第12話 柊アリサ7

 マリアの背中に抱きつきながら、下に広がる景色を眺めた。


 建物が後ろに流れていく。様々な色の家の屋根が、ビルが、学校や病院が、小さなミニチュアのように見えている。


 二人を乗せた箒は、ビルや民家の屋根よりはるか高くを、自転車くらいのスピードで進んでいた。本当ならもっとスピードが出るらしいが、今は速く進むことが目的ではない。


 魔力探知機の指す方向へ向けて、マリアは舵を取る。時折針が動き、その度に進路を変更していく。


 しばらくは、マリアが飛ぶのに任せながら、空を飛ぶ感覚を味わった。箒で飛ぶのは二回目だが、一度目は驚きでほとんど何が起こったのか覚えていなかった。こうして落ち着いて眼前の景色を眺めてみると、空を飛ぶのは大変清々しく気持ちの良い事だった。それを言うとマリアは、


「わたしも、空を飛ぶのは結構好きです」


 と嬉しそうに言った。


 不思議なことに、空を飛んでいるにもかかわらず寒さも風もあまり感じない。どうしてと尋ねると、マリアは答えた。


「そういう魔法ですから」

「便利な言葉ねえ」

「箒に触れる……というより、箒の周囲に特別な魔法がかけられているんです。その範囲に体が触れてさえいれば、飛ぶ時に感じる寒さや風から身を守ってくれて、それにバランスもとってくれるんです。ほら、細い柄の上に乗ってても、全然落っこちないでしょう」

「そういえば、そうね」

「でも、気をつけてくださいね。箒の周囲に体が触れてさえいれば大丈夫ですけど、箒から離れたらあっという間に真っ逆さまですから」

「分かったわ」


 そんな話をしながらしばらく飛んでいると、


「……あれ?」


 ふとマリアが怪訝な声を上げて、箒を止めた。箒に乗ったアリサ達は宙にぽつんと浮かぶ。


「どうしたの?」


 マリアは魔力探知機を見ていた。後ろから覗き込むと、針がアリサ達の後ろを指している。通り過ぎたということだ。


「いつの間にか変わってました。近くに反応があるっていうことです」

「ほんと? 思ったより早く見つかったわね」

「まだ怪盗がいるって決まったわけじゃありませんけど……。とにかく行ってみましょう」

「ええ」


 アリサは気を引き締める。マリアが反対方向に舵を取り、高度を下げていく。顔に当たる風がさっきよりも少しだけ冷たい感じがした。

 

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