第16話 罪の修行案


 昼食を食べ終えて、アイリスとファントムがゆっくりお茶を楽しんでいると、ファントムの部屋の扉がノックされる。


 ――コンコン。


 誰だろうと思いファントムがアイリスを見るが首を横に振られる。


 心当たりはないがとりあえず無視は良くないので返事をするファントム。


「は~い。入って来ていいですよー」


 ――ガチャ。


「優美様」


 扉を開けて恐る恐る部屋に入ってくる優美。

 緊張しているのかその場で深呼吸を始める。


 それから、


「私と今から勝負してくださいませんか?」


「「…………???」」


 首を傾けて、ファントムが助けを求めると、アイリスが鏡のように同じ反応を示す。

 なにがどうなっているかが分からない二人。

 優美は今魔力回路にダメージを受けていて本気で力を使う事が出来ない。

 もっと言えば剣に対しても自信を失っている状態。

 そんな優美が自ら手合せをして欲しいと言ってきたものだから流石のファントムも言葉を失ってしまったのだ。


「やっぱりご迷惑でしたか?」


「あっ……いや……そう言うわけでなくてですね」


 今度は優美が首を小首を傾げる。


「急にどうしたのかなと思ってですね。昨日は剣を握る事に躊躇っているように見えたので心変わりする何かがあったのかな? と思いまして」


「あー、それですか。実はまだ迷ってはいます。それを先程お父様にご相談したら悩むもまた修行だと言われました。そこで私なりにこれからどうしたいかを考えた時、やはり剣の事は剣に聞くが一番早いかと思いまして。私の今の状況を知っていて実力的にも申し分がないお相手となり、すぐに頼めるともなるとファントム様しかいなかったと言うか……そんな感じで来てしまいました。ごゆっくりされていたところすみません」


「あー、そうゆう事でしたら――」


 ファントムの声を遮り、ニヤリと微笑んだアイリスが言う。


「そうゆうことならいいわ。私が許可する。私も今から行くから第二訓練所を使うといいわ。久しぶりに剣の真剣勝負ってのを見てみるのも悪くないしね」


「ありがとうございます。ファントム様もそれでよろしいですか?」


「はい。アイリス女王陛下もこう言われておりますので喜んでお受けいたします」


「それと優美。ドレスだと汚れるだろうから来る前に着替えてきなさい」


「わかりました。では一旦失礼します」


 頭を下げてから部屋を出て行く優美。

 その表情はどこか嬉しそうだった。

 それに会ってから一番表情が柔らかくと優美の中で何かが前向きに変わろうとしていると思うとファントムは嬉しい気持ちになった。

 どうやら優美の魔力回路の件は案外いい方向で解決するなと思う。

 そうなると問題はもう一つなわけだが、こればかりは向こうが動くのを待つしかない。

 もし犯人の動機が分かればそれらを元にこちらから動く事も可能になるかもしれないが、それはあまり現実的ではないと考えるファントム。

 こちらが動くには間違いなく自分が動かなければならない。

 そうなると王城にいるアイリスの護衛がいなくなるからだ。

 もしすれ違いで侵入でもされた日には優美だけでなくアイリスまでも危険になる可能性も出てくる。軽率な行動が大きな問題になる可能性を配慮するとやはり迎え撃つ方がいいのではないかと言うのがファントムの意見である。


「本気で行くの?」


「さぁ? 魔法有だったらそれはマズいと思うけど……」


「そう言えば犯人逃した罰与えてなかったわね。それとセクハラした罰も」


「うっ……そ、それは……許してくれたんじゃなかったの?」


「気が変わったわ。優美をその気にしなさい」


「異性として?」


「ち、違うわよ、ばかぁ!」


 顔を真っ赤にして答えるアイリス。

 そのまま慌てていているのか早口になる。


「ファントムは私だけをみ……じゃなくて、優美の闘争心に火をつけて導いてあげてって意味よ!」


「ですよね~、あはは~」

(今私だけをみ……って言ったのは聞き間違いかな)


 後頭部を手で掻きながら答えるファントム。

 軽い気持ちで冗談を言ったわけだが、アイリスにとっては冗談として受け止めるには刺激が強すぎたらしい。


「ファントムって優美みたいな女の子が好きなの?」


 誤解を招いた気しかしない質問。

 だけど答えないわけにはいかないので。


「う~ん、そうだね。真っすぐな女の子が好きって意味では間違ってないだろうね」


「真っすぐと言う事は……私も入ってしまうわね。まぁ、それはしょうがないわね」


 言葉と態度が合わないアイリス。

 口では渋々言っているが、頬が緩みきっているのがその証拠だ。

 それに頬がさっきより赤くなっているし、ファントムを見つめる目が嬉しそうにキラキラもしている。

 見てて可愛いなと思ったファントムはそのまま手を伸ばしてアイリスの頭を撫でてみる。


「きゃ――!?」


 突然の事に驚き、可愛い悲鳴をあげるアイリス。

 でもすぐに頭を擦りつけてくる。

 まるで猫のように。


「ありがとう~、それで急にどうしたの?」


「特に深い理由はないよ。ただアイリスがそうして欲しいそうだったからね」

(本当は罪滅ぼしと忘却が狙いだけど……)


 満面の笑みでファントムが答えると、アイリスも満面の笑みになる。


「なら第二訓練場に行きましょう?」


「そうだね」


 二人は優美より一足先に訓練場に行くため部屋を出た。








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