちゃんの妹の梶谷美咲です。私が姉から聞いた話では東京の学校に行ってそのまま東京の会社に就職したそうですが、何時こっちに戻ってきたんですか?お姉ちゃんに逢いました?・・・と云うか、関矢さんはもう結婚しているんでしょうね」
「えっえぇえ、美咲ちゃんって????・・梶ちゃんの妹の美咲ちゃんなの、あの時はまだ中学生だったのにこんなに綺麗になって、そうか美咲ちゃんだったのか。ウンウンウン、梶ちゃんも結婚したんだろうね、そっくりのお子さんが居たりして。あああっ、僕は残念ながらまだ独身だよ、何が残念か分からないけどね((笑))」
「私は反対側の金杉町に、知っています?そこにある西山病院の事務として働いているんです、姉は市役所に勤務していますからもしかしたら会っているかも知れませんね、でも‥最近姉は女捨ててるから分からないかもね?姉も関矢さんと同じ一応訳ありですが、独身しています」
「近藤さんこの人たち、私が学生の時の知り合いの人達でした。梶谷さんと云って西山病院で事務をしているそうです」
「うん!梶谷さんってもしかして梶谷造園の娘さんかぁ?、お父さん大変だったね。お母さんもあの後すぐに亡くなってしまってもう店じまいしたと聞いたけど、会社は誰も継がなかったんだよなぁ、」
「はい、お義父さんで三代目でしたが兄も私たち姉妹も誰も造園の事は分からないので、働いてくれていた人たちに退職金代わりに植木や石を差し上げて解散したんです。おかげさんであの家には兄夫婦が入り、私たちは家を出てアパートに住んでいます。関矢さん忙しいのにお停めして申し訳ありませんでした、これ私の名刺とメールアドレスですがお姉ちゃんにも帰って来たのを教えてあげてください。」
「ありがとう、これ僕の名刺だけどまだこっちの名刺が出来ていなくてごめん、裏に実家の電話番号とメールアドレス書いて置いたから用があった時にでも連絡してください、梶ちゃんにもよろしくね」
「なんだ関矢主任も隅に置けねえな、あんな可愛い子から声掛けられんだから、其れよりもう戻ろうか、それにしても関矢主任独身だったの!俺たちは結婚して嫁さん連れて来たんだとばっかり思っていたから、ふぅ~んそれはそれは。今度嫁さんでも紹介してやっか、なぁみんな((笑))」
美咲ちゃんと別れてから営業所内でも彼女の事や俺が独身である事などで話のネタとなり、少しだけ皆と溶け込んだような気になりました。
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