呪い呪われ人類賛歌

緑夏 創

賛美歌




「朝霧 刹華!」


 名を、呼ばれる。私の名を。

久しく聞いていなかった自分の名の響きは、とても新鮮だった。


「いい加減白状したらどうだ!」


 だが、このような暗く狭く埃臭い場所で、額に皺を波のように幾層も寄せた、そんな鬼のような怒りっ面の男性に名を呼ばれるとは、なんて私の人生はとつくづく呆れて笑いが零れてしまう。


「フッ……、何度も言った通りですよ、検察官さん……私は無実です……フフ」


「ふざけるな!貴様!」


 胸ぐらを掴まれる。ぐいと乱暴に引き寄せられ、机に身を乗り出すほど持ち上げられた。男は私にぐいと顔を寄せ、酷い剣幕で言った。


「いったい、いったい何人だ?何人殺したんだ!それで、それで!よくも笑い腐りやがって!」


正面から聞き遂げて、また私は笑った。男の生真面目な正義心が酷く面白かったのだ。すると私の嘲笑を受けて男は一言「殺してやる」と吐き捨てた。お次はご自身の立派な正義心からぶくぶくと沸いた我欲を突きつけられるのだ。

……ああ、もう何度、そのような感情の刃を向けられるのだろうか。これまで、そんな事は幾度とあったから、もう私の心には今更響く事は無く、それが人間、と。もう私は呆れ返るばかりだ。だが、不思議なことに頬は勝手に緊張し、自然と口元は引き吊られていくのだった。まるで別の意識がそこにあるかのように、感情に相反して歪んでゆく頬を擦りながら、私はため息混じりに一言こう吐き捨てた。


「あら怖い」


 その一言で男の沸点はあえなく臨界に達し、その目には殺意という淀んだ激情が目に見えて渦巻いていて、私の胸ぐらを掴んでいた手は最早正義やらとは遠い所にある純粋な情欲のまま一直線に首へと伸ばされた。そうして男は片手で私の細首を掴むと、獣のような咆哮と共に、空いたもう片方の腕を思い切り弓を引くように振りかぶった。


「ちょ、やめてください!」


 そこで、男の後ろに立っていた、助手なのか、後輩なのか、もう一人の若い男が、最早悪霊怨念の類いに憑かれたように荒れ狂った検察官の男を後ろから抱きつくように取り押さえた。だが、男は死に物狂いで、痛みも外聞も最早ご立派な尊厳も正義も何処吹く風といったように暴れ、若い男はただただみじめに吹き飛ばされるだけだった。そして検察官の男は再度私に食らいつこうとしたが、その瞬間、騒ぎを犬の如く嗅ぎ付けたのか、閉ざされていた扉が乱暴に開かれ、ぞろぞろと現れた数人の警察官が狂乱の検察官を無事取り押さえた。

 それでも、男は暴れ狂っていた。怒り狂ってタガが外れた獣のように、鼻息荒く、涎を垂らし、半ば白目を剥いて、各関節を固められていようがお構いなしに暴れ、ミシミシと、時折バツンと音が鳴らしながらも、怯みもせず、むしろその譫妄は壮絶を極め、そして更に私の口からはその惨憺なる様子を煽るように笑いが零れた。


「……いったい、お前!何をしたんだ!」


 そこで今度はこの暴れ狂う男の背後に立っていた若い男が私をまくし立てる。

 彼はこの男の後輩なのだろうか。その目には動揺と、そして憎しみのような、毒がゴポリと沸いたような、そんなドロドロとした情熱が宿っていた。


「……忌み子、呪いの女め!」


微笑みかけてやると、若い男は唇を噛みながらそう吐き捨てた。

 ああ、もう駄目だった。耐えきれなくなって、笑う。嗤う。虫けらのように軽蔑《わら》う。

 私はわらう、あざ笑う。

その呼び名は捜査中にでも知ったのだろうか。私はお前に何をしたというのか。それだと言うのに、どこかで聞き及んだその呼び名で私を呼び、奇異を蔑む瞳を向ける。その姿、行いは最早伝染病の類い、もしくはそれこそ呪いであるかのように私には思えた。やはり、どの場所、どの世界、どんなに矮小な籠の中でも、人は同じだった。。

