189系で人を喜ばせる方法。

暇な人

1号車1列

 長野県長野市。ここには、JR東日本の車両センターの一つである「長野総合車両センター」がある。長野総合車両センターでは、現在214両の車両が所属しているほか、廃車となった車両の解体も行っている。


 時は遡って2019年、3月28日。

 3月16日のJR東日本ダイヤ改正で定期運用が終了し、引退記念として「ありがとう189系」が運行され、その後長野車両センターの「廃車置き場」と呼ばれる場所で保管されている。


 そして、2021年、現在。

 鉄道ファンの誰もが「解体をされる」と思っていた189系であったが、運用終了から1年と10ヶ月が経過した今でも動きはあったものの、まだ編成すべての車両が解体されていない。













 「ここか」

 高校生である俺らがJRの施設を訪れるのは公開イベントくらいだが、今日はそんなイベントがあるわけでもない。ではなぜ俺ら近隣の高校の「鉄道部」がここに呼ばれたのか。

 校長から聞いた話では、

 「君たち『鉄道部』がJR東日本の長野支社の方々の話題になっているようでねぇ。なんか話を聞きたいって。明日は日曜日で申し訳ないんだが、長野総合車両センターに行ってみてくれ。」

 普段、基本撮り鉄しかやっていない鉄道部が何の用なのであろうか。よく考えてみれば、この前沿線で撮影をしているときに、JRの方に話しかけられて鉄道部の話をしたような気がする。というかこのくらいしか心当たりがない。

 警備員さんに身分証を見せ、事情を説明すると、

「あぁ、君たちか。楽しみにしていたよ。あの突き当りの建物の中に会議室があるから、そこに入ってくれ。」

 



 「失礼します」

ノックをして声をかける。すると、

「どうぞ~。」

と返ってきた。ドアを開けると、中には5人いた。当たり前だが、全員が大人だ。

「君たちが長野高校『鉄道部』だね。歓迎するよ。ようこそ、「189系プロジェクト」へ。

まあ、内容は説明するとして、とりあえず座ってくれたまえ。」

「では失礼します」

俺と後輩は席に腰を下ろす。すると、いかにも一番年上であろう人が口を開いた。

「君たちは、189系N102編成は知っているかね?」

「ええ、部活動でいつも撮影させていただいていました」

「ああ、それは嬉しいねぇ。ちなみにどんな写真を?」

「プロジェクト長、話が逸れてます」

隣にいた作業着を着た女性が声をかけた。すると、先ほどの男性はニコっと笑って、

「おっと、これは失礼。でねぇ、そのN102編成の事なんだが…」

「N102編成って確か、一昨年に運行を終了して今は廃車されたとか」

「ああ、そうだ。一昨年に運行を終了して今は廃車されているよ。”車籍”は、ね」

「えっ?」


後輩は驚いていた。てっきり廃車解体されたと思っていたのに、と思ったのだろう。


「確か、まだ解体はされていませんよね」

「ああ。実はJRの中でも意見が分かれていてねぇ。このまま解体する、という意見もあれば保存するべき、という意見もある」

「なるほど。」

「それで、まずは君たちの意見を聞きたいんだが」

話を聞いて俺と後輩は顔を見合わせた。そして、俺から口を開いた。



「僕たち『鉄道部』は、189系N102編成の保存に賛成します」

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