第23話 いつかぶん殴る
俺とクレアはとても学校へいく気にもなれず、エミリーさんの家に行くことにした。とりあえず、今日あったことをすぐに相談したかったのもある。クレアは涙こそ止まっているものの、何も話さず呆然として歩いていた。
お互いを一言も話さぬまま、エミリーさんの家に着いた。玄関のドアを開けるが反応がない。どこか出掛けているのだろうか。リビングに向かうとテーブルの上に一枚の紙が置いてあった。俺はそれを手にとり読んでみる。
『なんか王都に呼ばれたから行ってくるー。ご飯は家にある食材なんでも使っていいからお願いしまーす。明日には帰るよー』
と可愛らしい丸い文字で書いていた。
「エミリーさん、明日まで帰らないって。とりあえず待つしかないね」
俺がクレアに話しかけるが、生気のない表情で小さく頷くだけだった。そしてそのまま自分の部屋に閉じ籠ってしまった。
あんなクレアははじめて見る。どんなときも人前では強きで堂々としているのに。クレアは貴族であることを誇りに思っていたからな。それを剥奪されたとなればショックは計り知れないだろう。
しかしあまりに急すぎないか……父親が殺されたからといって、いきなり貴族の剥奪なんて今までのフォントネル家の貢献度を考えればあり得ない。何か裏があるんじゃないか。
今俺が色々考えても仕方ないな。とりあえずエミリーさんの帰りを待とう。
昼になり、夕方になり、日が落ちてもクレアは部屋から出てこない。さすがに心配になってきた。食事もとってないはずだ。とりあえず夕食でも作っておくか。
俺は台所にある食材で料理を始めた。エミリーさんが料理上手なだけあって、様々な食材や調味料がある。これだけあれば何でも作れるな。クレアは何が好きだったっけ。よく肉を食べてた気がするな。よし、ステーキでも焼くか。
肉を大きめに切って豪快に焼く。スパイスを調合して、酒で香り付けをして仕上げる。部屋中に香ばしい食欲をそそる香りが充満する。
「よし、うまそうにできた」
ステーキを皿に移して、クレアの部屋まで運ぼうとしたら匂いにつられたのか、部屋の扉が開き目を腫らしたクレアが出てきた。
「お腹すいた……」
「ちょうどできたところだよ。一緒に食べよう」
「うん……」
クレアはテーブルに座り、ステーキを小さく切って、ゆっくり口に運ぶ。
「美味しい」
手を口に当てて目を見開いている。暗かったクレアの表情が少しは明るくなった。
「そうだろう。これが俺の全力だ。思い知ったか」
俺はあえて明るく振る舞った。クレアに少しでも元気になってもらいたくて……
「ふふっ。なによそれ」
クレアが笑った。よかった、ほんとによかった。
クレアはその後もステーキを食べ続けて、大きなステーキをしっかり完食した。
「ごちそうさま。ありがとうレイン、ほんとおいしかったわ。人間一つでも取り柄があるって本当ね」
「いやいや、魔法だってだいぶ得意になったんだぞ」
「ふん、そんなの私に勝てるようになってからいいなさい」
食事前は下を向いていた顔が、今はしっかり俺の顔を見てくれている。
「ごめんね……心配かけたわね」
恥ずかしそうで、聞こえるか聞こえないかぐらい小さな声だった。
「いいよ。俺はクレアには返せないほどの恩があるからな」
「たしかにそうね。謝って損したわ。返してちょうだい」
「なんだよ、それ」
俺とクレアはそんな事を言い合いながら笑いあった。
「明日は学校にいくわ。貴族ではなくなったかもしれないけど、さすがに退学にはなってないはずよ。レインでも通えてるぐらいだし」
「俺でもってなんだよ。でもそうだな、ちゃんと卒業できれば騎士団に入って貴族に復帰できるかもしれないしな」
「ふん、私なら首席での卒業は間違いないから簡単なことよ。そしてあいつから私の屋敷を取り返してやるんだから。絶対許さないんだから」
レオナルド=ファレル……あいつは俺も許さない。クレアをぶん投げたあげく、泣かせて落ち込ませた。いつかあの綺麗な顔をぶん殴ってやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます