46、傀儡のイツワール
殺害されたのは国塚洋平という人物であった。
死因を調べたところ、トランペットの口をつける部分からは何やら異様な臭いがしていた。
「毒か」
「間違いないだろうな。この男の死因はトランペットの練習をしようと吹いた時、毒を舐めて死んだか」
異世界探偵と音楽探偵は、遺体の状況や周囲の環境などからそう推理した。
「音楽探偵、なぜ事件があったこの場所に彼女がいるんだ?」
「事件当初、彼らがどこで何をしていたかを訊こうとしていたんだよ。だから一時間前、それぞれ別々の部屋に彼らを案内していた。だが残念ながら、殺人事件は起きてしまった」
「なぜ別々の部屋に?」
「そんなの決まっているでしょ。最初から犯人はあの五人の誰かだと分かっていたから」
五人。
それは恐らくこの音楽祭を開くに当たった文月や国塚たちのことを言っているのだろう。
「なぜ五人の誰かが犯人だと?」
「さあ。それは教えられないな」
音楽探偵は何かを隠しているようだった。
「一応お前も情報は知っておきたいだろ。だったら私の代わりに訊いてきてくれ。事件が起きたであろう今より一時間以内に何をしていたか?」
「分かった」
異世界探偵はかんなを連れ、残る三人の調査を始めた。
一人目は伊達俊太。
彼は部屋に備え付けられていた椅子に座り、優雅にもギターを奏でていた。しかもかなりの爆音だ。
「伊達さん、お伺いしたい話があります」
異世界探偵の声はギターに掻き消されているのか、声は伊達には届かなかった。
耳を塞ぎながら伊達の耳元まで近づき、再度大声で言った。
「伊達さん、お伺いしたいことがあります」
「どうせ昨日の事件のことだろ。俺は一度もあいつのヴァイオリンには手を出していないし、殺す動機もないんだよ」
「いえ。実は先ほど、国塚洋平さんも亡くなりました」
伊達の手は止まった。
それとともに、何やら冷や汗を流して怯えているようにも見えた。
「やっぱりあの暗号、そういうことだったのか」
「あの暗号?」
「俺は帰らせてもらう。家の方が安全なんでな」
伊達は何かに怯えたように大音楽館を立ち去った。
「ねえ夏、明らかに怪しかったよね」
「とりあえず次行くぞ」
次に話を訊いたのは榎本小花。
彼女は部屋で本を読み、比較的落ち着いている様子だった。
「榎本、話、良いですか?」
「ええ。そういえば先ほど雄叫びのような声が聞こえたんですが、あれは一体なんだったのですか?」
どうやら悲鳴はこの部屋まで届いていたようだ。
「実はその件で話があります。先ほど、国塚洋平さんが殺害されました。その時何をしていたのか、話を伺いたいのですが」
「私はずっとこの部屋で読書をしていましたよ。今みたいに」
「ちなみにこの音楽祭に参加していた五人の中で、能力を有していた人はいますか?
「確か伊達さんと文月さんは能力を有していたと思います。まあでも、この事件には関係ないと思いますが」
最後に呟いた言葉に疑問を抱きつつも、異世界探偵は深々とお辞儀をした。
「分かりました。ありがとうございます」
最後、異世界探偵とかんなは文月蛍佳が案内されているであろう部屋へと入った。だが部屋には誰もいない。
「いないね。どうする?」
「探してみるか。新聞に何度か載っていたから顔は知っているし」
多くの部屋を探すも、文月蛍佳は見つからない。
残るは屋上となり、そこへ行くと、そこでは一人の女性が黄昏ていた。
その女性を見るや、異世界探偵は歩み寄った。
「文月蛍佳さん、話を伺いたいのですが、良いですか?」
「えーっと、もしかして
黄昏ていた女性ーー文月蛍佳は異世界探偵へとそう言った。
誰のことを言っているのか分からず、異世界探偵はポカーンとしていた。
「音浜奏、確か音楽探偵って名乗ってた気がするけど、知らない?」
「音楽探偵さんの知り合いですか?」
「そうだよ。まあ身内が調査すれば隠蔽とかしちゃうかもだけどね、だからきっとあなたを呼んだんだろうね。あいつは」
まるで彼女のことを知り尽くしているかのように文月は話をしていた。
「奏はそういうところあるからな。身内のことになるとあいつは臆病になるんだよ。誰よりも臆病になって、だからあいつは探偵には向いていない」
なぜ彼女の知り合いであろう文月が音楽探偵に対してそんなことを言うのか、異世界探偵は疑問に思っていた。
「私はあいつから唯一の親友だって言われた時は驚いたよ」
けれど彼女の顔を見れば分かった。
「本当はこんなことしたくなかったんだけどさ。それでも私は彼女に甘えてしまった。彼女の性格を利用してしまった」
本当は辛いのだろう、苦しいのだろう。
文月は抱いていたのだろう。
だから彼女は悪いと思いながらも、行動に移したのだろう。
蛍佳は言った。
佳月がまだ届かない真昼の太陽を背景に言った、
私は迷いながらも言った。
しっていたはずだ。
てを取り合って仲直りできたはずだ。
るープできれば楽だったーーけれど現実はそのようにはいかないから。
だが罪からは逃れられない。
だから彼女は言った。
「ねえ、この事件の犯人は……
……私だよ」
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