第3話 天才結界士と魔王、そしてそのころ

 封印が解除されたのを王宮の兵士が見つけた事をいざ知らず、俺はマギアと共に街へと戻り、試験達成の報告をする。


「はい、確認しました。試験をクリアしたみたいですね。では、こちらの冒険者ライセンスをお渡しします。これで晴れて冒険者ですね、おめでとうございます」

「ああ、ありがとう。そうだ、連れがいた場合でも、リーダーが冒険者ライセンスを持っていれば、大陸移動とかは可能だよな?」

「はい、可能です。ただし、移動先での仲間の安否に関しましては、冒険者ギルドの管轄外となりますので、そこはご了承ください」

「わかった、助かる」


 まあ魔王なら安否の問題はいらないだろう、俺の方は気を引き締めないといけないレベルだろうが。

 何はともあれ、これで試験は終了。

 冒険者ライセンスを修得した為、他の大陸にも渡れるようになった。


 俺はギルドの外で待っているマギアの所へ急いで戻る。長く待たせすぎると機嫌を損ねてしまいかねないからだ。

 ちなみに魔族であることを隠す為、とりあえず背中の翼に関しては、魔力によって不可視にしてもらっている。隠せると聞いたときは『都合のいい羽だな』と笑ってしまった。


「待たせたな」

「遅い! どれ程待たせるの!?」


 大体5分しかたってないのだが。

 『短気すぎるだろ』と脳内で突っ込んでおく。


「まあいいよ、無事冒険者の資格は取れたみたいだね」

「ああ、これで大陸を渡れる。他の仲間探しに役立つだろう」

「良し、なら早速行こう! ……ところでクライン。この大陸の南の方に魔界港とやらはある?」

「この時代にそんな物騒な名前の港があったら消されるだろ。まあでも、大きな港町ならあるぞ、カステットっていう場所だ」

「うっ、私がつけたカッコいい名称なのになあ。そんなダサい名前になってしまって……」


 マギアのネーミングセンスも大変悪かったようだ。

 そう思えば、俺がマギアの名前を付けたのもある意味正解だったのかもしれない。


「港町に行きたいのか? ならこの街から馬車が出ている、そこから向かうぞ」

「うん、了解。今後については馬車の中で話そうか」



 〇



 入口で暇そうにしていた御者を頼り、港町へと向かう。

 ここから港町へは約1時間30分といった所か、結構かかる。

 出発した馬車の荷台へ入ったマギアは『さて』と言い腰をかけ、今後について語る。


「どこからの説明がいい? この世界の事から?」

「どんだけ長話をする気だ。歴史は簡単でいい、それと次行く予定の場所だ」

「つれないなあ、まあいいけど。それじゃあ、この世界について簡単に説明しよう」


 マギアがしてくれたのは、この世界の構造と成り立った経緯だった。

 この世界は『ヴィートリヒ大陸』『ソーディリア大陸』『フィリミア大陸』『ハイドランド大陸』『チャクラム大陸』の5大陸で構成されている。

 かつて魔族の中で大きな内乱が起きた際、その戦いに残った5体の魔族が何時までたっても決着をつける事が出来なかった為、それぞれが魔王となり今の5大陸を作り上げたという。


 マギアは昔、魔術王として今いるこのヴィートリヒ大陸を支配していたという。封印されて力を失った今は、その面影すら見えないが。


「そして私達が今から向かうのはソーディリア大陸。そこに封印されている筈の魔剣王と呼ばれた魔王に会いにいく予定ね」

「魔剣王――名前からして、剣を使う魔王か?」

「うん、ボーッとしてるような子だけど、プライドは私以上に高いの。気に入らないならすぐ殺すし、気に入れば気分よく接する。まさに両極端な子」

「すぐ殺す……か」


 聞いている限りでは、暴虐な性格をした正統派魔王といった所だろうか。

 一番問題なのは、俺は魔剣王に気に入られるのか否かという所だろう。いられなかったら即死だ、礼儀をわきまえなければならない。


「安心しなよ。クラインには私がいるでしょ? 身の安全は保障すると言った、襲ってきたのなら、死なれないように私が護るだけだよ」

「それは助かる。一時封印で動きが止まるかもわからんからな」

「ハッキリ言って無理だと思う、あの子の持つ魔剣の力はどれも計り知れないし。一つ一つが怪物並みだ」


 あまり過度な期待はしない方がよさそうだな。

 今の俺にできる事は、魔王の封印解除成功と自分の命の安全を祈る事だけだ。


「ん、大体の説明は以上。質問ある?」

「……や、無いな」


 有るって言ったら機嫌を損ねるだろうし、あとは脳内補完で補う事にしよう。


「じゃあ私は寝るね。到着まで起こさないように」

「わかったわかった」


 話疲れたマギアは荷台の床へ横になり、寝息をたてる。その時の姿はもう魔王ではなく、どこにでもいる可愛らしい村娘のような感じがして、微笑ましく感じる。


(ずっとこうやって大人しくしてくれればいいんだがな)


