54、貧民街
私は向かっていた。
失踪したと思われる黒澤灰妹の住んでいた場所ーー貧民街。
そこは行き場を失った人々が暮らす場所。
懐かしいその場所へ足を進め、変わらない街の人々を私は懐かしく見回っていた。
そんな中、私と同じ大きさほどの一人の少女が私のもとへ駆け寄ってきた。
「かんな、久し振りだね」
橙色の髪、そこに目立つようにつけられた赤色の髪止め。それは私が貧民街でできた友達にプレゼントしたものであった。
私はそれだけで彼女が誰なのか理解できた。
「ほのか。久し振り」
彼女はここ貧民街で出会った私の友達だ。
「ねえかんな。何で久し振りに戻ってきたの?」
「ほのか、今もまだ真教会ってあるのか?」
「うん。あるよ。真教会に用事があるなら今は辞めといた方が良いよ。この前教祖が消息を絶ってからかなりピリピリしてるから」
「私はその件で話があるんだ」
「その件って……」
「じゃあちょっと行ってくる」
私は真教会へと向かった。
もっと昔の友達との会話に花を咲かせたいとは思っていたが、今は事件の捜査中。残念ながらそんな暇はなかった。
何年かぶりの真教会。
貧民街にある建造物の中で圧倒的な大きさを誇る建物、それが真教会の教会。
そこで一人の男は歩きながら聖典を手にし、そこに書かれている内容を読んでいた。それらを真摯に聞いているのは並べられた長椅子に座る百名ほどの信者たち。
「なるほど。儀式の最中か」
かんなは扉を閉め、外でしばらく待っていた。
じきに内側から扉が開き、そこから信者たちが続々と出ていく。その後、中には男一人となったところへかんなは入る。
「お久し振りです。
「ん?かんなじゃないか。どうして久々に戻ってきたんだ?」
「黒澤灰妹さん。彼女に関する噂を耳にしまして」
安城という男はため息を吐き、長椅子に腰かけて話し始める。
「察しの通り、黒澤灰妹は現在行方不明。それにより現在は司教であった俺が教祖の代わりを務めることになったんだがな、想像以上にしんどいな。この仕事は」
安城はかなり疲労が溜まっていたのか、目の下にはクマができ、顔つきからも疲れは感じ取れた。
「これはある人物からの情報なのですが、黒澤灰妹の家族が殺され、その犯人は病ンデレラという人物であることが発覚しました」
「なるほど。家族が殺されたらしばらく姿もくらますよな……」
「はい。ですが黒澤さんは強い方です。だからきっとどこかで生きています」
「ああ。確かにあの人はいつも笑っていた……けど、大切な人を失う痛みはそう簡単には乗り越えられない」
「だから提案です。病ンデレラ、彼女を捕まえましょう。そうすればきっと、黒澤さんは戻ってきてくれますから」
「そんな簡単な話か?病ンデレラは神出鬼没」
「いえ。病ンデレラは最初に起きた事件である暗号を残しています。それがこれです」
かんなは切り取った新聞の記事の写真を安城へと見せた。
そこにはとある絵が描かれていた。
そこには四人の男が円形に座っている絵が描かれ、右に座っている汚れた服を着ている女性が前方真ん中に座っている札束を持っている少年へ2、と書かれたカードを渡している。
そして服も着ていない左端の少女が後方真ん中に座っている王冠を被っている男へ1と書かれたカードを二枚差し出している。
そして右端に書かれた女性にのみ丸が書かれている。他の三人にはバツマークが書かれているのに。
「この絵が、暗号だというのか」
「はい」
「これから何が分かる?こんな絵じゃ何も分かるはずないだろ」
「いえ。ここから次に病ンデレラが狙う場所が分かるんです」
「それはどこだ?」
かんなは数秒間を空け、そして誰にも聞かれていないことを周囲を見て理解した。
かんなは安城に聞こえる程度の大きさで言った。
「それはここ、貧民街」
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