誓い

 赤、青、緑、茶色と目まぐるしく4色が入り乱れる。アズリバードの猛攻に、反撃どころか避けたり受け止めたりすることすらも満足にできていない。それに自分が下手に動けば、周りに倒れている仲間やメリア達にアズリバードの容赦ない魔法攻撃があたる。今貴帆にとっての敵は、アズリバードだけだった。


 顔くらいの大きさの石つぶてがバラバラと飛んできた。それを右左上下と避け、少し前へと足を踏み出す。その途端、


「策も力もないのに前へ出るなんて愚かですね!」


 とアズリバードが嘲った。その頭上には今まで見たことの無いような大きさの真っ黒い球が膨れていた。一目でレッタが使ったものと同じだと悟る。


「彼女のお返し、死に損ないの貴方にまとめてぶつけて差し上げます!」


 さっき倒れている仲間やメリア達を見た時の絶望感と喪失感がぶり返した。身体中が強ばり、腕や膝が震える。みんなが受けたあの魔法が凝縮されたものを、自分なんかが受けたら結果は見えている。即死だ。


 何かしらの主人公はきっとここでかっこよく敵を仕留める。こんな才能もない強くもない、主人公なんてものから程遠い自分が図々しく生き残ってしまった。そんなキラキラした主人公にはなれない。多少の剣術を身につけただけで、雨虹やナオ、レッタに頼りきりの以前と貴帆は何ら変わっていなかった。──結局、弱いのだ。


「死んでください!!!」


 罪悪感とアズリバードへの憎しみから逃げるように、ぎゅっと目を瞑った。


「貴帆様に死を命令するなど許されるとお思いですか?」


 爽やかな風がほのかに鼻先をかすめ、聞き慣れた声が響いた。目を開けると、大きなどす黒い球を雨虹が暗器2本で受け止めている。ミシミシと暗器の軋む音がしつつもそのまま振り払うと、空気に溶け込むように消えた。


「雨虹さん……」


 呆然としながら呟くと、雨虹は汚れた服をはたいてから貴帆に頭を下げた。


「申し訳ございません。レッタさんのあの魔法、急所を外すので精一杯でして」


「私を守ってくれて……ありがとう」


 安心したからかじんわりと涙が浮かんできて、慌てて俯く。雨虹は近づいてきて、腰を抜かしている貴帆を立ち上がらせた。


「貴帆様を守ることは、私の使命ですから。私の身がどうなろうと、いつどんな時でも2人のたかほ様の盾となります」


 相変わらずの微笑みで、その優しさが至る所から身に染みた。寂しさや不安、喪失感と言った言葉にし難い数々のネガティブな要素が拭われた。


「面倒な死に損ないが2人に増えましたね」


 忌々しそうな声で、アズリバードが言った。貴帆と雨虹はそちらを向いて、武器を構える。


「雨虹さんなんて壁際でへたばってればいいものを。そんなボロボロの体で、勝率があるとは思えませんが。それかあなたが反吐が出るような忠誠を誓っている弱い貴帆さんに倒させるとでも?」


 すると雨虹がアズリバードに目もくれず暗器を投げた。それはアズリバードの耳をかすめ、地面に突き刺さる。


「腐り切ったあなたに私の忠誠心を語る資格なんてない。私はタカホ様から授かった神器の1つ、『ソニックヴィソマライザー』を手に守るべきものを守るのです。黙って私の暗器の糧になりなさい」


 いつもの笑顔が消え失せた雨虹の顔が、アズリバードと真剣に対峙していた。貴帆もしっかりとアズリバードを見据えて言う。


「弱い私が偉そうに言えないけど、仲間を仲間とも思わないようなあなただけは許さない。あなたはここで倒す!」


 貴帆と雨虹はそれぞれの武器を手に、アズリバードめがけて駆け出した。

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