第3話 俺には魔法の才能が!?
「ぐあぁ、筋肉痛だぁぁぁ」
「もう。情けない声ださないでよ。鍛え方が足りないからそんなことになるのよ」
剣の実技試験があった次の日の登校中、俺は昨晩の筋トレ(強制)による筋肉痛により苦しんでいた。
「今日は学校休んでいいんじゃないか? このままじゃ遅刻しちゃうし」
「あんたバカなの? 筋肉痛で休みますなんて通用するわけないじゃない。今日は魔法の試験よ。遅刻だって許されないわ。それに昨日は上半身しか鍛えてないから足は動くでしょ」
「ちっ、バレたか…」
「はぁ? なんか言った?」
「いえ、何も…」
「そう、じゃあ急ぐわよ」
今日のお嬢様も絶好調だ。
学校には遅刻せずに着けた。それどころが15分前には着いた…
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「このぐらいでなに息切らしてるのよ」
「いやいや、いきなり走るなよ」
「急ぐわよって言ったわ」
「たしかに言ったけど速すぎだって」
「あんたが遅いのよ。のろま」
くそっ、俺はたぶん普通だ。クレアの身体能力がおかしいのだ。女性なのに筋力、スピード、体力全ての面でその辺の男を圧倒している。こんな細い体のどこにそんな能力があるのだろうか。
フォントネル家の才能というものなのか。クレアのお父さんの武勇伝も数々聞いている。ドラゴンをソロで倒したとか、隣国との戦争で1000人を相手に無双したとか……どこまで本当かわからないが恐ろしい。
「やぁ、おはよう。レイン、クレアさん」
教室に入ると昨日少し仲良くなったトールが挨拶してきた。
「おはよう。トール」
「ごきげんようトールさん」
クレア……今さらおしとやかに振る舞っても無駄だよ。昨日までの2日間で少なくともこのクラスには本性ばれてるから。
ちなみに昨日のトールの試験の結果は負けてしまった。序盤から優勢に進めていたのだが、相手の汗に滑って転び、その隙に一撃を浴びてしまったのだ。運が悪かったな。
トールの席の前でたわいもない話をしていると、リタが教室に入ってきた。
「やべっ、またあとでな」
「うん、今日の試験も頑張ろうね」
「おう」
急いで自分の席に戻り、椅子を後ろに引くと筋肉痛の痛みがまた襲ってきた。
「あいたたた」
俺が一人で苦しんでいると、後ろの席から話かけられた。
「なんでお前が痛そうにしてるんだよ。一発も食らってないだろ。まったく痛いのはこっちだよ。何発も殴りやがって」
昨日対戦したグラッドだ。あちらこちらに包帯を巻いている。あちゃあ、ちょっとやりすぎたな。でもなかなか倒れなかったし、やらなきゃやられてたから仕方ないよな。でもまぁ一応謝っておくか。
「いや、なんて言うかごめんな」
「いいんだよ。ちゃんとした勝負の結果だ。それに謝るのは俺の方だ。昨日は色々とバカにして悪かったな。すまん。あらためて自己紹介させてもらうぜ。グラッド=ラーナーだ。これからよろしくな」
こいつ意外にいいやつなのかもしれない。
「あぁ、よろしくな。俺はレインだ」
「はいはい、そこいつまでおしゃべりしてるのかな」
リタ先生がご立腹だ。
「「すいません」」
「ほんとバカね」
小さい声でクレアが呟いたのが聞こえてきた。
「さぁ、昨日伝えた通り魔法の試験を行うわ。でも試験といってもあなた達はまだ魔法の使い方を知らないはずです。なので基本的なことを今から学んでもらいます。そしてそれを使ってあなた達の魔力量や素質を測りたいと思います」
この国では法律で15歳になるまで、魔法を学んではいけないことになっている。あまり物事の分かっていない子供に魔法を覚えさせるのは危険だからだ。魔法は強力で、使えば簡単に人を殺めてしまうこともある。だから学校という場所でしっかり教えていく事になっているのだ。国によっては10歳から学べるところや、規制のないところもあるようだが…
