リモート探偵・黒川進の事件簿 File01 天下茶屋殺人事件

一卍ハヤト

プロローグ

 岩橋弘美いわはしひろみは焦って、ノートパソコンの画面に向かい、『探偵』でキーワード検索していた。

「何とかせんと、好美よしみがやばい。死刑になってまうわ。ええっと、探偵探偵……あ、探偵ナイトスクープ。これに応募して、いやいや絶対ちゃうやん。探偵探偵……え? リモートだから格安? 費用0円より? どういうことなんやろ」

 弘美は『黒川進くろかわすすむ探偵事務所』のサイトにアクセスした。シンプルな画面に、電話番号やらメルアドやら、その他、簡単な説明があったが、中でも弘美の目を引いたのが、『リモートなら格安! 費用は0円より』というキャッチフレーズであった。探偵の黒川進とオンラインでつながることができた。

「こんにちは、こちら黒川探偵事務所の所長、黒川進です。仕事のご依頼ですか」黒川は黒のジャケットの下に黒いワイシャツを着ていた。下のほうは机で見えなかったが、黒いレザー革のソファー椅子に腰かけていた。

「大変なんです。好美が警察に連れていかれたんです」

「好美さんが、ああ、そうですか」

「『ああ』て何やのよ」

「ああ、失礼しました」

「また『ああ』て言うた」

「失礼しました。好美さんというのは、お友達ですか」

「妹です」

「なるほど、ということは、あなたはお姉さんですね」

「もう、当たり前のこと聞かんといて!」

「それは失礼しました。ところで、そちらは、どこですか」

「え? 今、マンションですけど」

「あの、どちらのマンションですか」

「天下茶屋です」

「てんがち?」

「天下茶屋!」

「天下茶屋というのは、何県ですか」

「そんなもん、大阪に決まってるやないの!」

「知らなくてごめんなさいね。ところで、どうして妹さんは警察に?」

芋挙太いもあげたさんが死んだんですよ。ほんなら妹が犯人やろみたいな感じになってもうて」

「もう少し順を追って話してもらえないでしょうか。それはいつの出来事ですか」

「今ですよ、今! 今さっき!」

「ということは、夜の8時前後ということですか」

「そうです」

「場所は?」

「え? 自宅マンションですけど」

「自宅に警察が来たんですか」

「ちゃうわ! 居酒屋に!」

「今、自宅マンションとおっしゃったんで」

「それは今、うちがいる場所や!」

「それは失礼しました。自宅近くの居酒屋ですね」

「そうです。て言うか、1階です」

「そちらのマンションの1階ですね」

「そうです。来てもらえますか?」

「いやあ、今から大阪へは、行けませんねえ」

「ええ!? 来てもらわれへんの? ほんなら、話損ってことなん?」

「いやいや、そうじゃないんです。私はリモート探偵なんですよ」

「あ、そうや。リモート探偵て何なん」

「リモートで事件を解決します」

「言うてる意味がわからんわ」

「わかりますよ、そのうちに」

 そう言うと、黒川進はにやりと微笑んだ。

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