ポロポロブニャス

@sesami20067

第1話 ポロポロブニャス



『ポロポロ、ポロポロ、ポロポロブニャス、干鰯を取った沢蟹がカニカマ喰って

謳ったらポロポロ、ポロポロ、ポロポロブニャス。明日はきっとじゃかいもだ』


 一体、何時からだろうか。その奇妙な唄がこの地域に根付いたのは。少なくとも僕が伊勢原市長選に出馬したときにその唄は存在していなかった。


「よ、宮川、今日もサボりか?」


「ん~? まあ、そんなところかな。電磁誘導電磁誘導」


 僕は伊勢原市の地方議会を放って、セグウェイ工場の上でレディーボーデンを食べていた。僕に話し掛けてきたのはセリヌンティウス。僕とは一夜の愛を誓った仲である。


「日本共産党が批判してきていたぞ? 大丈夫か?」


「うーん、アイツら批判すんのが仕事だしねえ」


「自民党も立民も、維新もだぞ? おまけに伊勢原行政センターでは蜂須賀を筆頭とする共産主義者が暴動を起こしている」


「まあ、そのことは僕の管轄外ですねえ、はい。それよりさ、ポロポロブニャスの唄って知ってる?」


 僕はムズムズする鼻を擦り、ほんの数分で消え失せたレディーボーデンに失って気付く家族の大切さにも似た感情を抱きながら、彼にそう聞いた。


「あーうん。知ってるよ。あのきしょくわりい唄だろ?」


「あの唄、何時から此処に根付いたか分かる?」


「おうとも。お前の家の近くに南米人が住んでるだろ?」


「勿論、ジャイール・メシール・ボルソナロさんだよね」


 彼には南米検定と称して訳の分からない問題を毎朝のように受けさせられている。

 知らないわけがない。


「おう、あの人がブラジルから持ち込んだ唄らしいぜ」


「日本語なのに?」


「何でも、ブラジルの日本街に伝わっている曲を逆輸入してきたんだとか」


「ああ、ブラジルって日系人多いもんね。日本語の歌が伝わっててもおかしくないか」


 『さあ、行かう。一家をあげて南米へ』なんて言って明治時代の日本では移民政策が

行われていたことを僕は思い出した。

 社会の先生、癖が強かったなあ。


「何だよ。ポロポロブニャスの唄が気になるのか?」


「うん。あの唄がこの街に災厄をもたらす予感がするんだ」


「いや、市長のお前が仕事しないせいでとっくの昔にこの市は終わってるぞ。今じゃ、この地域はナチスの後継団体であるネオナチと過激派左翼団体の蜂須賀ポリシェヴィキ党の争いの中枢だ」


「兎に角、俺はポロポロブニャスの唄のことが知りたいんだ! ねえ、良いだろ!?」


 耳の痛いセリネンティウスの言葉を聞き流し、僕は言う。


「勝手にすればあ? 俺は此処でセグウェイの出荷作業を見ながらせんせんと涌き出る水でも飲んどくから」


「ありがとう! それじゃあ、早速、ボルソナロさんに会いに行ってみるよ!」


 僕は工場の屋根から飛び降り、セグウェイを作業員から奪ってボルソナロ宅に急いだ。

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