第2話 俺には剣の才能がないようだ。
「今日はちょっとした試験を行います。全員揃っていま……せんね」
昨日クレアに殴られた男は欠席していた……
学校二日目の朝、このクラスの担任であるリタが突然言い出した。
リタは女教師である。メガネをかけており、黒髪ストレートの綺麗な女性だ。メガネを指でくいっとあげるのが癖になってるようだ。数年前まで、王国の騎士団にいたようだが結婚を機に辞めたと昨日自己紹介の時にいっていた。
ちなみにこの世界にはさまざまな国がある。20~30はあるだろうか。正確な数はわからない。戦争が多く、常に国の数は変わっているのだ。弱肉強食の世の中である。
俺達が住んでいる国はアイスライトと言う。もし戦争が起こったときの為にアイスライトには騎士団というものがある。騎士団の中にもいろいろな役職があるのだが、隊長クラスには基本貴族が位置している。
しかし、貴族だから隊長クラスになれるとは限らない。この国では強さが全てなのだ。強くなければ貴族にはなれない。家系が弱体化すれば貴族の剥奪もありえる。なので、貴族達は子供には強くなってもらう必要があるので、このような学校に通わせるのだ。逆に一般市民でも努力し、強くなれば貴族の仲間入りになれる。このシステムのお陰でアイスライトは強国として名を轟かせていた。
この学校では優秀な成績で卒業できるほど、良い待遇で騎士団に入隊できるようだ。主席だといきなり小隊の副隊長を任されるとか……まぁ俺には縁がない話だな。
「まずは剣の実力を見せてもらうわ」
うわぁ。いきなりまずいなぁ。試験って実技なのか……俺はいつもクレアの剣術の相手をしている。いや、相手をさせられている。木刀での戦いだが一度も勝てたことがない。それなのにクレアは毎日毎日俺に突っ掛かってくるのだ。始めの方はボコボコにされていたが、最近はなんとなくクレアの動きに慣れてきたのか怪我は少なくなった。それでも最後は負けるのだが……俺には剣の才能がないのだ。好きな女の子に勝てないぐらいに。
俺達のクラスは学校の敷地内にある闘技場に移動した。この闘技場は特別な結界が張ってあり、いくら強力な魔法を使おうとも破壊されないし、外に被害を及ぼすこともないらしい。
闘技場に入るとすでに別のクラスが使用していた。今から二人の男が戦うところのようだ。なんか雰囲気ある男だな。長髪、銀髪で長身細身の男性が妙に気になった。
「おっ彼はエーベル=ランディルじゃないか?」
見知らぬ男が話しかけてきた。
「エーベル?」
初めて聞く名前だった。
「知らないのかい。俺達の代の主席候補の一人、ランディル家の長男さ。剣も魔法も一年生のレベルはとうに越えているらしいよ。あっ、俺はトール=アストレア。トールと呼んでくれ。これからよろしくね、レイン」
そう言うとトールは握手を求めてきた。トールは茶髪で身長は俺よりもだいぶ低く、顔は格好いいというよりは可愛いタイプだ。これはこれで女性受けがよさそうだ。なかなかの好青年で仲良くなれそうな気がする。
「あぁ、よろしくなトール」
「なにが主席候補の一人よ。この私を差し置いて生意気だわ」
トールと握手していると、クレアが話に入ってきた。
「はじめまして、クレア=フォントネルさん。もちろんあなたも主席候補の一人と言われてますよ。あなたの剣はそれはもう華麗で美しいと評判ですよ」
どこが華麗で美しいのだろうか、あんなの力でごり押ししてくるだけなのに……
「そ、そう。あなたなかなか見所あるわね。特別にクレアさんって呼んでもいいわよ」
やるな、トール。早くもクレアの扱い方が分かってる。
「おっ、二人ともはじまるぞ」
俺とクレアはエーベルの試合に注目した。
「はじめっ」
エーベルは木刀を構えることなく、手から下げているだけだ。相手の男はおもいっきり振りかぶり木刀を振り抜く。当たると思ったが寸前の所で身をひねり紙一重で避ける。それと同時に手から下げていた木刀を振り抜くと脇腹にめり込み相手は悶絶していた。
「それまで!!」
一瞬だった。エーベルは少しも力を見せていないだろう。まぁ相手も弱すぎたかな。
「つまらん」
エーベルがそう呟くと、こちらに歩いてきた。するとクレアの前に立った。
「フォントネル家の者だな。アイスライト杯で戦えるのを楽しみにしているぞ」
「ふん、私と戦う前にこのレインに負けないことね」
クレアがそう言うと背中をドンッと叩いてきた。いきなり殴られたかと思うくらい強烈な一撃だった。ゴホゴホむせていたら、
「ふんっ」
とだけ言い残して去っていった。
アイスライト杯…ってなんだ?
