第17話 優美の才能と対照的な両刃
第二訓練場に到着する。
ファントムは誰もいない事を確認してから近くにある椅子にアイリスを案内して座らせる。
それから準備運動を始めるファントム。
「私が言うのもあれだけど純粋な剣だけならどっちが強いの?」
「今はまだ俺だろうね」
「今は……? 優美ってそんなに才能があるの?」
「あるよ。ただ才能に頼っている間はあそこで成長は止まるだろうね。才能があるからこそ人はそれを使いたがる。だけどそれは間違いなんだ。才能がない者が努力で才能がある者に勝つことが出来るのは、才能がないからだとも言える」
「うん? 簡単に言うとどうなるの?」
「優美様は努力の方向性が間違っているんだよ。それともう一つ。――を崇拝し過ぎてるんだ。――も所詮人間。なのに自分とは違うと思っている。その時点でもう成長は出来ない。なぜならそれを言い訳に逃げているだけだから」
「なるほどね。確かにそれは一理あるわね」
「だから正しい方向に向けてあげる予定。っても本当に出来るかはわからないけどね」
ファントムは準備運動を続ける。
女の子相手に本気でいくつもりはないが、これで万に一つボロ負けとかになってはカッコ悪いし何より威厳がなくなりそうなので、前準備は念の為にしておく。
それに可能ならもうそろそろ優美の治療ぐらいはしておきたいなと言うのがファントムの心情だったりもする。
もしもの時を考えるとやはり万全を期した方がいいに決まっているからだ。
かと言って、心が不安定の中強引に治してもあまり意味がない。
魔法とはそもそもただ発動し使うだけではなく、頭の中で魔法構築式と言う魔法発動の為の計算式を計算して始めて使う事ができるのだ。当然魔法構築式に使われる、魔力使用量、外部の環境、天候、発動条件、等が曖昧だと発動される魔法も曖昧と真価を発揮してくれない。計算を終えた後は実際に魔力生成器官から必要な魔力を必要な場所に送りと一言に魔法と言ってもそれなりの手順があるのだ。慣れればスポーツと同じくある程度は感覚で全てが出来るようになるわけだが、それでもメンタルが不安定だったり集中力がないと魔法の完成度が著しく落ちる。最悪、不発、暴発、途中で暴走と言った使用者の命を奪う事だってある。
だからこそ急ぎたい気持ちこそあれど慎重にならなければいけないことだってある。
物事には順序と言う物が存在する。
「さっきから優美の事よく知っているような口調だけど、二人ってそんなに仲良しだったの?」
「別に。ただアイリスと同じで分かりやすい部分がある――じゃなくて真っすぐな人だなって思ってそこから推測したんだよ」
「今馬鹿にした?」
「してない、してない。きっと空耳だよ……あはは……」
地獄耳だ。と思いつつも笑って誤魔化すファントム。
「空耳ねぇ~。まぁいいけど……」
どうも納得がいかないご様子のアイリス。
すると足音が聞こえてくる。
ファントムとアイリスはすぐにお互いの顔を見て頷き合う。
「お待たせしました、ファントム様」
「おっ!? ガチガチに装備を決められて来られたのですね。よく似合ってます」
「ありがとうございます。今日は胸を借りるつもりで行きますので、どうかご指南の程よろしくお願いします」
真剣な表情で頭を下げる優美。
そしてゆっくりと頭をあげると、目つきが鋭い物に変わっていた。
ファントムはそれを見て察する。
優美自身この試合を通して何かを得ようとしているのだと。
そしてそれだけ真剣なのだと。
なのでファントムも気合いを入れ直す。
「わかりました。では優美様のご要望に合わせて私も剣を使いますが問題ありませんか?」
「はい」
「それと一つ忠告です。優美様は今使える本気で来て貰って構いません」
「わかりました」
ファントムがゆっくりと息を吐き出す。
そして抑えていた力を開放する。
魔力回路から溢れ出る微弱な魔力反応。
この反応が大きい程魔術師としては実力者である傾向がこの世界では強いことから優美の警戒心が一瞬で最大レベルにある。
あの日見て感じた、威圧的で暴力的な魔力反応ではない。
なのに優美はファントムが実力者であると認めざるを得なかった。
どこか優しそうな魔力反応でありながら油断すれば一瞬で敵の首を撥ねられるような、そんな感覚に身体が支配されてしまったからだ。
そしてわかった。
なぜアイリス女王陛下がこれほどまでにファントムと言う男を信用し信頼しているのかを。これだけでも実力は申し分ないと言えるし、もし頭がキレるとしたら、側近として置いておくには申し分ないからだと。
だけどそれすらファントムに対しては軽率な考えであるとは考えなかった優美。
「では位置に付きましょう」
「わかりました」
二人が移動し、向かい合う。
ファントムと優美の手にはそれぞれ剣が握られている。
ファントムの剣は光沢のある黒い剣で優美の剣は光沢のある白い剣。
対照的な二本の両刃の剣。
ただし黒の剣は生成されてからそのままなのに対し、白の剣は補助魔法を掛けられており攻撃力強化と耐久値強化が施されている。
――。
――――。
二人の視線が重なり合い、第二訓練場全体が重い緊張感に包まれる。
「いつでも構いません。優美様が動いたタイミングで試合開始とさせていただきます」
「……!?」
優美の瞳が大きく見開かれた。
「わかりました」
息を飲み込み返事をする優美。
そして剣を握る手に力が入った。
だけどその手は……微かに震えていた。
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