重力少女:一重千重《ひとしげちえ》は体重計に乗らない!
異能力を持ったキャラクターの小説を書けそうに無い、なので誰かに描いて欲しい、そんな気持ち。
重力を操る能力を持った少女一重千重の、活躍とか日常とかその他諸々を描いて下さい。長さとかはとりあえずどうでもいいです。
一重千重の設定について
①読み方は、ひとしげちえ
②直接触れている2つの物体間の重力を操ることが出来る。
例えば、車を持ち上げるなら地球(地面)に触れていないとならない。
③質量自体は無視出来ないので、重いものを振り回すと遠心力が働く。
④同時に1つの重力しか操れない。
例えば、右手で触った物と左手で触った物の間に強い重力を発生させた場合、それぞれの物体には地球との重力も普通に働く。
〜〜〜
目の前には級友の
中学二年の新学期、
千重の学生鞄の中には、身体測定の結果が収められていた。
「えっと…その手は何?」
ダメ元でシラを切ってみるが、
「結果、見せてよ」
取りつく島もない。
「え、な…何で?」
「だって、いつも見せ合ってたじゃない」
…そうなのだ。小学五年生の頃にさとりが転校してきて以来、とある事情で二人は一緒にいる事が多くなった。
しかしながら去年からの一年間で、さとりの胸はセーラー服を押し上げる程にまで成長した。
千重の方はというと、慎ましやかなままである。
だがしかし、千重の不安はそんな所にはない。
去年の測定結果にも、実は僅かな兆しがあった。
それが、白日の下に晒されるのが怖いのだ。
さとりは艶のあるストレートの黒髪が、背中までサラリと伸びた美少女である。
対して千重の方はというと、少しクセのある黒髪をポニーテールに結い上げていた。
二人の身長にはそれ程の違いもなく、今年も揃って百五十センチメートル程であろう。
それなのに…何故か彼女の頭の中から、嫌な予感は拭えなかった。
「あ、あのさ、そろそろ結果の見せ合いっこなんて止めにしない?」
「急に、どうしたの?」
キョトンとした表情で、さとりが不思議そうに問い返す。
「あ、いやあ、何となくというか…」
そんなのどかな放課後を包み込むような黄昏時、
突然、千重の脳裏に、何かがパリンと砕けた音が鳴り響いた。
「さとり! 今、境界がっ!」
「分かってる」
さとりはスマホをタップしながら、画面をサッと確認する。それから顔を上げて、向こうの景色へと視線を向けた。
「十一時の方向、二百メートル。だいたい、あのビルの下くらい」
さとりの指差す方向を確認して、千重は紺色の学生鞄へと右手を突っ込む。
「分かった。先に行って、様子を見てくる」
千重が鞄から取り出したのは、先端に特殊な吸盤の付いたハンドガン。それを右手に構えると、近くのアパートの壁へと撃ち出した。
「私も直ぐに行くから、無理しないでよ」
「分かってるって」
千重はさとりに笑いかけ、それからワイヤーの伸びた吸盤の先へと視線を向ける。するとまるで引っ張られるように、千重の身体がアパートの壁へと引き寄せられた。
それからアパートの壁に直立し、別の建物の壁へと吸盤を射出する。
「ったく、便利なものね、重力って」
さとりは段々と小さくなる千重の背中を追いかけて、スマホのナビを頼りに、最短距離で住宅街を駆けていった。
〜〜〜
触れている物体の重力を操る力を持つ。
「触れている」と言う条件は所持品を介しても有効であり、このハンドガンは彼女のために用意された組織からの支給品であった。
組織とは「黄昏機関」の事であり、トワイライターと呼ばれる異形の怪物に対抗するため組織された政府公認の極秘機関である。