「さぁ、次は私たちのクラスの番ですよ。この試験はアイスライト杯への選抜の評価にもなりますからね。頑張ってね」
リタがそう言うとクラスメイトの顔付きが変わった。
だからアイスライト杯ってなに……
「では最初はレイン君とグラッド君よ」
うわぁ、いきなりか。グラッドって誰だ?
「はっはっはー、いきなり俺の番とはな。相手はあの召し使いか。怪我する前に棄権した方がいいんじゃないか」
グラッドは筋肉モリモリのとにかくデカイ男だった。頭はツルツルだ。これは女にはモテないだろうな。しかし強そうだ。確かに一撃くらう前に早めにギブアップした方がよさそうだ。
いやそれよりも召し使いじゃないって。ただの幼なじみだって。
「レイン、わかってるわね。負けたら明日から剣の稽古二倍にするならね」
えっ、まじかっ。あんなデカイ奴に勝てと。しかし二倍は嫌だ。確実に怪我が増える。痛いのは嫌なのだ。できるだけやってみるか…
「まぁ、がんばるよ……」
俺は対戦の場にとぼとぼ向かった。
「二人とも準備はいいわね。では、はじめっ」
グラッドは俺の二倍は太い木刀を持っていた。あれをまともに受けると木刀が折られそうだな。全部避けるしかないかぁ。
「じゃあ、いくぜ。死ぬんじゃないぞ。後味悪いからな」
勘弁してくれ。こんなとこで死ねるかよ。まだクレアに好きも伝えてないのに。
勢いよく俺に向かってきて、木刀を振るう。
ん? なんだ? 本気なのか? それにしてはスピードが遅い。これなら避けるのは簡単だ。一回目の攻撃をあっさり避けると、グラッドはチッと舌打ちしながら次々と太い木刀を振り回してくる。うん、大丈夫だ。全く当たる気がしない。それどころが隙だらけだなこいつ。いいのか? 殴っていいのか?
悩みながらも、一発グラッドの横腹に木刀で殴り付けた。グラッドはぐぁっと声を上げるが止まらず木刀を振るってくる。あれ? 効いてないのか? デカイだけあって防御力が高いのか、俺の攻撃力が低いのか分からなかったが、10発ほど殴ったところでやっとグラッドは動けなくなり膝をついた。
「それまで! 勝者、レイン君」
他のクラスメイトから歓声が上がった。
「あいつ強いじゃねーか。グラッドに何もさせなかったぜ」
「ただの召し使いじゃないんだな。さすがはフォントネル家の召し使い」
「フォントネル家はあれほどの力を持つ奴を召し使いにできるのか」
など、召し使いのくせに強いという話ばかり聞こえてくる。いい加減誤解を解かないとな。幼なじみと召し使いじゃ立場が全然違う。まっ、そのうち恋人に昇格する予定だけどね。
クレアの元にいき勝利を報告したが……
「なにあんな相手に手間取ってるのよ。力が足りないのよ。力が。今日は腕立て伏せ500回追加ね」
「なんでだよ、勝ったじゃないか。約束が違うぞ」
「はぁ? 私に文句言うなんて生意気よ。腹筋も500回追加ね」
「なっ!?」
更に追加されてはたまらないので何も言えなくなってしまった。相変わらずのドS振りだ。なんでこんな女を好きになってしまったのか……
だけど、この特訓のお陰でグラッドを倒せたのかな。クレアの動きにに慣れていたせいで遅く感じたのか? 俺を強くする為にわざわざ厳しくしてくれてるのかもしれない。そう思うと何故か頑張ろうと思えた。
その後クレアの戦いが始まったが、一瞬で相手が気絶していた。死んでないだろうな。手加減してやれよ。相手が気の毒だった。うん、やっぱクレアは強いな。あれが才能というものだろう。やっぱり俺には剣の才能がないようだ。
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