パイプ屋のクソ詰まらない話

佐賀砂 有信

1-1

 一台の軽トラックが、工業用地へと向かっていく。


「合ってんのか、道」

 門司は苛立たし気に言った。

 ハンドルを指で音を立てて叩く。たん、たん、たん。

 助手席の長谷川は何も答えない。ただ腕を組み、前だけを見つめている。

 たん、たん、たん。

「なあ、ほんとに合ってんのか、道」

「私が聞き間違えたと言いたいのか」

「電話は俺に回せっつてるだろ」

「舐めるな。もう慣れた」

「だからダメなんだよ。慣れたやつから失敗するんだ。この間だってそうじゃねえか。俺、危うく食い殺されるところだったぞ」

「大げさに騒ぐな。鳥が飛び出しただけだ」

「長谷川、あれは鳥じゃねえ」

「空を飛ぶ生き物は鳥だろう?」

「こっちの世界じゃあれは、人食い巨大トンボ、って言うんだ」

 門司が大きくハンドルを左に切る。

「やべ、パトカーだ」

「パトカー?」

「いま通り過ぎた白と黒の車だよ」

「あれは危険なのか」

「危険だね。特に、俺たちみたいな連中にとっては」

 点在する工場はいずれも静かで、廃業してだいぶ経っているようだ。

 門司は長谷川に問い直す。

「本当に依頼主はこの辺にいるのかよ」

「私は間違えない」

「なんだってこんなところ指定してくるんだ」

「おそらく何か、事情があるのだろうな」

 長谷川の返答を、門司は鼻で笑った。


「そりゃ事情はあるだろ。じゃなきゃ異世界に行きたがるもんか」


 ナビが到着を告げ、軽トラックは減速を始めた。

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