そして、トワイライターは人間を襲う。しかしその生態は全くの謎であり、人々の混乱を避けるため表立っては公表されていない。
ただ夕闇の迫るこの時間に、表裏一体となる別世界から紛れ込んで来ると考えられていた。
ちなみに先程の千重のアクロバティックなパフォーマンスだが、自身にかかる地球の重力を軽減し、アパートの壁には千重を引き寄せる重力を発生させた結果である。
〜〜〜
千重がビルの谷間に到着したとき、そこはもう、もぬけの殻だった。
直ぐさまスマホを確認すると、画面に空間の歪み計数が検出される。どうやらここが現場である事は間違いない。
そのまま千重は、スマホのアドレス帳から、さとりにコールをかけた。
「どうだった?」
ワンコールでスマホの画面に、さとりの顔が表示される。
「遅かった。もう何も居ないよ」
「了解。もう直ぐ着くから、そのまま待機してて」
千重がコールを切ってから
「確かにここが、現場みたいね」
さとりもスマホの画面を確認しながら、周りにキョロキョロと視線を向ける。
それからビルの壁に右手を添えると、俯き加減でそっと目を閉じた。
「黒い大型犬タイプと、二足歩行…た、大変っ、人型だわ!」
さとりは焦ったように声を張り上げる。
「茶色のトレンチコートを着た人型が、大型犬タイプを連れて、表通りに出て行った!」
「散歩を装ってるのか、ちょっと厄介だね」
不思議なことにトワイライターは、無秩序に人間を大量虐殺したりしない。どこか狩りを楽しむかのように、獲物を追い詰め始末する。そのお陰で、存在を公表せずに済んでるのだが…
しかし人型が厄介なのは、発見が困難なところにある。
異形の怪物なら、そのうち監視の網にも引っ掛かるが、人型の場合は、「彼は誰時」の帰還時刻まで被害者が増え続ける事も少なくなかった。
それ故、
「大丈夫。さすがに季節感までは、頭が回らなかったみたい」
「ああ、なるほど」
さとりの言葉に、千重は納得したように頷いた。ゴールデンウィークも終わった今の季節、トレンチコートでは逆に目立つ。
そのままビルの壁に左手を添えると、三階辺りにまで駆け上がって表通りを覗き見た。
夕方のこの時間、人通りも多く思うようには見渡せないが…
「いた!」
ちょうど緑も多い運動公園へと入っていく、黒い大型犬を連れた茶色のトレンチコートを発見した。
「アッチの運動公園に入っていく」
さとりは千重の声に頷くと、スマホをタップして右耳へと押し当てる。
「こちらサトリ・イシガミ。ポイントJ2122運動公園の封鎖をお願いします」
「それじゃ今日も、お仕事ガンバリますか!」
さとりの横にフワリと降り立った千重は、パシンと両頬に気合いを入れた。
〜〜〜
襟を一杯まで立たせたトレンチコートの男が、大型犬を連れて、公園内の周回コースを歩いている。
するとセーラー服姿の女生徒が、向かい側からお喋りしながら歩いてきた。
黒髪ロングのストレートヘアと、ポニーテールの二人組だ。
都合の良いことに、他に通行人も見当たらない。
お互いが道を譲ってすれ違った正にその時、黒の大型犬がグワッと二本足で立ち上がった。
喉元からお腹にかけて、縦に裂けるような大きな口がガバッと開く。
次の瞬間、黒髪ロングの少女が、その大きな口を目掛けて小さなスプレーを吹き付けた。
「グギャギャ」と叫び声をあげながら、黒の大型犬がのたうち回る。
続いて視認出来るほどの放電が大型犬の全身を駆け巡り、黒い煙を吹き上げながら、やがてピクリとも動かなくなった。
驚いたトレンチコートの男が、ポニーテールの少女へと視線を移す。ちょうど彼女の持つハンドガンに、吸盤が巻き取られたところだった。
「黄昏機関カ…ナゼ分カッタ?」
「ひみつ」