心を突き刺すその現実を痛感し、そして結論を付けてしまうともう全てがどうでも良くなった。やはりどんな人間も、私に向ける物は同じであった。外見を罵り、行いを罵倒し、存在を否定し、そしてそれを脈々と共有して……。嗚呼……やはり人は人という悲しく、仕様もない現実を、この小さな部屋の中ですら目の当たりにして、私はとうとうやけが差してしまうのだった。


「……フフ。もう、いいでしょう。話しましょう。話しますとも」


 誘蛾灯に集まる哀れな蛾のように、男達の視線は私に集結していく。

 その視線を一身に享受しながら、両手を広げて、宣う。馬鹿みたいに高慢に。


「この忌まれ尽くされた私の、身の上話を」


 そしてほくそ笑むのだ。




 ええ、産まれ堕ちた、その時からもう私の呪われた人生は始まっていたのです。

 私は、少なくても母の腹の中で蠢いている間だけは、両親から愛を注がれていたのでしょう。ええ、だからこそこのような「朝霧 刹華」という素晴らしい名を頂いていますし、それは正真正銘、真心からくる無償の愛情だったのでしょう。嗚呼、私の最初で最後の幸福。

産まれるのを心待ちにされ、名を考えられ、守られて、そしてその日はやってきます。

 母の下半身から吐き出された私の髪は、血に濡れながらも現在こののように真白で、頭頂部にだけは微かに黒毛がちらほらと生えていただけの姿だったと言います。微かに開いた目の瞳孔は赤く、そして本来高らかに響き渡る筈の産声も無い、涙一滴も流さずその場の皆々を舐め回すように見て回る、そんな私という奇々怪々な赤子の堕胎に立ち会った看護婦は小さく悲鳴をあげ、助産師のお婆さんも目を丸くしたそうな。それから暫くして、看護婦は首を吊って死に、助産師はバイクに轢き殺されたらしい。ええ、これらはすべて母から聞きました。母は何か鬱憤が胸の内に少しでも溜まり、燻るとすぐに私を攻撃するのでした。肉体的にも、精神的にも。そんな母の得意技は、私と関わって死んだ人達の名を一つ一つあげる事でした。

 例えば、ご近所の神谷さんは私と目が合ったせいで目がつぶれたとか。また歳が近くて仲が良かった男の子のゆうま君は私と手を繋いだせいで右手がちぎれて苦しんだ、だとか。

 そういう話をいくつもいくつも聞かせては私の幼い心を追い詰め、串刺し、引き裂いて、その後直接腹を蹴り飛ばしては「忌み子!忌み子!」と罵るのでした。私は終ぞ両親からは本当の名前を呼んで貰えませんでしたが、今日、そこで呻いている検察官のおじさんは、私を本当の名で呼んでくれました。ええ、貴方とは違って。フフフ、だから私、とっても嬉しいのです。ですから、ほら、口がぺらぺらと回って止まりません。

 フフフ、私、両親からお前の口からは呪詛しか生まれないなら喋るなと言われてきたので。それに私も私の意思から口を噤んできたので。ええ、ええ、まさか私、こんなに饒舌だっただなんて。思いもしませんでした。アア、ハハ、脳でこれまで無数に紡いでは捨ててきた言語群。それをそのままそっくり口から吐き出せるって気持ちが良い……。

 ……ああ、話が逸れてしまいましたね。それで、母からは忌み子と呼ばれ、暴力を振るわれてきたのですが、当然父だけ優しいと言うことはありませんでした。まぁ、私が素晴らしい父を持っていたなら、こんな風に育ってはいませんし……フフフ。

