魔法の絆(6)

「それでも俺は…」


 勇者キャムクティはギリリと唇を噛み締めた。


 このどうにも怪しいピエロの言葉は、確かに真実かもしれない。


 だからと言って、悪魔になど頼れる筈もない!


「俺は、悪魔になど頼らない!」


 勇者キャムクティは落としたナイフを拾い上げると、再びピエロへと斬りかかった。


「アハハ、まだ続けるのかい? 諦めが悪いねー」


 メルトはキャムクティの斬撃を、まるで踊るように躱し続ける。そして一瞬大振りになった一撃を流れるようにかい潜ると、左の裏拳をキャムクティの顔面に叩きつけた。


「ぐがっ!」


 その一撃で、キャムクティは人形のように吹き飛ばされる。しかし咄嗟に片手をついて身体をひねって着地すると、爆発的な瞬発力でメルトに向けて突進した。


(コイツ⁉︎)


 その瞬間、キャムクティの身体からゆらめき立った淡い金色の気炎を、ピエロの瞳は見逃さなかった。


「あーヤメヤメ」


 次の瞬間、キャムクティの身体が、一瞬で檻の中に閉じ込められる。


「な⁉︎」


「あーもういいよ。そこまで言うなら、アンタはそこでボーっとしてな」


 メルトは頭の後ろで両手を組むと、呆れたような声を出した。


「お嬢ちゃんはどーする?」


 それからレイラの方へと視線を向ける。


「あ、私…」


 レイラは困ったような表情で、キャムクティの顔色を伺った。


「行けよ」


 キャムクティは、不貞腐れたように胡座をかいて座り込む。


「え、でも…」


「魔法使いの性分は分かってるつもりだ。こんな事で俺は、お前を嫌ったりしない」


 その言葉を聞いて、レイラは顔一杯に満面の笑みを咲かせた。


「分かった。私必ず、この力をモノにしてみせる」


「へっ、お前だけ強くなれるなんて思うなよ。俺だって俺のやり方で必ず強くなってやる」


 そうして二人は、牢の内と外で拳を突き合わせる。


 その光景を眺めながら、ピエロが興味深そうに目を細めた。


(どーやらアイツ、長いこと別の何かに憑かれてた気配がするな。その残り香を上手く引き出す事が出来れば、もしかしたら大きく化けるかもな)


「ま、そんな事、わざわざ教えてやんねーけどな」


 ピエロは意地悪く「キシシ」と笑う。


「じゃ、お嬢ちゃん、ついて来な」


 メルトはクルリと振り返ると、ひとりでスタスタと歩いていった。


 〜〜〜


 そうして勇者キャムクティたちがこの空間に来てから、いつの間にか二週間の刻が過ぎていた。

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