7、二人の探偵
手詰まりとなった鉄道探偵は、再度殺人現場へと戻った。そこには死体があり、その死体を覗き込むように少女が立っていた。
「おいおい。どこから迷い込んだんだい?」
「おじさんこそ誰ですか?」
「鉄道探偵。今この事件を解いているのは俺であります。ですのでここから離れてくれであります」
鉄道探偵は少女を持ち上げて立ち上がる。そこへ、一人の男が現れる。
その男は鉄道探偵が少女を追い払おうと持ち上げているのを見て、何を勘違いしたのか、男は鉄道探偵へと警戒心を混じらせた視線を送って少女を自らの手の中に掴んだ。
「何者だ?」
「俺は鉄道探偵。この事件の謎を解く者であります」
手にはおもちゃの列車を持っているその姿を見た男は、ひとまず少女を床に下ろした。
その後奇妙な格好をしている男を数秒穴があく程に見つめるや、険しい顔をしてしばし結んでいた口を開いた。
「まじで意味が解らないのだが……」
当然だ。
恐らくこの状況に巻き込まれればこの男と同じことを言う者が何百人と出てくることだろう。それほどまでにこの男は理解できないほどに理解できない格好をしている。
「ではこの事件の謎、先に解いた方の勝ちで良いでありますか?」
「なるほど。それなら話は早いな。犯人はお前、以上だ」
「いやいや。待つであります。俺が犯人はわけないであります」
「どう考えても、こんな事件現場で変な格好をし、そして変な発言ばかりをしているお前が犯人だ」
「いやいや。決め台詞っぽく言われても……であります」
鉄道探偵はやや困惑を隠しきれず、長い間固まっていた。
さすがに犯人ではないと察したのか、男は笑みを浮かべて鉄道探偵へと気さくに言った。
「冗談だよ。疑ってすまないな」
「冗談だったんですね……」
溢れ出る安堵に息をこぼした。
「なあ鉄道探偵、俺は異世界探偵。この事件の詳細を教えてくれるか?来たばかりで状況がいまいち呑み込めていない」
「ああ。分かった」
事件が起きたのは貴族がトイレに立った十分以内に起きている。遺体には心臓が包丁で一突きであった。外傷は他にない。
犯人候補はシェフか秘書のどちらか。
「なるほど。二人の能力は分かっているのか?」
「いえ。二人とも能力のことを聞いたら何も答えてくれませんでした」
「そうか。ところで鉄道探偵、俺たちはこの事件の犯人が誰なのか、それについて察しはついている。恐らくだが、この事件の犯人は戸賀伊万里という変身の能力を持った女性だ。それと見たところ、この包丁は戸賀伊万里が奪った物に間違いない」
心臓に刺さった包丁を見つつ、そう鉄道探偵は言った。
「ではその戸賀が誰なのか、恐らく容疑者の中のシェフと秘書のどちらかだ。鉄道探偵、どっちかに怪しい行動はあったか?」
鉄道探偵は手に持った列車をいじりつつ、上の空で言った。
「うーん。多分だけど、その戸賀って奴は秘書でもシェフでもないと思うであります。だって二人とも仕事には慣れているって感じだったであります。それにシェフって仕事はプロにしかできないし、秘書の仕事も長年そばにいるからこそできるであります。だから戸賀は客としてこの列車に乗っている可能性が高いのであります」
鉄道探偵の推理に納得したのか、異世界探偵は頷いた。そしてこれまでの考えを放棄し、異世界探偵は再度考え出す。
まるで無限に兵力を持っているかのように、謎が一つ現れる度に、矛盾がいくつも生まれていく。まるで素人の作ったバグだらけのゲームのように、難読すぎる問題だ。
「ねえ夏、私、ちょっと頑張ってみる」
悩む二人の姿を見て、かんなは言った。
「ちょ、待て」
がむしゃらすぎるその少女は異世界探偵の声が届く前に事件現場を飛び出した。背中を見届けた異世界探偵は、弟子であるかんなに事件解決への糸口を見つけてくれることを願った。
「鉄道探偵、俺たちは事件の解決だ。ひとまず犯人の目星を……いや待てよ。なあ鉄道探偵、もしかしてなんだが、この男はトイレへ行く前に何か食べたりしなかったか?」
「そういえば……トイレへ行く前にワインを飲んでいたであります。しかも犯人候補であるシェフが出したワインを」
「なるほど。それなら話は速い。だが……犯行を行うには犯行時にいた場所があまりにも遠すぎる」
異世界探偵は解き欠けた答えにつまずいた。
「なあ異世界探偵、もし犯人をあの者と仮定して推理を進めているのなら、この鉄道で最も速く移動できる道を知っているであります。俺は鉄道探偵でありますから」
「ぜひ頼む」
鉄道探偵の話を聞いた異世界探偵は、犯人が誰なのか、その目星がついていた。
「あとはかんながそれに気づいて証拠を持ってきてくれるかだ……。かんなは子供ではある、だがそれを凌駕する程の知識がある。……頼むぞ。かんな」
死んだ貴族の席を、誰にも気づかれぬようかんなは漁っていた。だがそこへ、貴族の秘書である女性が歩いてきた。
「ねえあなた。何をしているのかしら」
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