 ふふ、そんな素晴らしくない父は特に私の特異な見た目を気にしたような……。私たち家族は狭く辺鄙な、未だに村と名がつくような所に住んでいましたので、噂という噂は一度生まれれば村中満遍なく行き渡り、私の奇々怪々な風貌も、私に付随してくる呪いも、忌み子という母が名付けた呼び名も、全て村人らで共有され、密かに、とは形容しきれないほどに大っぴらに私は蔑まれ、その蔑みの目は母にも、そして神経質な父にも当然向けられました。その事を父は目から血涙を流すのではと思う程に深刻に捉え、気にして、蝕まれて、父はやけ酒と共に私を出来損ないと踏みつけ、髪をちぎり、投げ飛ばし、そして「死ね!死ね!」と怒鳴り続けるのでした。

 ですが、そんな阿鼻叫喚の地獄も無間に続く事はなく、それは思いもよらぬ突飛な最後を迎えるのでした。

 フフ、今も脳裏には血糊のようにべったりと貼りついていますよ。フフ……、六歳の頃です。母はその日も私に呪われたらしき人物達の名を繰り返しては忌み子と罵り嫌悪の目を向け、父はその日もやけ酒に潰れて、涙と罵倒を共に私に暴力を振るっていました。たった一つ、違ったのは、その日父は本当に私を殺すつもりだったのかは知りませんが、固く重い灰皿で私の頭を殴ったのです。泣きながらにやけ面で「気持ち悪い、髪も目も」と吐き捨てられたのは今でも鮮明に覚えています。私の頭からは血がどろどろと流れ出し、白い髪は傷口から吹き出た鮮血で真っ赤に染まっていました。

 幼い私は、当然、本能的に死を回避しようとしますから、願いましたよ。父も母ももう要らない。消えてしまえ、死んでしまえ!……と。

 そうしたら、フフ、まさかまさか!

 父と母は、灰皿と包丁で以て互いに殺し合うではありませんか!頭を割られても母は包丁で父を刺し続け、胸を串刺されても父は先程の灰皿で母を殴り続けました。辺りには血と肉片と脳髄が四方八方に飛び散り、決定的に命が砕けた嫌な音が部屋に響くと母は先に意味不明な怪声を放ちながら倒れて、続いて父も倒れた母から奪い取った包丁で首を滅茶苦茶に刺し続けて、最期は私の視界も赤黒く染め上げて死に絶えました。

 エエ、エエ、フフフ、エヘァ

 ……あはぁ……フフ、……それだけは、それだけは昨日の事のように脳裏に、この赤目に焼き付いているんです。

 そうして、父と母は阿鼻叫喚地獄の閉幕に相応しく、辺りを血に染めて華々しく死にました。その時は流石に自分を疑いましたよ。私って、本当に呪いなんじゃないかって、父や母の言う通りなんじゃないかって……。

 いやいや、でもそんな事……、ある筈が……。

 なんて私は片付けて、そしてヘコヘコとまた次の地獄へ赴くのです。いえ、次の地獄を造りに行ったのでしょうか……。

 ええ、ええ、こちらに詳しく書かれている経歴通り、私はその事件から間もなく、辺境に建った孤児院に引き取られました。

 そこで、私は初めて沢山の子供達を見ました。暮らしていた村には子供なんて殆ど居ませんでしたし、私と同じくらいの背丈の子供は、ゆうま君以外には初めて見ましたので、すごく新鮮な気持ちに包まれて心が躍りました。

 ですが、やはりそこも地獄となりました。私はやはり呪われた忌み子なのだろうと、そこでようやく理解出来たのですから。父も母も、やはりどこまで逝っても親は親で、やはり子を分からない親などは居ないのでしょう。あの人達は何も間違ってはいなかったと私はそこでやっと気づくのです……。

