イースタホース
リナートスから半日と少し。
モーントシュタインから臨むその領の夜景は宝石箱の中のようにキラキラ光っていた。
イースタホース領はウルイケ領から東にあり、魔王を中心として拡大し、今も尚栄華を誇る長い歴史を持つ街らしい。
今の魔王は101代目。大昔、数々の大戦争で倒れた者もいたそうだが、魔王一族は今もしっかりと血を繋いでいる。
そんな魔王の住処、イースタホースの中心街に降り立った貴帆達はナオボルトがよく使うという宿に立ち寄ることにした。
街を歩いていると賑やかで平和そうで、魔王が支配しているとは思えない綺麗な土地である。イメージとはかけ離れた街の様子に、貴帆は肩透かしをくらった気分だ。
ちょうど中心部の明かりが途切れる町外れまでやってきた。ナオボルトはこの先だと自慢げに先導して歩く。
「お前らがツヴィリングの一行だな」
突然不気味なガラガラ声が背後で響き、冷たく尖ったものが背中に触れた。
貴帆は体を固くする。横目で雨虹とナオボルトを見ると、彼らも大人しく突っ立っていた。
背後では何人も動く音がする。相手は軽く数十人いるだろう。
すると1人の男が目の前に出てきた。薄汚い格好で手には金棒を持っている。暗い裏道のため、顔はよく見えないがここらの破落戸だろうか。
その男が金棒を振り回しながら言う。
「丁度いいところにお出ましだな」
「何か御用ですか?」
雨虹が微動だにせず柔らかい物腰で問いかける。男はふんと鼻で笑ってから
「ああ、御用だ。お前らの命は高いからな。身ぐるみ合わせりゃ大儲けだ」
と口角を持ち上げるのが暗闇の中でわかる。
「大人しく俺らの金になるんだな」
貴帆が反論しようと口を開く。だがそれよりも先に雨虹が穏やかに笑った。
「それは無理ですね」
「はあ?なめてんのか。この召使い風情……がはっ」
男が倒れた。
うつ伏せの姿勢で首から血が広がっている。うなじがぱっくりと切れていた。
そんな男を、いつの間にか雨虹が男を挟んだ向こう側で見下ろしていた。その手の甲にはジグザグの刃が覆いかぶさっている。それは袖から拳2、3個分伸びていて、白刃を染める血が滴っていた。
「雨虹さん……?」
貴帆が震える声で呼ぶと、雨虹は暗器についた血を素早くきってから「はい」と返事をした。
「これはどういう……」
「その説明は後ほど。まずはこいつらを始末致しますので」
そう言った次の瞬間。ひゅっと頬をかすめるようにして、貴帆とナオボルト各々の後ろにいた破落戸達の額へと雨虹の暗器が突き刺さる。
明らかに素人の動きではなかった。出発前に「腕が立つ方でない」と言って微笑んでいた雨虹は、白昼夢か何かだったのか。両手の暗器はいつも通りの笑顔の彼をも凌駕する存在感を放っている。
自由になったナオボルトは振り返って背中から大剣を抜き、貴帆を自分の背中に押しやった。気が動転している貴帆を守ろうとしているのだろう。
ナオボルトは大剣を構えて自信満々な笑みを浮かべる。
「この俺様を敵にしたこと、後悔させてやるよ!」
雨虹もそのナオボルトの隣に並び立ち、和やかに微笑んだ。
「貴帆様に触れたこと、ただでは許されませんよ。覚悟してくださいね」
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