青と青の間で
味付きゾンビ
海を渡る
「ただいまー!」
大声を張り上げつつ靴を蹴っ飛ばすように脱ぎ小走りに廊下を駆け抜けた。
中学の教科書、ノート、筆記用具その他が詰まったカバンを自分のベッドに投げ捨てると昨夜のうちから準備をしていたバックパックを引っ掴み中身も見ずに家を飛び出した。
「おかえりーって、あれ?もう出たのー?」
「船の時間があるからさー!いってきまーす!」
「ご迷惑にならないようにねー!」
母親の言葉を聞き申し訳ない気持ちになりながら僕は一路港へと走る。
僕の住んでいる島は離島の中でも外れの方で学校に行くためには連絡船に乗るか、必要以上の時間をかけて陸路を走るかだ。
だから船の時間という嘘は母には強く効いた。
スマホを開いて友人の隆司に連絡を入れる。
『タカシー、打ち合わせ通りになー』
『剛はうちに泊まりに来てる』
『トイレ・部活疲れで寝てる・自販機に
ジュースを買いに行った』
『適当に話す。剛頼んだぞ女の子の紹
介。彼女に言ってくれよ』
『だから彼女じゃないけど!
約束だから聞くは聞く』
ごめん隆司、それは無理なんだと心の内で詫びてスマホを閉じて港へと向かう道を右に曲がる。連絡船が止まる事が出来る港から外れると当然のように道は寂しくなる。寂しくなると言ってもこんな離島の端なので逆に連絡船の止まるエリアがある種栄えすぎてるのかもしれない。
学校終わり、昼過ぎの港にはぽつぽつと漁船が止まっている。夜中から明け方が彼らの仕事の時間で、そのあと数時間が仕事後の手入れの時間。船であったり、漁業に使う網の補修や巻取り用のウィンチの手入れを終えた彼らの休息の時間で船はあれども人はいない。けれど誰かに見つかると面倒なので僕はバックパックから取り出したキャップを深くかぶった。
鳥の鳴き声と猫の姿しかない港の外れ。目的の物に乗り込む。
離島には離島也に良い所があって、海の遊びは一通りできる。
そして誰も目に止めていないのでお目零されている遊びもある。
マリンジェットに跨り、エンジンをかける。
この辺の大人たちがお目こぼしをしてくれている海のツール。16歳未満が乗るのは法律で禁止されている、が何もないこの島では大人の誰もが子供時代にコレで遊んでいたのは公然の事実であって、それが今の子供たちに乗るなと強く言えず港の外れに係留されたそれはこの村の、そして子供たちの共有財産のようなものだった
僕はそれを駆って港を飛び出した。
眼前に見える島を目指して。
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