「さぁまずは魔法の危険性から話すわよ。さぁこれを皆に配って」
リタは教室の隅に置かれていたデカイ箱をひょいと持ち上げ教壇の横に置いた。デカイ箱を下ろしたときドオォンと大きな音が響いた。中には10センチはある分厚い資料が敷き詰められていた。さすが元騎士団。こんなものを持ち上げるなんて。クレアもできるのだろうか。
机に分厚い資料が置かれる。うわぁ何ページあるんだこれ。読むだけで何日かかるんだろうか。
しかしそれは甘い考えだった。
「さぁ、時間もないからサクサクいくわよ。今日中に全部説明して、試験までやるんだからね。ちゃんと付いてきなさいよ」
えっ? 本気ですか? こんな厚いのに? 読むだけでも無理だって。クラスの皆も無理だよぉ、みたいな雰囲気を出している。
「大丈夫、大丈夫。さぁ、いくよっ」
リタはそう言うと物凄い速さで資料を読み始めた。
えっ、あっ、ちょっとまって。今何ページ? 何行目? あれ? あれ?
3時間ぶっ通しでリタは資料を読み終えた。なんとか内容は理解できた。資料の中身は結構、図や絵も多かったので読みやすく理解もしやすかった。
まとめると魔法はイメージが大事。どんなものを生み出して、どんな効果を得るのか。イメージしたら後は魔法の名前を叫ぶだけ。持っている魔力が高いほど、そのイメージを実現しやすくなる。
例えば、下級魔法のファイア。炎を放つ魔法である。山を燃やしつくす炎を想像しても魔力が低ければ枝を一本燃やすほどの魔法しか発動されない。そして中級の魔法、たとえばファイアボール。これは炎を槍のように変化させ高速で敵に向かう魔法だか、魔力が低ければ発動すらされないらしい。
ただ魔力が高ければなんでも実現できるというわけではない。基本的に四属性。火、水、風、地の四つである。この四属性に関係するものしか実現させることしかできないようだ。雷も有名だが、これは属性を組み合わせてできた魔法らしい。
「さぁこれで基本はおしまい。午後はみんな昨日の闘技場で魔法ファイアを実際に使ってもらうわ。今のうちしっかりイメージしておくのよ」
あぁ不安だな。俺に魔法なんて使えるのかな……もしかして何も発動しないなんてことも。
魔力を全くもたない人もわずかながらいるらしい。
「レイン、食事にいきましょう。お腹減ったわ」
「あぁ、そうだな」
とりあえず悩んでもしょうがない。クレアと二人で学食へ向かった。
「並んでるな」
学食は昼時ということもあり長蛇の列を作っていた。
「並んでるわね」
「どうする?」
「並びなさい。私、ハンバーグ定食ね」
「え? 一人で並ぶの?」
「二人で並ぶ意味あるかしら。私は席をとっておくわ」
「わかりました……」
30分並んでようやく買うことができた。
クレアの席にハンバーグ定食を置くと、
「ありがと、レイン」
と笑顔でお礼を言われた。ドキッとした。この笑顔が見られるのなら、並んでよかったと思えた。
俺は焼き魚定食を頼んだ。魚の身を少しずつほぐしながら食べていると、クレアが俺の料理をじっと見ているのに気づいた。
「どうした? クレア」
「あなたの料理も美味しそうね、少しちょうだい?」
なるほどね。たしかに他の人が食べてるのを見たら美味しそうに見えるよな。箸で身を取り分けて、クレアの口元に運んでやる。
「ばっ、バカっ。なっ、なんであんたの箸で食べさせてもらわなきゃなのよ。自分でとるわよ」
顔を赤くしたクレアはもっているフォークで魚をグサッと刺して大量に魚の身を口の中に運んでいった。あぁ、俺の昼飯が……
昼休みも終わり、皆闘技場へ集まった。