 孤児院に来た次の日、私は他の子供達から歓迎会という小さなパーティに誘われました。呼ばれて入ったその部屋にはたくさんのお菓子が並べられていて、私は拍手と共に迎え入れられたのを覚えています。誰も私の髪を蔑まず、目を恐れず、いや恐れて、心の中では蔑んでいたのかも知れませんが、それでもこんな奇々怪々な風貌と経歴を持つ私を何も言わず受け入れてくれました。そんな皆のにこやかな会話に耳を傾けて、私はお菓子を少しつまんでいました。思えば、殆ど初めてお菓子を食べたので、私は一つ口から漏らしてしまったのです。お前の口からは呪詛しか生まれないという亡き両親の教えがあってなお……、おいしい……と。ぽつり、一つの雨粒のようなその一言です。

 そうしたら、また、目の前は地獄に変わりました。互いに噛み付き合って、無邪気に皮膚を喰い破り合う子供達を、貴方達は想像できますかね。ンフヒヒ、それはそれはもうどうしようもない地獄。喰い合って互いの頬を血肉で染めて狂笑わらい合う子供達を眺めて、また制止に入っては逆に群がられ生きたまま食われていく孤児院の先生を眺めて、その時やっと私は忌み子、呪いとしての自覚を得たのです。

 惨劇の後、私は私として生きる、という事を頑なに拒否して、口を噤み、そして何でもない、私ではない誰かとして、ひっそりと生きる事を心に決めました。

……誰も傷付けたくない。あれらの事件の後、私は何もわからぬまま、ただ正しくありたいと願う子供心のまま生きてきたのです。一身に、化け物として人間達の暴力と蔑みと罵倒嘲笑塵芥を浴びて。

 ですがそれは当然の報いだと思って、受け入れていました。私は数多くの人を間接的に傷付け、そして殺してきたのですから。

人を呪わば穴二つ。報い、そのように捉えて、あわよくば私は私でないまま誰かに殺される事さえ祈っていました。

 ですが、ついこの間の事です。

 およそ十年振りに、ゆうま君と再会したのです。

 いや、向こうが私を探し出して、強引に会いに来た、と言うのが正確でしょうか。

 ゆうま君は母の言った通り、本当に右腕がありませんでした。それでもゆうま君は私に笑いかけて、久しぶりと言ってくれました。

 私は言葉を返す事が出来ませんでした。久しぶり、そう返すだけでゆうま君は死んでしまうかも知れません。目を合わせる事もできません。彼の目はたちまち抉れ取れてしまうかもしれません。残った彼の温もりある左腕に触れる事など……、到底、できません。

「これまでずっと、辛い事があったんだね」

 ですが彼はしどろもどろする私を見てそう言いました。廃れた私の心を優しく、包み込むように……。

「でも、僕が迎えに来たから。約束したよね、大きくなったら結婚しようって」

 唐突でしたからしばらく話を飲み込めませんでしたが、それを言われた事で、その時私は思い出しました。

 ゆうま君に触れたのは、それは彼と指切りをしたからだって言うこと。

 そして、幼い子供らしく将来などどのような物か皆目見当もつかないのに将来を見据えて「結婚しよう」って約束をした事。

 彼はその軽い軽い約束の為、しかも指切りをして誓い合った右腕を失ってもなお、私に会いに来てくれたのです。

 私、嬉しくて涙を流しました。涙を流す、ということは生まれて以来、初めての事でした。血色の瞳からも透明な涙が流れ出るというその喜びは、誰にも分からないのでしょうね。

 私は自分の事をどうしようもない馬鹿だと自虐しながらも、それでも彼の事を忘れずずっと想い続けていましたから。それはそれは、本当に嬉しかった。この忌まれ尽くした人生ですが、それでも産まれてきて良かったって思うくらい……。

 私、彼に全て話しました。

 両親との事、孤児院での事、そして常に蔑まれ虐げられてきた忌み子としての人生を。

 そして、幼心の傷心を引きずって自身を徹底的に抑圧する事で自分以外誰も傷つけないという処世術ぎぜんまで……。

 彼は言いました。私をぎゅっと抱き締めて、頭を優しく撫でながら、諭すように言いました。

「これまで我慢してきた分、これからは自分の思うままに生きてみよう。君は呪いなんかじゃないし、忌み子でも無い。大丈夫、これから君は誰も傷付けないし、傷つけさせない。僕が居るから」

