第44話 アイスライト杯再び
「いい加減仲直りしろよ」
現在、相変わらずガタガタと揺れる馬車に乗ってアイスライトの町へ帰っている途中なのだが、クレアとシズはお互いのスカートを捲り合ったせいで険悪になっている。お互い別々の窓の外を見ており一言も話していない。この緊張感にはもはや耐えられない。
「クレアが謝ったら、仲直りする」
シズは外を見たままだ。
「シズが謝ったら、仲直りしてあげる」
クレアも外を見たままだ。
ほんといい加減にしてほしい。もうどっちも子供じゃないんだから、スカート捲られたぐらいでいつまでも意地を張らないでもらいたい。まぁ、俺は男だから下着を見られる恥ずかしさなんてよく分からないが。でも今日もラッキーだったな。昨日に引き続き、今日もあんな出来事があるなんて。最近ツイてなかった分の反動かな。
「レイン、変な事考えてる」
「ほんとね。気持ち悪い顔してるわね」
いつの間にか外を見ていたはずの二人の顔が俺を見ていた。しまった、油断した。
「別に何も考えてないよ。ただどうやったら仲直りできるかなぁって……」
「うそ」
「うそね」
こいつらさっきまで険悪だったくせに……しかも変な事を考えていたのは本当だから強く否定もできない。だが簡単に肯定もできない。俺が黙っていると、シズが決定的な一言を発した。
「私の目は嘘も見抜けるから」
なっ……まさか……確かにシズの目の能力の高さはまだ二日の付き合いだが十分に伝わっている。これは正直に謝った方が得策かな。
「変なこと考えて、すいませんでしたっ」
俺は素直に頭を下げた。その瞬間、脳天に落石が落ちてきたような衝撃を受けた。
「いってぇぇ」
何をされたか分からないままズキズキと痛む、頭を両手で抱える。
「今日はこれぐらいで勘弁してあげるわ」
顔をあげると、握り拳を作ったクレアがそこにいた。やっぱりお前か。
「正直に謝ったのに……」
「謝って済むなら、騎士団はいらないのよ」
「確かにその通り」
シズもクレアの言うことに頷いている。喧嘩してたんじゃなかったのかよ。いつの間にか共闘しやがって。
「まぁ、これに懲りたら二度と私の下着を覗こうなんてしないことね」
顔を真っ赤にしながらそんなことを言ってくる。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。
「私はお金さえ貰えたら見せてあげてもいい」
「え?」
シズ、今なんて言った? 金さえ貰えたらって言ったか。冗談なのか? 冗談だよね? 顔が無表情過ぎて分からない。
「ば、ばか! シズ何言ってるのよ」
「冗談」
「じょ、冗談でそんなこと言うなよ」
「顔真っ赤。かわいい」
「なっ!!」
俺は恥ずかしさに耐えきれず顔を両手で隠してしまった。ちくしょう。シズのおかげで、調子が狂いっぱなしだ。完全に弄ばれている。
「ちなみに嘘を見抜けるのも冗談」
「それもかよ!!」
ほんと弄ばれている……だが少しホッとした。嘘を見抜ける目なんて、物騒でたまらない。
「ふふ、面白い。やっぱり貴方達のパーティーに、入って良かった」
「俺は少し後悔してるかも……」
「じゃあ本気で後悔されないように頑張る」
シズは機嫌が良さそうに、少しばかりの微笑みを見せていた。美しいクレアとはタイプが違うが、笑うシズは正直かわいいと思えた。
すっかり悪者にされてしまった俺を無視するように、すっかり仲良くなった二人がガールズトークをしているとアイスライトに無事着いた。
まぁ、ガールズトークと言ってもお互いに武勇伝やら自慢を語り合うだけで、全然ガールズって感じの話題じゃなかったが……
「とりあえずギルドに行こうか。このままじゃ今日泊まる宿代もないし」
「そうね。それに今回は報酬も期待できるわよ」
そう言ってクレアは持っていた袋を広げて中身を見せてきた。そこには様々な大きさや色の魔石が入っていた。相手はEやDの魔物だったので一つ一つは大した金額にならないだろうが、これだけ数があれば期待できる。
「お疲れ様でした。では今回の報酬はレッドベア討伐で80万ピア、魔石の引き取りで100万ピアですね」
ギルドのお姉さんから大金を受けとる。予想以上の報酬だ。今回は大事に使わないと。毎日毎日綱渡りの生活なんて嫌だしな。安定した生活を送りたいものだ。
「じゃあ、これはクレアとシズの分ね」
俺はクレアとシズに報酬を3で割った60万ピアをそれぞれ渡した。
「えっ? エミリーに預けなくていいの?」
クレアは不思議そうな顔をして、俺に尋ねた。
「あぁ、昨日の件で金はちゃんと自分で管理したほうがいいと思ったからね。エミリーに預けて全部使われたんじゃ堪らない」
もはや、エミリーの金庫番としての信用は0だ! さすがにエミリーも文句は言うまい。
「あー、そうね。じゃあ遠慮なく頂くわ」
「ちゃんと考えて使うんだぞ。無くなって野宿になっても知らないからな」
「えぇぇ、その時は貸してよ」
「むり!」
「けち!」
クレアにも一市民として、金の使い方も学んでもらわないと。いつまでも貴族のように振る舞われたらいくらあっても足りない。
「よし、懐も厚くなったことだしエミリーに報告にいこうか。シズも紹介して、パーティーに入れる許可も貰わないとだしね」
「うん、よろしく」
ギルドを出ようと出口に向かっていると、壁に貼られた一枚の紙が目に入った。そこに書かれていた文字が懐かしいと感じるものだったかもしれない。
『アイスライト杯、ギルド代表メンバー求む』
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