「時間もないし、さっそく始めるわよ。試験のやり方は簡単よ。この木を燃やしてみなさい」
リタは30センチ程の木の板を取り出した。
「この木は炎に非常に強いの。でもどんなに強くてもしょせん木は木。強力な炎にさらされれば燃えるわ。だからあなた達は強力な火をイメージしてこの木を燃やしてごらんなさい。その燃え方によって、点数を与えます。この点数もアイスライト杯へつながるから頑張りなさい」
またでた、アイスライト杯。昨日からこのセリフ聞くと皆の目付きが変わるんだが……あとでクレアに聞いてみよう。
「さぁ、最初は誰がやる? 自信ある人はいるかしら?」
「俺がやろう」
グラッドが名のり出た。
「昨日はレインにやられっちまったからな。これで挽回してやるぜ」
「じゃあ、いつでもいいわよ」
リタは闘技場の中心に木の板を置いた。
「じゃあいくぜ、ファイアー」
グラッドが唱えると構えた手から火の玉が飛び出し木の板は炎に包まれた。
「やったぜ」
グラッドも手応えがあったのか喜んでいる。
「それはどうかしら?」
リタがそう言うと、みるみる火が消えていく。リタが火の消えた木の板を持ち上げると木の板の端3センチぐらいが黒く焦げていた。
「10%ってとこね。ではグラッド君は10点ね」
「バカな」
グラッドはショックを受けているようだった。それを見たリタは、
「大丈夫よ、グラッド君。たぶんほとんどの人が10%も燃やせないから」
とフォローしていた。
それから20人程同じ試験を受けたがリタの言う通り、10%燃やせた者は5人だけ、最高でも13%という結果だった。
「ふふふ。すごいでしょ、この木。魔力を測るのにこんないいものはないわ。卒業までに30%燃やせるようになれば優秀よ。みんな頑張って魔力上げてね。じゃあ次はクレアさんね」
とうとうクレアの番がきた。クレアはどれほど燃やすのだろう。もしかして30%ぐらい燃やしてしまうのではないだろうか。期待が膨らみこちらまで緊張してきた。
クレアが木の板の前に立ち、目を瞑り集中している。そしてバッと目を見開き唱える。
「ファイアー」
木の一部が炎に包まれ徐々に消えていく。
ん? なんか変化してるか?
リタが木の板を拾い上げると、僅かに端の方が焦げていた。
「うーん、1点ね…」
本日最低点を記録した。
「クレア、なんか失敗した?」
俺は信じられなかった。なんでも万能にこなすクレアが最低点をとるなんて。
「しょ、しょうがないじゃない。フォントネル家は代々魔力が弱い家系なんだから。だいたいあんな木燃やさなくても私の剣でみじん切りにしてあげるわよ。もうほっといて」
不機嫌だった。それにしても知らなかったな。クレアにも不得意なものがあるんだな。
「では次はレイン君やってみなさい」
よし、俺の番か。少なくともクレアには勝ちたい。今まで何をしても負けてきた。1つぐらい勝てるものがあってもいいはずだ。
俺は集中した。あの木の板を燃やしつくすイメージを。灰すら残さないくらい強力な炎のイメージを。そして大声で唱えた。
「ファイアァァァ」
何も起きない……あれ失敗か? もしかして俺魔力ないの?
様子を見ようと木の板に近づこうとすると、リタが叫んだ。
「やめなさい、近づいてはダメ」
その言葉に驚き、木の板から距離をとる。すると木の板の地面が赤くなり、徐々に青白い炎に包まれ、火柱を上げる。火柱はどんどん高くなり闘技場の天井に届くほど上がり、徐々に消えていく。それはもはやファイアではなかった。
木の板があった場所には黒い炭しか残っていなかった。
「レイン君……100点」
俺には魔法の才能があったのか!
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