千重は軽く微笑むと、今度は茶色のトレンチコートに向けてハンドガンの狙いを付ける。
「オット」
するとトレンチコートの男は後方に十メートルほど跳躍して、千重との距離を取り直した。
「ソノ電撃ハ、痛ソウダ」
それから両腕を一杯に開く。同時にバキバキと両腕が形を変え、まるでカマキリのような巨大な大鎌に変貌した。
「さとり、退がってて」
千重は前を向いたまま、自分の学生鞄をさとりに預ける。
「気を付けてよ」
「うん」
さとりは鞄を受け取ると、その場所からゆっくりと距離を空けていった。
「二人ノ方ガ良クナイカ?」
「さとりは荒事が苦手だからね」
言うが早いか、千重が吸盤を射出する。トレンチコートの男はそれを躱すと、右手の大鎌を振り上げ千重に襲い掛かった。
千重は透かさず、後方高く跳ね上がる。同時にシュルシュルと、吸盤が回収されていく。
茶色のトレンチコートの大鎌は、千重の居たアスファルトの路面をまるで紙のように切り裂いた。
「わお!」
その切れ味に、千重の口から感嘆の声が漏れる。
「人間ニシテハ身軽。シカシ、ソレハ失敗ダ」
トレンチコートの男は口角を吊り上げると、空中の千重を睨み上げた。
「そうでもないよ」
いつの間にか、千重の両目にサングラス。
間髪入れず、両者の直線上の空間に、小さな物体が放り込まれた。
「さとりは確かに、荒事は苦手」
サングラスの奥で、イタズラが成功した子どものように、千重の瞳がキラリと輝く。
「でも、戦わないとは言ってない」
その直後、凄まじいまでの閃光が、辺り一面を包み込んだ。
「ギャアアア!」
茶色のトレンチコートの男が、両眼を閉じて悲鳴をあげる。
そして次の瞬間、胸元に張り付いた吸盤から、雷撃のような電流が全身に駆け巡った。
「ガガガガガッ」
白眼を剥いて、トレンチコートの男が痙攣する。
そのまま後ろに二、三歩よろめいて、ガックリと片膝を突いた。
「あらま、頑丈」
少女の声と同時にフッと全身が影に覆われ、トレンチコートの男は視線を上げる。
そうして彼が最後に目にしたのは、三メートル程の巨大な石碑を片手で軽々と持ち上げる、鬼神のような千重の姿であった。
〜〜〜
「お疲れさま」
預かっていた学生鞄を差し出しながら、さとりが千重に声をかけた。
「ん、サンキュ」
その鞄をヨイショと受け取り、千重もさとりに微笑みかける。
「それにしても、一勝一敗かあ」
「え、何が?」
「これ」
そうして渡されたのは、二枚の通知書。
千重が中身を確認すると、それは二人分の身体測定の結果であった。
「……見た?」
「うん、見た」
「たたた体重なんてあやふやな数値、私は一切信じないんだから!」
ニッコリと笑うさとりの笑顔に向けて、千重の口から大量の言葉が撃ち出される。
「あんなのただ単に地球が物質を引っ張る力なだけでその力が強くなったり弱くなったりするだけで増減する数値なんて私は絶対ゼッタイ信じない!」
「はいはい」
千重の早口に興味も示さず、さとりはひと足先に歩き始めた。
事後処理担当の処理班が、二人とすれ違うように逆方向に走っていく。
千重は二人分の測定結果をぐしゃぐしゃに丸めると、頭を抱えて天を仰いだ。
「一体どういう事なんだあ! あの大きな膨らみの中身は空洞か! 空洞なのか! 一介の女子中学生が体重の重い方が勝ちだなんて表現をする訳ないだろバカヤロー!」
〜〜〜
「言っとくけど私、任務で結構走り回ってるよ?」
さとりのその一言に、千重はいつもの任務を振り返り、グウの音も返す事が出来なかった。
〜おしまい〜
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