第70話 受付け

「グラドール様にルネラード様。それにドロテア様ですか?」


 受付の女の人が私達の出した書類を見て目を見開いた。


「そうですわ。それが何か?」

「い、いえ。クランでの試験をご希望とのことでしたが、六名で一クランということでよろしいのでしょうか?」

「いいえ。三人ずつで二つのクランですわ」

「こっちの三人と、そっちの三人ね」


 みんなで詰め寄っても邪魔になるだろうし、私とレオ君はアリリアナさんの後ろに、ドルドさんとロロルドさんはイリーナさんの後ろに控えてる。


「了解いたしました。それではこちらにクランのメンバーと代表者のお名前をご記入ください。それとクラン名がギルドに登録されるのはB級からとなっておりますので、その点ご理解の程何卒宜しくお願いいたします」

「なんでわざわざクラン名について断りを入れるんだろうね」


 受付の人に聞こえないよう、隣のレオ君にこっそりと聞いてみる。


「多分クラン名を考えてから来る冒険者志望が多いからじゃないのか?」

「? 何でそんなことするの?」

「何でって、クランの名前が冒険者の華だからじゃないか? ほら『戦乙女』とか『冒険の空』とか」


 とかって言われても全然分からない。ひょっとして今の名前って冒険者を目指すなら知っておかないといけないくらい有名な人達なのかな?


「他には『魔導の探求者』とかが有名だよな」

「あっ、そのクランって、ガロウダさんがリーダーをやってるところだよね」


 十賢者。この大陸で最も優れた魔法使い十人に贈られる称号で、お父様が密かに狙ってたりする。


「ガロウダさんの石化解呪魔法の論文、凄かったよな」

「うん。あの魔法のおかげで石化からの生存率が三割から七割に跳ね上がったんだから、ガロウダさんは間違いなくここ百年で最高の魔法使いの一人だよ」

「書類もらってきたよ~。って、何々? 何か盛り上がってない?」

「ガロウダさんの話をしてたの」

「ガロウダって『魔導の探求者』の? 確かに凄い感じの人だよね~。私の推しはアロスさんだけど、ガロウダさんが後三十年若ければ話は違ったかもしれないわ」


 アロスさん? 聞いたことがあるような、ないような……。


「確かにお前は『冒険の空』とか合いそうだよな」

「でしょ? あっ、それよりもこの紙に代表者の名前を記入するらしいんだけど、どうする? 誰かやってみたい感じの人いる? はい、いたら挙手」 

「いや、そこは普通に考えてアリリアナだろ」

「え? ドロシーさんじゃなくて? 代表者ってことはクランのリーダーってことでしょ。自慢じゃないけど私は魔法使いとしてドロシーさんの足元にも及ばない自信があるんだけど」

「わ、私には無理だよリーダーなんて。それに私なんかよりもアリリアナさんの方が全然すごいと思うし」


 学校の成績は確かに私の方が良かったけど、人間力とかカリスマ性とか、そういった人を惹きつける力は絶対にアリリアナさんの方が上だと思う。


「アリリアナさんがやるべきだよ」

「二対一だな」

「ふ~ん。なら……オッケ~! 私がやるわ。てなわけで今日から私達はアリリアナ組よ。私のことは組長と呼ぶように」


 組長って何だか冒険者っぽくないかも。


「馬鹿なこと言ってないで書類を貸せよ。提出してきてやる」

「お~、レオ君はいい子だね。でも、いいの。これはリーダーの仕事だから。ってなわけでちょっと提出してくるからお二人さんはこれでも読んでて」


 アリリアナさんが渡してきたのは今日行われる試験の日程表だった。


「午前に筆記試験で午後から実技試験。……うう、緊張する。試験、どんな内容なんだろね」

「ドロシーさんならどんな内容でも大丈夫だって」

「そうかな?」

「ああ、間違いないぜ。だから自信持てよ」

「う、うん。ありがとう」


 皆そう言うけど有名な冒険者の名前を十個以上記入しなさいとか、そんな傾向の問題が出たら解ける気が全然しない。ああ、テスト当日になって試験の傾向を完全に間違えてたのに気付いたようなこの絶望感。こんなことなら寝ずに勉強しておくんだった。


「アリリアナもあれで優秀だし、むしろ俺が一番やばいな」

「え? レオ君こそ絶対大丈夫だよ」


 私よりも冒険者のことについて詳しいし、いざと言う時にすごく頼りになるし。レオ君が落ちる所は全然想像できない。


「筆記試験はそこそこ自信あるんだが、実技試験がなぁ。こんなことならもっと実戦系の授業も受けとくんだった」

「でもウチのガーディアン倒したんだよね?」

「あれは俺の力じゃなくてこいつの力だから」


 レオ君が背負っている紅い剣。と言っても柄の部分も含めて今は何故か包帯でグルグル巻きにされてるから白い塊みたいになっちゃってるけど。


「えっと、それ、どうしたの?」

「ああ。危ないんで人が簡単に触れないように縛っておいた。ギルドが安全って分かってたのにこんな物騒な物持って来るなんて、俺って奴は」


 炎のように紅い髪をクシャクシャと掻きむしるレオ君。よく分からないけど、あの剣を持って来たことを後悔してるみたい。……何でだろ? やっぱり緊張しててナイーブになってるのかな? しっかりしててもレオ君は年下なんだし、ここは私が年上らしいことをしなくちゃ。


「だ、大丈夫だよ。剣なんか使わなくてもレオ君は十分強いし。それにもしもの時は私がカバーするから」


 クラン試験なんだからもしもレオ君が実技の試験悪くても私が頑張ればきっと合格できるはず。……自信ないけど。


「ドロシーさん。……いや、むしろ俺は試験ぶっちぎるつもりなんで、ドロシーさんは手を抜くくらいで十分だぜ」

「ええっ!?」


 さっきと言ってることが全然違う。どうしてだろ? でもせっかくやる気になってるんだから余計なことは言わない方がいいよね。


「え、えっと。うん。頑張ってね」

「おう」


 レオ君の顔がすっかりとやる気に満ち満ちたモノに変わる。


 ……男の子ってちょっと分かんないかも。


 なんて考えてたら書類を提出してきたアリリアナさんが戻ってきた。

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