歩きスマホは危険がいっぱい/[第一回]短編小説書き下ろしコンテスト
[第一回]短編小説書き下ろしコンテスト_第一回
主催者:淡風 2022年3月12日 00:00 作成参加作品
【お題】
・主人公(または、メインキャラクター)が、「転落」や「落下」する。そのシーンは、作品の[冒頭や末尾以外]に入れること。
〜〜〜
少女は歩いていた。
セーラー服の小柄な姿は、だいたい中学生くらいだろうか。ポニーテールに結われた黒髪は、首の後ろで揺れている。
学校帰りの夕方のこの時間、家路を歩く少女の手には、愛用のスマホが握られていた。視線は画面に集中し、時折りおおっと声を漏らす。
そのとき彼女の歩く進路の先に、突然タキシード姿の四つ腕の怪人が現れた。奇怪な雄叫びを高らかにあげ、その少女に襲い掛かる。
しかしその瞬間、粘着性のある太い蜘蛛の糸が怪人の身体にグルグル巻き付き、グワッと宙に舞い上がった。
糸の先には、マンションの外壁に張り付いた、赤と青のタイツスーツを着用した何者かの姿。
そのままその存在は、怪人とともに
少女は歩いていた。
スマホの画面に一喜一憂しながら、時折り慣れた手つきでスッスと右手で操作する。
するとそのとき彼女の背後から、大型のトラックが近付いてきた。狭い市街地の道路には、危険な程の速度が出ている。気付けば運転席の男性が、コクリコクリと舟を漕いでいた。
あわやと思われたその瞬間、青いタイツスーツを着た胸板の厚い男性が、赤いマントを翻してふわりと空から舞い降りる。
少女の背後に突っ込んできた暴走トラックを左手一本で持ち上げると、そのまま
少女は歩いていた。
いつもの角を右に曲がると、何故か蓋が開いていたマンホールにそのまま落下する。
そこは、星空のような空間だった。
やがて足下から何本もの光の筋が伸び上がり、眩い光に包まれる。
いつのまにか、辺りはマグマの噴き上がる灼熱の火山地帯。正面を塞ぐ巨大な暗黒竜が、ビリビリとお腹に響くような咆哮をあげていた。
少女の手前には、二人の女の子の姿。
ひとりは健康的に灼けた素肌が眩しい、ビキニトップのネコ耳少女。もうひとりは浅葱色のダンダラ羽織を来た、ポニーテールの少女剣士。
二人の女の子が、暗黒竜に向けて突撃していく。
すると少女の少し背後にいた、白いフリフリドレスを着たピンク髪の女の子が、右手の白い魔法杖を天に掲げた。同時に彼女の背中から純白の翼が生え広がり、シュンと天空へ飛び上がった。
やがて黄金に輝く光の筋が、魔法杖の先端に嵌め込まれたハートのジュエルに集中していく。
そして女の子の気合いの掛け声を合図に、魔法杖から光の奔流がほとばしった。
暗黒竜の巨体が、光の奔流に飲み込まれる。
タイミングを合わせたように、スマホを覗き込む少女の右手が、小さなガッツポーズを作った。
辺りが、眩い光に包まれる。
「こら、タツキ。また歩きスマホ!」
聞き慣れた力強い男性の声に、少女はスマホから顔を上げた。気付けばそこは、家の近所だ。
「あ、部長!」
そこには春から高校生になった、同じ部活だった元部長。通学用自転車に跨った、スラリと長身の学ラン姿が今日も眩しい。
「歩きスマホは危ないって、いつも言ってるだろ」
「大丈夫ですよ。私ちゃんと、周り見てますから」
少女はエヘンと、無い胸を反らせた。
「それでも、怪我とかされたら心配だから言ってるんだよ」
「そんなに心配してくれるんですか?」
「当たり前だろ!」
そう言って先輩が、少女の頭を乱暴に撫でる。
「えへへ」
少女は心地よさそうに笑うと、改めて満面の笑みを先輩へと向けた。
「判りました。これからはもっと、周りに気を付けますね」
「だから歩きスマホをやめろっての!」
〜おしまい〜
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