二歩目 対峙
「え……怪鳥!?」
頭上にはアニメや漫画でしか見た事のない様な、牙の生えた鳥の怪物がゆっくりと、森を監視する様に飛んでいた。
シズクは驚きもせず、淡々と教えてくれる。地面から立ち上がり、横に置いていた杖を握る。ローブに杖、魔法使いか?
怪鳥もいたし、魔法使いがいても不思議では無いけど理解が追いつかない……。
「凶暴なモンスターじゃないから、警戒しなくて大丈夫だよ! こっちが攻撃しなければ問題なし!」
ビシッと親指を立て、キメ顔を披露するシズク。
「モンスター? 他にも色々いたりするのか?」
「ここはダンジョン付近だから結構いるよ! レベルは低いけどね。翔吾が森で倒れてた時はびっくりしたよー」
ふわっとローブをなびかせ、辺りを見渡す。髪もひらりと舞い、無邪気な娘を見守る父の様な気分になる。見た感じ同い年くらいだと思うけど。
モンスター、ダンジョン、どれもフィクションの話で余計に理解が追いつかなくなりそうだ。
でも俺は実際にモンスターを見ている。
理解はまだ出来ないが、ここは俺が生まれ育った所とは違いすぎる。夢か? でも、リアルすぎるよな。
――もしかして、人生からも逃げたのかよ俺。
「モンスターとかの事よく知らないみたいだけど、どこから来たの?」
首を傾げきょとんとした顔を見せるシズク。どう答えるのがいいんだろうか、恐らく他の世界から来たと思う。なんて信じてもらえるのか?
そんな疑問を察したのかシズクは「無理に答えなくて大丈夫だよ」と言ってくれた。その気遣いに俺は、心があたたかくなった。
「おいおい! 嬢ちゃん! 坊ちゃん! こんな所にガキだけで来るなんて殺されても文句言えねぇぜ?」
突然、辺りに響き渡る声。妙な空気感が漂う中、森の奥からゴリラのようにガタイのいい男達がゆらりゆらりと現れる。盗賊か何かか? 気付けば、俺とシズクの退路を断つ為か、円形に囲まれていた。
二十人は超えているだろうか。俺の正面に飛び抜けて大きいやつがいる、あいつがボスか? 明らかに周りのやつらと雰囲気が違う。
「シズク、知り合い?」
「ううん! そんな訳ないよ!」
念の為に確認してみたが、シズクは大きく首を振って否定する。
「シズク? あぁ、お前あれかぁ! 勇者パーティーを追い出された、出来損ないの魔法使い!」
恐らくボスのゴリラ、ボスゴリラは不気味な笑みを浮かべる。
魔法使い!? 本当に魔法使いだったのか? いや、今はそんな事言ってる場合じゃないな。この状況はやば過ぎる! 早く逃げないと!
「攻撃魔法の使えない出来損ないがこんなとこで何してんだぁ? 何も出来ないくせによぉ!」
出来損ない……言い過ぎじゃないか? シズクは言い返さな――いや言い返せないのか。
それもそうか、自分にどんな意思があろうと他人からすればただの言い訳、逃げだ。
何があったのか知らないけど、きっとシズクは凄く辛い思いをしたんだろう。それでも逃げようとしないなんてシズクは立派だな。それに比べて俺はまた逃げようと……。
「おい! なんとか言えよ! 出来損ないがよぉ!」
ボスゴリラの言葉を聞き、シズクは下唇を強く噛み締め、力強く杖を握る。
やめろ、それ以上言うな。お前らが思うって事は、本人はお前ら以上に自分の無力さに悩まされてるんだよ。
「おいガキ、その女置いて逃げろよ! ビビってんだろぉ? 男に用は無いからなぁ!」
盗賊達が俺を嘲笑う。確かにビビっている、逃げ出したい。でも……ここで逃げたら、今までと何も変わらないだろ! また、逃げるのか俺は!
「早く逃げろよ! 俺達は、一度目を付ければしつこく追うぜぇ? 後悔する前に逃げて楽になれよ!」
煽るように声を大きく張り、まくし立てるボスゴリラ。
あぁ……いつも言われていたな、逃げれば楽でいいよなって。確かに、逃げずに立ち向かう人は凄いと思う。でも逃げる人を非難する資格はないだろ?
人によって耐えれる辛さは違う。どんなに些細な事でも辛くなって、逃げて。逃げた自分が嫌になる。変わりたくても、何も出来ないと思って、また逃げる。その繰り返し。自分が嫌いだ。
逃げる事は悪い事かもしれない、でも逃げない事が偉い訳じゃない。
逃げるのが楽だって? そんな訳ないだろ。
「楽じゃねぇよ!」
この世界に来たのも、何かのチャンスなのかも知れないな。もう絶対に逃げない、逃げたくない! 変わりたい!
俺はここで新たな一歩を踏み出す!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます