第6話 もしかして嫉妬?

「おはよう、レイン」


 一騒動が終わったあとトールが近づいてきた。


「おはよう、トール」


「いやぁーさすが1位は注目されて大変だね」


 トールがからかってくる。


「ほんといい迷惑だよ。でもトールも予選にでられてよかったな」


「全然よくないよ。一回戦でレインとなら負け確定じゃないか。せめて痛い思いしないで終わりたいよ。でもグラッドはクレアさんとの対戦だからかなり落ち込んでたよ」


 たしかにクレアの戦いぶりを見てればそうなるだろう。ほとんどの相手が病院行きとなっているのだ。いまだに入院している者もいる。これで10分の1というのだから恐ろしい。


「そうか。あいつは15位だったもんな。それはお気の毒さまだな。ということは一回戦でうちのクラスは半分になっちゃうのか。ただでさえ四人しかいないのに」


「えっ、半分? 四人? ちょっとゴメンね」


 トールは予選出場者の名簿を見に行った。そして何かを確認してこちらに戻ってこようとした時に、リタが教室に入ってきた。


「はい、みんな席についてー」


 俺もトールも急いで席に戻る。リタは時間に厳しいのだ。それに怒ると怖い。


「もうみんな確認したと思うけど、アイスライト杯予選の出場者が決まったわ。出場者の方は席を立って」


 俺とクレア、トール、グラッドが席を立つ。あれ? もう一人一番後ろの一番窓側の席のメガネをかけた小さい女の子が立っている。誰だっけ? 名前が思い出せない。まだ数日しかたってないので、クラス全員の名前と顔が一致しないのだ。そういえば教室に入ったとき「やったわ」って声が聞こえてきたな。


 じっとその女の子を見ていたので、俯いていた顔を上げたとき俺と目があった。すると、慌てたようにまた俯いてしまった。なんかしたかな俺。


「うちのクラスからはこの5名が出場します。出れなかった人はまた来年チャンスがありますのでしっかり努力するのよ。さぁ、みんな出場者に拍手」


 バチパチパチパチパチパチ


 みんなから盛大な拍手を受けた。恥ずかしかったので自分でも拍手をしてしまった。クレアはというと、偉そうに足を広げ、腕を組んでいた。貴族なんだからもっとおしとやかになりなさいよ。


「ということで、今日は午前中の座学で学校は終了です。先生達は午後から明日の予選の準備がありますので、みんなは帰ってゆっくり休んでください」


 おっ、ラッキー。今日は早く帰って寝よう。最近は毎日学校で早起きが続いてたからな。もし座学中寝るとリタ先生の鉄拳が後頭部にとんでくるからな。一回だけ食らったことがあるが三日はタンコブが消えなかった。その時もクレアにバカって言われたな。毎日一回はバカっていわれてるよな俺。


 午前中の座学が終わり、荷物を片付けていると目の前に誰かが立っていた。顔を上げると先ほどの女の子が立っていた。


「ど、どうしたの?」


「レイン君、あ、あの、私、リリー=シンクレアと言います。明日二回戦で当たるかもしれないので、よ、よろしくお願いします」


 すごく早口で顔を赤くしなががらペコリと礼をして去っていった。去っていく姿を目で追っていると、なにか殺気を感じた。


 クレアだ。


「仲良しなのね」


「えっ、いやいや、ただ挨拶してくれただけじゃん」


「そうかしら。さっきもずっとあの娘の顔見てたけど。あの娘もまんざらじゃないみたいだし。いいんじゃない。それにシンクレア家っていったらすごくお金持ちよ。よかったわね、逆玉で」


 なにがいいのか全然分からない。俺はクレア一筋なんだ。


「違うんだよ。だって俺は……だって俺は……」


 くうぅ、ここから先がどうしても言えない。お前が好きだとかお前を愛してるとか言うだけなのに勇気がでない。


「だって何よ。今日は一人で帰るわ。ついてこないでね」


 クレアは本当に一人で帰ってしまった。俺の前を通るとき何かされると身構えていたが特になにもなかった。なんなんだよ、急に。もしかしてクレアも俺のことを。嫉妬したとか? いやいや期待しちゃダメだ。ただ飼い犬が他のご主人に尻尾を振ったのが気に食わなかっただけだろう。明日はきっといつも通りに戻っているはずだ。大丈夫、大丈夫。


 えっ、大丈夫だよね??

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