 俺もマギアの寝顔を暫く観察した後、飽きたのかそのまま目を閉じ横になった。



 〇



「昨日も今日も快勝! しかもこれから再び王から直々に依頼を受ける。まさか、荷物が一つ減るだけでこんな変わるとはな」

「ええ、立ち回りやすくなったのも大きいですね」

「荷物を持つ役がいなくなったのは少し残念だがな」


 パーティリーダーであるファルスと魔術師のシリア、そして武術家のクレイの3人は王からの依頼を受けるために王城へと足を運んでいた。

 クラインがいなくなった事で、その後の依頼も順調に事が運んだ。


「おいおい、言ってやるなよ。荷物が多くなったら、適当な御者でも見つけて運んでもらうだけさ!」

「ま、それもそうか」


 この言葉をクラインが聞いたら激怒するだろうが、今はそんなの関係なかった。

 何故なら、もうクラインはこのパーティにいないのだから。


 〇


「――失礼します!」

「うむ、来たか」


 玉座の間へと到着、王の許可を確認した上で、静かに入室する。

 王は待ちわびていたと言わんばかりの表情をしていた、その顔を見てファルスは思わずニヤけ顔を漏らしそうになる。

 理由は単純、王に頼られているからだ。ファルスの立場になったら、誰でもそんな顔するだろう。


「幸せそうな顔をしているな。何かあったのか?」

「ええ、少し、ですね」

「そうか。――ん? もう一人の姿が見えぬようだが?」


 ファルスはギクリとした。

 前回王と会ったときはクラインも当然同席していた。

 いなくなった後の弁論なんて考えていなかったのだ。


「どうした? 何かあったか?」

「い、いえ、クラインはその、やるべき事を見つけたと言って、俺らのパーティを抜けてしまいましてね。有用な者だったばかりに、残念な気持ちですが」


 苦虫を噛みながら、一先ず嘘の告白をする。

 弱いから追放した、なんて絶対に言えなかったからだ。


「そうか。今日頼む依頼は、高度な封印も少しばかり必要だと思ったのだがな。いなくなったのならば、仕方あるまい」

「え? それはどういう」

「うむ。説明しよう」


 王は玉座からスクッと立ち上がり、一枚の紙をファルスに渡す。

 それは、兵士からの報告書であった。


 報告。

 王の勅命により、遺跡に施されていた封印を確認しに行った結果、先刻の夜、その遺跡が荒らされているのを確認した。

 宣言によれば、中には危険な魔物がいるとの事であった為、緊急事態と判断し、報告する。

 至急、対抗策を講じる事を推する。


 報告書にはそう書かれていた。


「これは?」

「禁足地、お前たちも立ち入った事のない場所だな。隠してはいたが、その奥には危険な魔物を封印していたのだ」

「成程」


 危険な魔物。

 どんな奴らかは知らないが、封印されていたならば、相当恐ろしい力を持っているのだろう。

 場合によっては、今の俺達でも倒せるか怪しいかもしれない。


「その封印が、今回何者かによって破壊されていたのを確認してな。意図的に禁足地に入ったか、それとも気づかずに立ち入ったかは定かではないが、見過ごせる案件ではないのは確かだ」


 王の話によれば、禁足地付近には看板こそ立っているが、余程の事がない限り立ち入らないであろう獣道等では、看板に気づかない可能性もあったとの事。

 今までそういう報告は上がっておらず、見つけても封印を解ける者はそういないと判断された為、余り対策は講じていなかったらしいが。


「そこで、だ。今回君たちには、禁足地を調査し、封印を解いた犯人を突き止めてもらいたい。可能ならば、解き放たれた魔物を見つけ、討伐もしくは封印をしてもらいたいのだ」

「討伐もしくは封印、ですか」

「封印はクラインがいれば良かったですが、いない物は仕方ありませんね」

「良し、そうと決まれば魔物は討伐。の前に、犯人の調査が先決か?」

「……いや、その必要はない」


 ファルスは何かを悟ったかの様に言うと、王に向かって宣言する。


「犯人の目途は立っております。すぐに捕らえ、王の前に連れてきましょう。魔物の方も、可能ならば討伐してみましょう」

「そうか! それは一体何者だ」


 フッとファルスは笑い、指を鳴らし、その名を告げる。


「……クラインですよ」

「何? 例の結界士か?」

「クラインが?」


 振り返り、仲間に告げ口をする。


「考えてもみろ。王が解除できる人は早々いないと言うような封印だ。んな事が出来て、今一番自由の身である奴は誰か」

「成程な」

「確かに、ああ見えて一応は高位の結界士ですものね」

「それに、ここでアイツを捕らえておけば、俺達も安心して仕事を続けられるという物だろう? 愉快極まりないじゃないか」

「はっ、良い事考えるじゃねぇか」

「異論ないですね」


 3人はクスッと笑う。

 先ほど王に『クラインは自ら去ってしまった』と言った。これほど罪を着させる事の出来る奴はいないだろう。

 それに、ここで捕まってくれたならば、俺達が嘘をついて隠す必要もない。そんな危険な魔物を解き放ったのならば、永遠な投獄か処刑は免れないだろう。

 それを見物できるのだ、愉快じゃないか。


「――楽しみだよ、クライン」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る