 一言一句全て記憶しています。ゆうま君の優しく、私の幸せを願い、そして約束する強い言葉。

 思うままに生きてみる。

 その実践に、私はまず……彼を私のものにしました《殺しました》。

 誓いを立てた腕を失ってなお、それを果たす為に生き続けて、そして迎えに来てくれた彼に、私に産まれてきて良かったって思わせてくれた、涙を流させてくれた愛しい彼にどうにか酬いる為、私は……ゆうま君を……。

 ……ンフフ、ケヒッ、ヒヘヘヘヘヘ!

ええ、そうです。貴方方の懸命な捜査通り、私が犯人です。

 ええ、ええ、殺しました。ゆうま君だけじゃない。他にもたくさん、たくさん殺しました。ここいらの殺人、全て犯人は私です。ええ、だって、そいつらは何年も私の髪を笑い、私の目を恐れ、そして私という人間を蔑むのですから。

人を呪わば穴二つ。ええ、親も他人も関係無く、無垢な子供も穢れた大人も区別無く、際限なく、最早私を少なからず受け入れてくれた人まで、全て全て私を見た者、知った者、いや人間なら全て思うがままに殺し尽してやるつもりでした。なぜなら人間とはすなわち私を呪う者達ですから!

 ……ですが、ええ、この通り捕まってしまいましたし、更には全て余すところなく白状してしまいましたし、これではもう、私に弁解の余地はありませんね。ああ、こんな暗くてむさ苦しい所で死ぬまで生きるなんて、ほんとつくづく私の人生は……結局自他に抑圧されるだけの……。

……はい? 「早く死んでしまえ」?

 ……キヒィァハハハ!

 エエ、聞き飽きていますよ。そのような言葉。

 ……はぁ、話し疲れてしまいました。でも、こんなに話したのは初めて。フフ、思い切り話すって、気持ちいい事なんですね。

 ヒヒッ、気持ち悪いといった顔をしていますね。

 ウフフ、ンフフフフ……、だけど私、今とっても愉しい!


 ……フヒヒヒヒヒヒヒヒ!


 そして、朝霧 刹華は花を散らすように笑った。高らかな狂笑は狭く明かりも射さない部屋に響き、だが、その中に一つ紛れも無く奇妙な異音が混ざった。

 何か、丈夫な厚紙が凄まじい膂力で無理やりに食い破られるような……。

 朝霧 刹華は違和感のまま自身のその呪われた血色の目の下をさすると、ぬるりと生暖かい温もりを、初めての目交い《さつがい》の時の、あの感触に似たものを感じて……、


「……ああ」


 そうして自身の指にべっとりと塗られた血を見て、朝霧 刹華は先程の違和の正体を察した。

 忌み子の一部を口に咥えた若い男は、無邪気な、または狂人と称されるような満面の笑みを象った。

 また朝霧 刹華の周りには、先程まで検察官の男を取り押さえていた警察官数人が、そしてその検察官の男も、フラフラと覚束無い様子で立っては何か地獄の底を思わせる低い呻きを涎と共に漏らしていた。

 そして嬉々としてこれからの顛末を受け入れては熱い吐息を漏らして、そして朝霧 刹華は悦に浸った。




 ……アッ……。


 女の甘く囁かな嬌声が聞こえた気がして、何事か!……と。

 扉の外で番をしていた新人の警官はウサギのように肩を跳ねさせては上官の許しも得ず、興味本位のままそろりと扉を開けた。

 まさかまさか、そんな漫画や映像作品のような、夢のような光景がそこにあるのだろうか、と。

 だが男が見たもの。それは夥しい血液に彩られた部屋の中央に伏し、狂声をあげながら、獣達に貪られる赤黒い肉塊だった。


男を見て、肉塊はわらった。






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