【短編】未来が視える占い師の少年が主に女の子を助け、ゆくゆくはハーレムを築いてしまうお話の、一人目。

春一

第1話

 芸術の街と呼ばれるアルティアに足を踏み入れた瞬間、僕ははっと息を飲んだ。街並みからして美しいと噂には聞いていたが、入り口の門を一歩抜けた先から、絵画を見ているような感覚になるとは思っていなかった。

 魂の抜けるような青空の下、石畳の大通りがまっすぐに伸び、その先には白亜の城がそびえ立つ。大通りの脇にも、意匠の凝らされた石造りの家々が立ち並んでいる。この景観に目を奪われる者は初の来訪者、それをどこか微笑ましそうに眺めて通り過ぎるのは、何度もこの街へやってきている者達だ。

 景観に見とれてしまったが、あまり立ち止まっているわけにもいかない。ここは人々が往来する主要な通路だ。気を取り直し、周りの景色を楽しみながらも、人にぶつからないように歩いていく。

 どこを切り取っていても、一枚の絵画として成立しそうな町並み。建物の外壁には神々や守護聖霊の彫刻が彫られ、街を一つの芸術作品としているかのようにも見える。

 また、大通りの脇では、芸術家達が己の作品を陳列している。おそらく一人分のスペースが決められているのだろう、等間隔に並んでお客さんを待っていた。ここにいるのは誰もが一流の芸術家なのか、どれも素晴らしい作品だ。

 先に進むと、裸婦を堂々と陳列している一角があり、思わず目を逸らした。僕の反応が可笑しかったのか、画家のおじさんにカカと笑われた。


「にーちゃんも一枚どうだい? お安くしておくよ」

「け、結構です!」


 僕は今年で十六歳。興味がないなんて言わないが、大通りで堂々とそんなものを購入できるほど肝は座っていない。

 ともあれ、この街は平穏で治安が良く、過ごしやすそうだ。もちろん、警備兵だって巡回しているから全く安全というわけでもないんだろうが、多くの人が争いよりも芸術を好む平和な街。

 集まる人の多くが芸術に携わっている。そんな中、僕はかなり異端な存在だろう。


「僕も頑張ろっと。占いを、だけど」


 僕は占い師であって、芸術家ではない。なのに何故ここに? とか訊かないでほしい。そんなに深い意味はない。単なる趣味である。

 春風が爽やかに吹き抜ける中、決意を新たに大通りを抜けつつ、まずは宿を探すのだった。

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